第19話 イカサマ王の作戦
「4コスト《[SR]ギルドの錬金術師》の効果。あなたの《[R]フレイムタイガー》を破壊する」
「くそっ。まじか」
紙手さん……奈津はほぼ初期デッキ同士の戦いでさえ彼女は高度な駆け引きで相手を翻弄していた。ポーカーで鍛えた読みあい、騙し合い。相手の裏をかき油断した相手の喉元を抉り取るような鋭いプレイング。
そんな彼女には、序盤から終盤まで万能に戦える青のデッキを用意した。
「3コスト《[R]ギルドシーカー》。4枚めくって1枚を手札に残りを捨て札に」
そして、彼女の本領発揮。
「山札は残り20枚。引く確率は20%」
そうつぶやきながら、カードを捲る。
「引いた。4コスト《[SR]ギルドの灯台守》」
「ぐぅ……」
カウンティングという、出た札を全て覚えおく技術を使える彼女にとっては、山札の中など透けて見える。単純な確率計算など造作もないことらしい。
「……どう?」
あっと言う間に試合が終わった奈津に問いかけたが、彼女は小さく頷いた。
「戦いやすい」
よかった。満足そうだ。
「はーはっはっは! 《[SR]四神将ゴランガ》で攻撃だ! 強いぞ! かっこいいぞー!」
反対側に座っている武束も本人曰く対戦にはあまり興味がないそうだが、とてもそうには見えない。
彼には本人希望もあって攻撃的な赤のデッキを持たせているが、滅茶苦茶楽しそうに相手を殴り倒している。
「よそ見しないでよ。『
「ああ、ごめん……」
そうだ。チームメイトとそのデッキの事が気になって仕方なかったのだが、目の前の対戦相手に集中しなければ。
「まったく余裕ね。たった1回寺岡を倒したからって、誰もあんたを認めたわけじゃないわよ」
俺の対戦相手の女子生徒は、ふん、と鼻を鳴らす。
「認めて欲しかったら、勝ってみなさいよ!」
……別に認めて欲しいわけじゃないんだが。
気は進まない。でも、負けるつもりもなかった。
「《[R]王の帰還》! 山札から『王』カードである《キンググラン》を持ってくる! そしてそのまま場に出す!!」
この前までのデッキとは違う。主力カードをサポートするためのパーツも揃っている。
「うっ……そのカード、止められない……!」
「《キンググラン》の攻撃……!」
「うう……降参よ」
ありがとうございました。とお互いに頭を下げる。
「まぁ、なかなかやるわね。次戦う時はよろしく」
「えっと……どうも」
素直に握手を求められて、ちょっと戸惑いながらも手を差し出した。
1日目は、3人とも勝利だ。
「いやいや、優馬殿の戦略のおかげだね。さすがだ!」
「本当にそう」
「いや、大した事はしてないんだけどね……」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時間はほんの数時間前に遡る。
昼休み、武束は教室の隅で別の生徒とひそひそとやり取りをしていた。
しばらく話していていたが、満足した顔でこちらに戻って来た。
「……どうだった?」
「ふふふふ。ばっちりさ」
彼の手には、青と赤のカードを中心に、SRのカードが2枚、Rのカードが3枚。
これがSSRのカード1枚と交換できたのは非常に大きい。
今回交渉役を買って出た武束をサムズアップしてたたえる。
「グッジョブ……!」
「はっはっはっはっ。僕は
満足そうに笑いながらカードを手渡してきた。
デッキを組むにあたって、カードは圧倒的に足りなかった。
あれから俺のゴールドを使ってカードパックを購入したこともあって、CやUCなどの低レアリティのカードはある程度充実してきた。
だがそれ以上のカードはまだまだ足りない。
この前の寺岡との戦いのように、強力なカード1枚で勝負が決まってしまうこともあるが、そんな事はまれだしそもそも試合中に引けなければ意味がない。それならばいっそのことトレードの弾にしてしまった方がいい。
100点のカード1枚より、80点のカードを複数持っていた方が平均点は高くなるだろうという考えだ。
別の人間に強力なカードが渡ってしまうというリスクはあるが、総合的に考えればこちらの方が強いデッキになるはずだ。
もちろん、紙手さん……奈津には了解を得ている。
「あなたがそうした方がいいと言うならそうする」
そう言ってくれたのはいいのだが、なんでそこまで信用してくれるのかわからない上に、責任を感じる。
だからこそ、優先するのは彼女のデッキのパーツだ。
彼女はこのチームのエース的存在。彼女には確実に一勝をもぎ取ってもらいたい。奈津の腕があれば、きちんとしたデッキさえあれば不可能ではないはずだ。
そして、武束と俺の二人でどちらかが1勝を取る事ができればチームが勝てる。
自分の『キンググラン』もトレードに出す事も考えたのだが、さすがにこのカードはパワーが高い分、他人に渡ってしまった時のリスクも高い。
一方で奈津が引いた《ハイドリンネの灯台》は強力だが他に強いカードが入っていなければあまり意味の無いカードでもある。
この戦略で、どうにかいけるかもしれない。
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