3日目。距離が少し離れた。
朝。昨日彼女と川沿いを歩いてからの記憶がぼんやりとおぼろげになっている。理由はかやの儚い姿に心奪われたのだ。昨日を思い出して自分がかやに恋に落ちたと思った。これからどんな顔して会えばいいんだろう……
昨日の朝と同じように(量はかやが教えてくれたくらいの量に抑えた)朝ご飯を作り、かやを起こす。
まぁ、今日はバイトだから朝から出かける。特に何もないはず。
かやの分のお昼ご飯を用意してバイトに向かう。今日は朝から夕方までだから晩ご飯は用意できてもお昼は用意のしようがないのでお弁当を準備した。
ぼんやりしながらバイトへ行く準備をしていたら突然かやの悲鳴が聞こえた。
「きゃーーーーーー!」
何だろうと思ってかやを見てみると僕を見て絶句している。その様子を理解できず自分を見てみると、かやの前で着替えていた。
一人暮らしの頃の感覚が抜け切れて(さすがに無理があるけど)いなかったようでぼんやりと自分のルーティーンに意識を預けてしまっていた。
「本当にごめんなさい」
さすがにやばいので即服を着ると、土下座した。
「あ、頭を上げてください。こちらこそごめんなさい。あの、大人の男性の裸を見たことがなかったのでつい悲鳴を……」
「いや、僕が何も考えていなかったせいです。本当にごめんなさい」
心なしか距離が少し離れてしまったような気がする……と落胆しながらバイトに向かった。
***
少し遅くなってバイトから帰ってくると家からいい匂いがした。何だろうと思いながら家の扉を開けるとエプロンを付けたかやが出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
なんか、なんか、めっちゃいい。あれ?これ以外に言葉ないぞ?
「ただいま」
「あの、ご飯できてます。あと、あんまり変わってないと思いますけど掃除もしました」
え、何そのありがたさ。神か。めちゃくちゃきれいになってるし。
「だ、ダメでした?」
僕が無言なのを怒っているのかと捉えたかやがしょぼくれるように言った。
「ありがたすぎてなんも言えなかっただけだよ。ありがとう」
「居候の身なのでこのぐらいさせてください」
うーん。なんかやっぱり距離があるぅ……永遠にここにいてほしいくらいなのに。
「あまり無理はしなくていいよ。特に見られて困るものがあるわけじゃないから構わないけど、掃除とかは基本2、3日に1回しかやってないからほんとに無理しないで。居候だからって言って気を使わないで?僕がいいよって言って君がここにいるんだから、好きに過ごしてほしいかな」
かやって心に何か変えてそうな感じだよね。家も決めずに地元から出てくるか?荷物も大してなく、結構身軽だったよ?いつか話してくれるのを待つのが一番なんだけど。
あれこれいろいろ考えつつ、食卓についた。
「いただきます」
「お口に合うといいんですけど……」
とりあえず、一口。
「うまっ」
「よかったぁ」
かやはめちゃくちゃ安心したのと嬉しいのとが混ざったように言った。
食べ終わるとこの間買ってきたピアッサーの存在を思い出した。買った日は疲れていて、昨日はぼんやりしていてピアッサーのことなんて欠片も思い出さなかった。
「そうだ。ピアス開けようようか。買っておいたのすっかり忘れてたわ。お風呂あがってからやるから先にお風呂入ってしまおう」
お風呂から上がるとペン立てからマジックペンと救急ボックスから消毒用アルコールを取り出しピアッサーを用意する。
「そうだ、かや。手鏡とか持ってたりしない?」
さすがに手鏡は持っていなかったのでかやなら持っていそうだと思い聞いてみた。ちなみにかやは結構濃い目のメイクしてるみたいだけどしなくても十分美少女。
「ありますよー。こんなのでいいですか?」
ピンク色のかわいらしい持ちて付手鏡。特に装飾はなくシンプルなデザインの物。
「これで大丈夫。ありがと。じゃあ、耳冷やそっか」
先にかやから開けるため、耳を冷やす。そうすることで痛みが少し軽減されるのだ。かやが髪を括る。うっさらさら……無心無心ここで下心出したらもっと引かれるだけだ。心の中で繰り返し何とか手を出すのを止めた。
次に耳を消毒用アルコールで拭く。その次にマジックペンで位置を決める点を書いた。
「この辺でいい?」
「大丈夫です」
次にピアッサーで穴を開ける。耳にキラキラと光るスワロフスキーが黒髪にきれいに映えた。
「いい感じ。見てみて」
「ちょっと痛いですけど、こんなもんですよね。位置はずれてないですね。すごい」
次に僕がピアスを開ける。髪を括る必要はないのでマジックペンで位置を決めるとかやに開けてもらった。顔に当てられたかやの手が少しヒヤリとしていたなと思っていたらバチンッって音がして瞬間的にピアスが開いた。鏡で見るとペンで位置を決めた通りだったので問題なし。ボールタイプのピアスが耳につく。
「いい感じになってる。ありがとう」
これにて、ピアスは終わり。後は寝るだけ。
僕は課題を少しやってかやより先に寝に着いた。
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