第11話 カードゲームの王様

 昔を思い出していた。


 中学の時、学校で『レジェンドヒーローTCG』が流行っていた。

 当時、まだ友達ができなかった自分だが、あれをやれば仲間に入れてもらえる、と思った。

 それで、勇気を出して一人でカードショップに行った時だ。


 『やぁ君! TCGは初めてかい?』


 ちょっと薄暗い店内で、大量に並ぶスターターやパックを前に何を買ったらいいか迷っていたところ、変な大人に話しかけられた。

 恐怖のあまりすぐさま逃げ出そうと思ったのだが、慌てて呼び止められた。


 『心配するな! 同じTCGプレイヤーなら、俺たちは仲間だ!』


 『……な、仲間?』


 『ああそうさ! 仲間だから、困っている君を助けてあげよう!』 


 そう言って何を買えばいいかを教えてくれ、ついでに余っているカードを大量に分け与えてくれた変な帽子と変なサングラスをかけた男の人は、後に『カードゲームの王様』と呼ばれていると知った。

 なんでそう呼ばれているかは知らない。聞いたけど、はぐらかされてしまった。


 『あの人にとっては、カードゲームをやっている人みんな仲間なんだよ。だから君みたいな困っている初心者には、ああやって話しかけずにはいられないんだろうね。逃げられちゃったりする事も多いけど』


 そう言っていたのは、しばらくしてショップで仲良くなった店員さんだった。

 王様の周りには、常に誰かがいた。


 『あ、王様ちッす。新デッキ作ったんで対戦しません?』


 『王様聞いてくださいよ! ようやくあのカード手に入れたんすよ!!』


 王様という割には崇められている感じはまったくしなかった。

 色んな人に話しかけられているし、対戦を挑まれたりしている。


 『もちろんだとも!! そうだ、ここにいるのはユーマ少年だ! 最近始めたばかりだから仲良くしてやってくれよ!』


 『……え、あの……』


 そんな一人一人に、俺を紹介してくれた。


 『おう、よろしくな坊主。中学生か? 学校の友達と始めたのか?』


 『……う、うん。でも、カード買っても、仲間に入れてくれるかな……』


 正直、不安だった。だが王様は俺のそんな不安を吹き飛ばすかのように大きな声を出して笑っていた。


 『そんなもん簡単だ! デッキをつきつけて、俺と勝負だ! って言えばいいのさ!』


 『いや、それはどうだろう……』


 『カードゲーマーなら、絶対にそれで友達になれるはずだ!!!』


 『いやぁ、それができるの王様ぐらいじゃね?』


 優しそうなお兄さんは、苦笑いしながらも俺の方を向いて、声を掛けてくれた。


 『まぁ坊主。友達ができてもできなくても、ここなら誰かいるから、一緒に遊ぼうぜ。いつでも来ていいからな』


 そうやって、気づけば一人ではなくなっていた。

 中学では王様の言う通りデッキを見せたらなんなく友達の輪に入れて貰えたし、学校帰りに年上の人達に交じってカードを交換したり、デッキを組んだり、対戦したりしていた。


 『いつか君も、カードゲームを始めようとして困っている人間がいたら、助けてあげてくれよ!』


 『ルールブックに書いていないことはやっていいなんて考えは持つんじゃないぞ!』


 『イカサマなんてもってのほかだ! 対戦は常にフェアに! 相手への尊敬を忘れちゃだめだぞ!』


 『勝ちたいと思う気持ちは大事だ! だが、勝つだけがゲームじゃないぞ! 楽しまなきゃゲームじゃない!』


 王様はいつもそんな事を言っていた。


 『……王様、俺、大会に出るんだ! 特訓して欲しい!』


 『いいだろうユーマ少年! 私のシゴキがは相当きついぞ!!』


 『はい、王様!!』


 『馬鹿者!! 特訓中は私の事は師匠と呼びなさい!!』


 『……はい師匠!!!』


 他の仲間達からは『何やってんだあいつら』とあきれられていたが。

 大会まで王様にみっちりと特訓をしてもらえたおかげで、俺は初出場にして全国大会優勝を成し遂げる事ができた。


 その後、王様は自分の役目は果たしたとばかりにぶらりと姿を消した。

 噂では、別の地方の店で同じよう事をしているのを見た人がいるとかなんとか。

 結局彼が一体何者だったのか、さっぱりわからなかったが、彼の想いはあの店の仲間達の間で残っているだろう。


 そして。その想いは。


 ……もう捨てたはずだったのだが、自分の中にもまだ、残っていた。


 「……7コスト《[SSR]孤高の王者―キンググラン》をプレイ!!」


 「なにぃ!?」


 緑のSSRの一枚で、味方に裏切られ、傷だらけになりながらも戦い続けた王。

 能力『防護』を持ち、自分よりパワーの低いユニットからダメージを受けず、さらに自分の場が1体だけなら除去耐性を持つ。

 これならば低コストユニットたちの攻撃ならばいくらでも防ぐことができる。 

 コストは重いが、これまでマナを増やしながらギリギリのところで凌いでいたのは、このためだ。


 「な、なんだそのカードは!? お前……パックは買ってないはずじゃなかったのかよ!? なんでそんなカードを!?」


 驚くのも当然だ。なんせ、この教室ではまだ誰も引き当てていないし、一度も見た事のないカードだ。

 抵コスト中心のデッキには、この盤面はどうすることもできない。


 「こおの……『イカサマ王ダーティキング』がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 残ったユニットで一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 だが、その攻撃は届かない。

 王の絶対なる防御力によって、非力な攻撃は全て防がれる。


 「……《キンググラン》でアタック!!」


 一人でも。傷だらけになっても。誇りを胸に戦いの場に戻って来た王の勝利だった。

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