第39話 因果応報
これもまた昔話。確か、中学に入るちょっと前だったと思う。
「ねぇ優ちゃん見てみてー☆ 雑誌の懸賞のハワイ旅行当たってねー! うちの両親大喜びでさー!」
「あのさ、奏星。前から言おうと思ってたんだけど……」
「え? 何? 愛の告白? あたしはもちろんオッケーだよ☆」
「違うって奏星……もう運を使いすぎないで欲しい」
「は? なんでー?」
奏星の運の良さは、はっきり言って異常だ。
すごろくで常に一番良い目を出したり、ポケモンで一撃技(命中率30%)を3回連続で当てて勝ったり、お祭りのくじ引きでゲーム機を当てたり、今回みたいな雑誌の懸賞を当てることまだなんて可愛い方だ。
4択クイズは適当に答えても常に正解。スマホゲームのガチャを回せば常に最高ランクのキャラが出る。などなど。
確率が0.1%でもあれば、その可能性を引き当てることができるのだ。
まだ試したことはないけど、その気になれば宝くじの1等ぐらい余裕で引き当てられそうだ。
でも、そんなのやっぱりおかしい。
「『人の運の総量は決まっている』って話を聞いたから」
「んー?」
「奏星が今のうちに人生の『運』を全部を使いきっちゃったら、大人になったときに悪いことしか起きないんじゃないかって思って」
「な~に? 心配してくれてるの? 優ちゃん優しいー☆」
彼女はこちらの心配をよそに、ケラケラと笑っていた。
「大丈夫だよ優ちゃん。だってあたし、『人の運の総量が決まっている』んじゃなくて、世界はバランスを取るって考え方だし。あたしが幸せになった分、誰か不幸せになって帳尻合わせてくれているはずだから☆」
奏星はそういうやつだ。自分と自分の周りの人が一番大事で、それ以外はどうでもいい。
長い付き合いだけど、そういうところはちょっと苦手だった。
「でもさ……いい事をしたらそれだけいい事が起きるし、悪い事をしたらそれだけ悪い事が起きる。だってそうじゃないと不公平じゃない?」
「それ何だっけ。いんがおほーってやつ?」
「因果応報ね……今は何にも無いけど、いつか奏星自身に今までの幸運が全部吹き飛んじゃうような悪い事が起きるかもしれない。そうなったら、やだよ」
「ふーん? 優ちゃんは、あたしが不幸になったら嫌なの?」
「……当たり前でしょ」
俺にとっては、唯一無二。大事な幼なじみだ。
奏星は少し考えて、「しょうがないな~」とため息をついた。
「優ちゃんがそこまで言うなら、そうしよっかなぁー」
そんなこと言いつつも、たまに商店街のくじで欲しい物を引いてきたりしたけど。
表立ってその幸運を使うことは少なくなっていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「2コストスペル《[R]ラッキーパンチ》。ダイスの目によって効果が変わるカードねー。はい6! 優ちゃんのユニット1体破壊ー☆」
「……くっ」
正直そんな予感はしていたのだが、奏星のデッキはまさに『運試し《ギャンブル》』デッキ。
カードゲームには引き運やカード効果による運も必要な場合もある。
ダイスを振ったり、山札の上のカードのコストを当てたりといったギャンブル要素の強いカードも何枚か存在するが、そういうカードを詰め込んだデッキだ。
このゲームのギャンブルカードは当たり外れが激しいものだ。当たればおいしいが外せば逆に不利になる。
あまりの使いにくさに、教室では外れカード扱いされていた。
だが、奏星が使えばただただ破格の効果を持つカードに化ける。
それだけじゃない。奏星と対面すると、まるで運気が吸われているみたいにカードの引きが悪くなる。
どれだけカードを引いても、まったく状況が好転しない。
「優ちゃん、苦しいんでしょ? このままだとあたしみたいなド素人に負けちゃうよー?」
「クソッ……《[SR]騎士団長-エレーナ》!」
「じゃあそいつに、4コストスペル《[UC]でたらめな指示》。ダイスを振って5なら破壊で6ならこっちの物になるやつね。……はい6! そのカードもーらい!」
「……ぐっ」
苦しい。せっかくのこちらの主力級カードを出しても簡単に除去される。
盤面の数は圧倒的に奏星が有利。こちらのライフはもう僅か。
彼女はまるでその時に一番必要なカードを自由に引けるかのようだ。
これが、奏星の持つ幸運の力か……!!
