2日目。恋に落ちた。

 朝、目を覚ますと重い頭を持ち上げてどうにか起き上がる。隣の布団にはかやが眠っている。安心しきったあどけない顔で。


 艶やかな髪は朝日に照らされ、光の環を作り出している。ツヤヤカナカミ……は!?一瞬意識持っていかれるところだった。危ない危ない。


 かやのさらさらの髪の毛に触れる一歩手前で意識が現実に戻る。なんかすっごく魅惑チャームされてた気がするんだけど。恐るべしかやの髪。(怖いのはかやの髪に執心してる僕)


 意識が現実に戻ったところで朝ご飯の用意をする。かやが壁側に寝ているので自分の布団を片付けるとテーブルを置いた。


 冷蔵庫の中身を見ると卵、牛乳、バナナ、バターもどき(バターが1/3程使われたチューブの物)と野菜、ソーセージ。冷凍庫にはいつぞやのためにと冷凍しておいたご飯、食べきらないので冷凍保存してあるパン(安売りの時に買いだめしてる)。


 かやは朝ご飯がパン派かご飯派か……どちらでもいいように、パン派ならパンにソーセージorスクランブルエッグを挟んだものと、サラダを用意して、ご飯派ならご飯とみそ汁、目玉焼きと野菜炒めを用意しようと決める。


 <パン派の朝食>

①バターロールに切れ込みを入れる。切れ込みにバターを塗っておくとなおよし

②焼いたソーセージとケチャップを挟む

③割った卵にマヨ、塩、砂糖を混ぜてスクランブルエッグに。ケチャップと一緒に挟む

④てきとうに野菜を用意してサラダに。食べやすいようになるべく小さめにそろえておく


 <ご飯派の朝食>

①ご飯を用意する

②お椀にミソと液体出汁、わかめ、ネギを入れておく→お湯を注ぐ

③目玉焼きを焼く。もちろん半熟で

④てきとうな野菜を炒める


 ――うん。こんなものかな。


「かや、起きて。朝ご飯できたよ」


 眠そうな目をこすりかやが起きる。少し寝癖がついた髪をくくるとかやは首を傾げた。


「朝ご飯がパン派かご飯派かわからなくてどっちも作ったんだ。もしよかったらどっちか好きな方食べて」


 どっちを食べたらいいかわからなくて首をかしげたのかと解釈したからそう言ってみたけど、今度は逆方向に首が傾いた。


「朝ご飯、食べる習慣がないんだけど……」


「エ」


 衝撃な言葉に固まってしまった。


「でも、おいしそう。パンの方もらいます」


 まぁ、いらないって言われなくてよかったと思うけど……結構びっくり。


 朝ご飯を完食するやいなやかやは口を開いた。


「朝ご飯食べる習慣がないからあんまり量が多くてもってちょっと思ったかなぁー。せっかく作ってもらっておいて文句言うの失礼だと思うんだけど……」


「あー、量が多かったのは僕の基準で考えてたからかも。割と食べるんだよね。じゃあ、明日はどのくらい食べれそうとか教えてもらえるとありがたいかな」


 かやは苦しそうな顔でそうするとだけ言った。


  ***


 食べ過ぎたかやが苦しくなくなるまで時間をつぶすと、僕たちは大学まで足を運んだ。今は春休み中で一部の施設しか解放されていないが大学の案内を兼ねて散歩をしに来たのだ。


 事の発端はかやが

「食べ過ぎたから散歩してくる」

 と、言ったことからだった。


「いいけど、道わかる?」


「……わからん!」


 という感じで近所のコンビニや大学までの道のりを教えるついでに大学の施設案内役まで買って出たのだ。


 大学はそれなりの規模のある敷地で、施設数もなかなか多い。たまに迷う人すらいるほどだ。


 桜の舞う川沿いは地面さえ見なければきれいな景色だ。僕はかやだけを見ていた、というより見惚れていた。目が離せなくなっていた。かやの黒髪に時折通りすがる薄ピンク色の桜の花びらが映えてとてもきれいなのだ。桜の吹雪の中くるくると楽しそうに笑い踊るかやはさしずめ桜の精霊かなんかなんじゃないかってくらいに「美しい」と形容するのがぴったりだろう。


 さらさらと揺れる黒髪も、桜の吹雪も何かの演出か、CGかと思うくらい現実離れして見えて。


 ――恋に落ちた瞬間だった。

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