第20話 銀雪の歌姫

 「はっはっはっはっ! さすがは優馬殿に紙手殿! 素晴らしい腕前だねぇ!」


 「……武束も、よく勝ってるよ」


 「いやいや、優馬殿の作ったデッキが良いからさ!」


 イベント戦も4日目に入ったが俺達は今まで連戦連勝。チームポイントが貯まって行き、報酬でゴールドやパックが手に入っている。

 そのパックを剥いてさらにデッキを強化し、余ったカードは武束が他の生徒たちとトレードしてデッキをさらに強化している。


 いい流れができている。まるでデッキが自分の思い描いた通りに回っている時のように。

 今日も放課後に3人でカラオケボックスに集まってカードの整理やデッキの調整をしていたのだが、ふと、奈津がこちらをじっと見ているのに気付いた。


 「……どうしたの?」


 「デッキ。私も作れるようになりたい」


 「ああ、そうだね……いい機会だし、教えようか」


 今はチームメンバーだが、俺もいつまでも彼女のデッキを作れるかはわからない。

 それに、自分でデッキを作る喜びと、そのデッキで勝った時の喜びを知れたら、彼女ももっとカードゲームが好きになるかもしれない。

 今の彼女のデッキを広げながら解説する。


 「人によって違うとは思うけど……俺は、デッキを作る時に『何がしたいのか』、『どうやって勝つか』を軸に考えているよ」


 序盤からコストの低いユニットやスペルで数で押し切って勝つか、後半まで耐えて高コストのカードを使って勝つか。

 特定のカードの組み合わせのコンボで強力な効果を生み出して勝つか。

 カードプールが広がれば広がるほど、勝ち筋も広がり、デッキ構築の幅も無限大に広がっていく。


 「今のデッキだと、奈津のデッキは相手のユニットを除去していって、その間にユニットでダメージを与えていって勝つプランだよね。ただ、手札消費が激しいから、それらを引き込むためのドローソースで動きを補強して、あとは、デッキ枚数を見てコストバランスを整えて……できたら勝つためのサブプランもあったらいいんだけど……他のパターンだと……」


 ふと、彼女はじっとこちらを見つめていた。


 「……あ、ごめん。一方的に話しちゃって」


 「いい。またあなたに教えられた」


 「……また?」


 首を傾げる。はて、かつてこの少女に何か教えた事があっただろうか。


 「やっぱりあなたは私の……」


 「……え?」


 まっすぐ見つめられて、顔が赤くなる。

 なんと言った物かと思っていたのだが、ふと、武束が俺達をにやにやして見ていた。


 「いやいや、僕の事など気にせず続けてもらっていいんだよ」


 「黙りなさい」


 「はっはっはっはっ! 青春だねぇ。そうだ。休憩がてら歌でも歌うのはどうだい? せっかくカラオケにいるんだしね」


 「歌?」


 「ほらほらっ。マイクとタブレット」


 武束がモニター前に置かれていたマイクと曲を入れるタブレットをひょいひょいと手渡したのだが、受け取った彼女はそれを持ってじっと見ているだけだ。


 「……ひょっとして、使い方わからない?」


 「こういうの。やったことない」


 「……そうなの?」


 「おやおや、カラオケに来た事なかったのかい?」


 「こういうところに来るの。あなたたちとが初めて」


 「そっか……じゃあ、何か、知っている曲はある?」


 「えっと」


 いくつか曲名を上げてくれたが、童謡か合唱曲ばかりだった。

 たぶん、幼稚園とか学校で歌った曲なんだろう。

 俺達の微妙な反応を察したのか、


 「私はいい。聞いているだけにする」


 遠慮してそんな事を言いだした。


 「……いや、いいよ。俺と一緒に歌おう」


 「でも」


 そう言って、タブレット端末から曲を入れ、自分もマイクを手に取る。

 やったことが無いなら、その楽しさもわからない。やってみて初めてわかることだってある。

 でも、初めての事に手を出すのは何事も勇気がいるものだ。

 だから、俺はその手助けをしてあげたい。カードゲームだって歌だってなんでも同じだろう。

 もちろんちょっと恥ずかしかったのだが。


 ほんわかした動揺の曲調に懐かしさを感じながら、堂々と歌い始める。

 彼女も、心なしか困惑した様子だったが、少し遅れて歌いだした。

 綺麗な歌声だった。

 一曲歌いきった彼女はしばらく棒立ちだったが、ふいにデンモクを操作して、慣れない様子で曲を入れた。


 「次これ」


 「……おっけー。いいよ」


 「いやいや、青春だね」


 武束がそんな俺達の様子を見て、妙にオッサン臭いことを言っていた。

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