「あーあ。やっぱり、カードゲームなんてつまんない。前もそうだったもん」
「……前? 前にもカードゲームをやったことがあるの?」
「あるよー。優ちゃんがいないときに、あのお店に行って、優ちゃんのお友達にカードを貸してもらって、やったのよ。でもつまんなかったよ……だって、誰もあたしに勝てないんだもん」
何だって? 奏星があの店で? そんなの聞いたことなかった。
「それで、最後には『お前とやるとつまらない』ってみんな言うんだもん……つまんないのはこっちも一緒だっていうのにねー」
奏星の神のごとき力……絶対的な幸運”。
それはおよそ、カードゲームをする者が持っていてはいけない力だ。
「こんな子供みたい紙遊び、どうせ大人になったら卒業しないといけないでしょ!? こんなただの紙に時間やお金をかけて、そればっかりかT組だなんて制度作っちゃうなんて……本当に、優ちゃんもこの学校の人たちも、みんなバカばっかり」
「それはボクも同意だね――まったく、くだらない学園を作ったものだ」
「あたしと優ちゃんのお話の邪魔しないで」
そうぴしゃりと言われてしまい、黙ってしまった。首謀者の面目が形無しである。
そうだ。その皇浦といえば。
「奏星……嘘だよね? 去年の全国大会で、俺のデッキに細工をしたのは……奏星のわけないよね?」
「あーそんなこともあったねー」
認めて欲しくなかったことを、なんでもないことのようにあっさり認める。
「だって、そうすれば優ちゃんはカードゲームをやめられるって思ったから」
そんな。そんなことって。
怒りのあまり、ダンッと机を叩く。
「俺が、どんだけ苦しんだと思ってるんだよ……!! 俺が、みんなから『
だが幼なじみは何を言っているのかわからない、という風に小首をかしげる。
「だから、あたしが一緒にいてあげたでしょ? あたしがずっと一緒にいて慰めてあげたじゃない。それに、カードゲームなんていつかやめないといけない日が来るでしょ? それにかけるお金も時間も全部無駄じゃない。これは全部ぜーーーーーーんぶ、優ちゃんのためなの。辛いだろうけど、わかって欲しいなー」
「……それは、奏星がそう思っているだけだろう!? そんな身勝手な考え、俺に押し付けないでよ!!!」
「あたしは優ちゃんのためを思って言ってるのに、なんでわかってくれないの!?」
「奏星だって、悪趣味な人形を集めてるじゃん!? 俺からしたら理解できないよ!? 一緒じゃないの!?」
「つまらない紙遊びとあたしの人形たちを一緒にしないで!!」
元々奏星の母親がアニメとかゲームとかそういうオタク趣味を毛嫌いしていて、その影響を受けていることは知っているけど。
ここまで拒否反応を示すのは、絶対におかしい。それだけが原因じゃないはずだ。
「……一体、何が気に入らないんだよ!?」
「優ちゃんが約束を破るからでしょ!? 嘘つき嘘つきー!! もうやらないって約束したのに!!」
「それは……悪かったと思ってるよ!! でも、仕方ないじゃないか!? そうしないと退学になっちゃうんだから!!」
「嘘!! 本当はその女のためにやってるんでしょ!? 聞いたんだから!!」
それは誤解だ。確かに、きっかけは奈津だったけれど、俺は今は……。
でも奏星は聞く耳を持たない。
「その女ばっかり!! 優ちゃんにベタベタくっついて、楽しそうに紙遊びを教えて貰って、仲間だなんて言って貰って、優ちゃんもデレデレしちゃって、ずるい、ずるい、ずるい!!! 優ちゃんの隣は、いつだってあたしだけのものなのに!!!」
「あなたは」
ふいに、ずっと黙っていた奈津が口を開いた。
「あなたも。彼とカードゲームがしたかった?」
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