2話 見えないもの



『ホント第一印象間違えたな…』

顔の汚れを落としながら呟く。

だって仕方ないじゃん!人がいるとは思わないし!


『さて…こんなとこに子供1人。近くに村があるかも知れないな。それとも、俺みたく…』

俺だって人間だ。いつだって最悪を想定してしまう。まぁどちらにしろこの子が起きないと分からないな。


すこし辺りを散策することにした。

どこにいっても木、木、木。ほんと変わり映えないのね、ここ。木を見るのにも疲れふと足元の木の葉を見る。葉は緑から少し赤く染まり始めたような色合いをしていた。そろそろ涼しくなるな、なんて思いつつ元の泉へ戻っていく。


『ッ!何にもねぇ!』

さっきまで鞄や子供がいた筈なのに気配すら無い。

もしかして、ひったくr…いや!まだわからない。誘拐かもしれない。若干の焦りもあったがそこで理性までは失わない。

こう言う時には効くあるおまじないをしっている、俺は落ち着いてその詩うたを口ずさむ。


"かの者は千里まで見渡した。かの者は千里先の助けの声を聞いた。あらゆる者に力を貸し、世界の均衡を守る者がいた。"


これは、詩うたの可能性を信じた者が生み出した力だ。言葉に想いを持たせて自身に新たな力を与える力。

今のは大昔に存在したとされる勇者を基に作られた詩で、視覚と聴覚の強化を行える。


『っし!聴こえる!これだと左から3番目の木からまっすぐに走れば追いつける!』


あとは全速で走るのみ。それしても今日はよく走る日だ…

程なくしてその背中は見えた。後ろ姿は鞄なんだが…ってことはあの少年が盗んだに違わない。

少年は最初こそかなりの速さで走ってたけど、徐々に失速していき追いついた。


『目が覚めて何よりだけど盗みはいかんだろ君。何か訳でもあるのかい?』

相手は子供だ怒鳴っちゃいけない。出来るだけ優しい口調で言う。


『だって、だって…母さんが…病気で危ないんだ。』

少年は泣き出してしまった。


『おいおい泣くなって…』


『まだ死んでないもん!』

違う 亡 じゃないぞ少年。


『落ち着けって…お母さんが病気で薬が欲しかったのかい?』

少年の背中をさする。少し落ち着いた後、少年は俺の鞄を指さした。


『お母さんの病気を治せるって教えてもらって、その花を探していました…でもなかなか見つからなくて、起きたら目の前にそれがあって、つい持っていってしまいました』

さっき取り乱したとは思えない、子供らしくない口調で少年は言った。そして少年の指した先には一輪の紫の花があった。


『少年。今、君はひとりかい?』

思った事を聞く。冷静に考えると、こんな森のど真ん中に子供1人でいるのはおかしい。


『はい…誰もいません』

少年の顔は暗くなり、聞かない方がいい事情があるように思えてくる。でも聞く。職業柄知らないことがあるのは許せないからだ。


『どうしてだい?君みたいな子が一人でいると危ないと思うんだけど』


『それは、…僕が「忌子」だから皆に嫌われてるんです』


『忌子?』

そう聞くと少年は徐に脱ぎ始め背中を見せてきた。


『それって…』

少年の背中には何度も見てきて俺がここにいる原因にもなったあの「刻印」があった。


『僕、生まれた時からこれがあったみたいで理由は聞いたことないんですけど、どうやら不吉なものだからって避けられない続けてきたんです』

不吉なものか…今のところ実害はないからいいものの何かあったらどうなっちまうんだろう。


『つまりはだ、少年は…って面倒だな。名前は?』


『え?あ、バードって言います』


『なるほどバードね。俺はバリード。先程の続きなんだが今君は花を見つけるという目的は達成できたけど、肝心の村が見つからないんだね?』


『はい。この印の通り確かにここでした』

バードの指した木には確かに印が刻まれていた。


『うーん。あ、なんか村の情報とかない?言い伝えとかさ』


『言い伝え…ですか』

数秒の沈黙の後、また呟く


『あ、確か昔から村が襲われることが多くて魔除けのお守りがあるとかは聞いたことあります。外からは入れなくなる感じで』


外から入れなくなる、か。どうやら連中は本気でバードが嫌いらしい。最もらしい理由をつけて帰れなくなる結界の外に出したんだろ。


ふとバードを見る。心なしかさっきより焦っている。


『どうしたバード催したか?まあそんなすぐには方法なんて思い浮かばないさ』


『あ、すいません…今どのくらい時間が経ったかなと思っただけです』

そういえば空が少し赤くなってきている。そろそろ夜が来てしまうのだろう。


『そろそろ夜になるくらいじゃないか?』

そう言うとバードの顔はみるみる青ざめていった。


『早く村に戻らないと!母さんが間に合わなくなっちゃう!』

バードは昨日から花を探し始め、そして今日に至る。普通なら時間制限などないのだが、どうやら2日目の夜には母親に薬を飲んでもらわないと命が危ないと聞いたそうだ。


『って!あと数刻だぞ!どこなんだ村は!』

叫ぶが返事はなどない。

消えた謎を解くため思考を巡らせる。

与えられた情報は、お守り…ぐらいか。どんな力が働いているのだろうか。


この世界の技術は大きく分けて二つある。一つはバードを追いかけた時のような身体に巡る「魔素」というものに働きかけて身体能力もろもろを操る方法。


もう一つはどの空間にも存在する「空素」というものに念じることで形を与えるもの。これはいきなり空中に何かの塊を作れたり出来る感じだ。


憶測だが、村のお守りには魔素の技術が使われているんだと思う。お守りを通して近づく生物の視覚に木の映像を見せて、体を操り近づけさせないという感じで。


『これが正しいとすれば、俺がすべきは視覚を正常にして体の自由を取り戻すこと…待っててくれバードくん、絶対君を帰らせてあげる』

バードはもうどうでもいいと諦めている様だ。

どの詩うたが相応しいのだろうか。あ、あの人のがピッタリだ。


俺はバードに返してもらったカバンから弦楽器をだす。前回は使えなくて効力も減っていたからこれでちょうど良い筈。

ジャララーン。乾いた木材に音が反響し、静かさが増していく


"旅人の目は曇ることはなかった。ただ己が望むことをその眼に写し真実を知る事を望んだ"


とある貴族が周りの噂を自分の目で確認したいがために、旅に出たという話。目にかけられた魔素に干渉し、現実を見ることが出来る詩うた。


唱えたすぐ景色が歪み始めた。あったはずの木は消え、何もないはずのところに大きな柵で囲われた村が出てきた。


『村だ!』


『おいおい…ほんとに出てくるのかよ』

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Bard -世界に嫌われた詩人の物語- @lettytoukoubajaosoi

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