かやとあおいがイチャイチャする話

ゲソフェチ

1日目~1年目:1日目。出会い。

 大学近くの町を歩いていると烏の濡れ羽色の髪の毛に黒曜石のような瞳のキレイな顔立ちをした女の子が話しかけてきた。黒髪とか、黒い目とかで表したくないくらい綺麗で、儚い美少女と形容するのが相応しい女の子だった。


「あの、ここに行きたいんですけど……」


 示されたのはよくあるおしゃれなカフェ。


「えっと?地元の子じゃないの?」


 女の子はなぜか頬を赤らめながらうなずく。


「実は、これから引っ越すんです。というかやけ食いです。引っ越そうと思ったんですが空き家がなくて……」


 ここの近くは大きい大学があるせいか空き家がないそうで、徒歩圏内で探すと全くなく、電車で通う範囲だとあるにはあるが家賃+交通費は負担がでかいとのことだった。僕と同じ大学だと言う女の子の名前は「かや」と言うらしい。丁寧に漢字まで教えてくれた。夏の夜と書いてかやと読むらしい。少し涼しげで蛍の舞う川の情景のイメージなんだと微笑む彼女。


「とりあえず、こんなところで立ち話もあれだからそのカフェ行く?」


 ちょっと顔が赤いかもと、意識しながらカフェへ移動することを提案する。カップルのするようなことだからか少し緊張してる。(彼女いない歴=年齢なので……)年上の余裕って感じで誤魔化しながらカフェまで他愛のない話をしつつ歩いた。


  ***


 カフェは商業施設の中にあるチェーン店で僕はめちゃくちゃメニューとにらめっこをした挙句にカフェオレを頼み、彼女はケーキ2つとシェイクみたいなのを頼んだ。どうやらこのケーキが食べたかったらしいのだ。このカフェのSNSをチェックしてはこのケーキ食べてみたいな、とかあの期間限定おいしそうだな、とかを考えていたらしく、注文に淀みがなかった。


「んー!おいしー!」


 幸せそうにケーキを食べる様子がちょっと失礼かもなんだけどハムスター……w


 住む家がないって言ってたしかわいそうだから家に住んでもらったら?そんな考えが浮かんでもし嫌と言われればそれまでの関係と割り切って聞いてみることにした。


「えっと、もしよければ家に住む?初対面であれなんだけど……」


「まあ、住むとこないですし。まだバイトも決まってないんで住むとこ決まるまでおいてもらえたらありがたいです。それにお兄さん彼女いなさそう……」


 にまにまと笑いながら彼女はそう言い放った。ココロガエグレルオトガシタ。女性に免疫がないにしては少し冗談を言ってもらえるくらいの仲にまでなれたのかな。


 2つあったケーキと甘そうな飲み物をペロっと食べ切った彼女は僕がカフェオレを飲み終わるまで待っていてくれた。


 その後少し商業施設の中を歩き、とある雑貨屋さんに目が留まった。ピアス等のアクセサリーを売る雑貨屋さんらしくちまちました物が多く売られていた。


 その中で目に留まったものがある。小さく揺れる海を閉じ込めたみたいなフックピアスと、紺色の中に小さく輝く光が覘くスタッドピアス。フックピアスの方は彼女に。もう一つはいつかの自分のために。


「ねぇ、このピアスどう?似合いそうなんだけど……あ、ピアスホール空いてないか」


 首を傾げたときにさらり揺れた髪の毛の隙間から見えた耳には傷一つなかった。


「なら空けちゃいましょうか?ピアッサー売ってますし」


「え、いいの?」


 あっさりと言われ目が点になる僕。


「えっと、じゃあこのピアス買ってくるね」


「え、私自分で買いますよ?」


「いや、他にも欲しいものがあるから買ってくる。ここで待ってて」


 ピアッサー4つとピアス2セットを手に持ちレジへ向かう。そう、今日の僕はバイト代がいつもより多いので少しくらいいいところを見せたいのだ。さっき、彼女いなさそうとか心えぐられたからね。


 戻ってくると彼女が、

「ありがとうございます。でもピアスって1か月間空けてもつけられないらしいですよ。だからつけられる日まで楽しみにしますね」

 と言った。


 すぐ付けられるわけじゃないことに少し落胆したけど、つけられる日までの楽しみって言葉にすぐにいなくなるかもという不安は薄くなっていった。


「じゃあ、日用品買い足してから帰ろうか」


 僕が毎日使ってるリンスインシャンプーじゃ髪の毛がさらさらにならないだろうし、食器類も足りないものが多い。布団もないので買わなければならないだろう。少しずつ増やしていく楽しみみたいなのもあるかもしれないけど、住むことろが決まるまで、って約束だからある程度は一気に買ってしまおうと思っている。


  ***


 商業施設をあっちへっこっちへとフラフラして、すぐに必要なものは全てそろえて家に帰ってきた。


「ただいまぁー」


「お、お邪魔します……」


 かやは玄関に入るなり「男性の家に入る」ということ自体に緊張したような面持ちだった。


「ただいま、じゃなくて?」


「ただいま!」


 緊張からか顔を赤くして強めに言うかや。


「おかえりなさい」


 キッチンには食材を、畳んである布団の前には日用品やらなんやらをドサリと置く。


「ふー、重かった。じゃあ、ご飯てきとうに用意するからテーブル用意しておいてくれない?」


 落ち畳み式のテーブルを指さしお願いする。基本的に部屋が狭いので使わないものなどはしまうようにしている。


 今日のご飯はチャーハン。買い置きの味付きぼんじりとご飯、冷凍野菜で作るてきとうofてきとう。それに買い置きの野菜スープを付けておしまい。


「どうぞ」


 自炊の方が低コストだと思ってるので、ある程度はできる。ある程度は。


「明日も休みだから家の中の紹介するよ。これ食べたら風呂入って寝るよ。今日はもう何もしない……」


 僕は食べ終わると食器を片付けて風呂の準備をした。親からの仕送り(家賃と食費が払えるか払えないかくらいのもの)と自分のバイト代もあって、少しだけ広めの家に住んでいる。と言っても、洗濯機が家の中に置けるとか、バストイレ別とかレベルのお粗末な物。築年数は30年をとうに過ぎてるし。


 順番に風呂に入り終わると何かをする気になれず、布団を敷き、横になる。かやもずいぶん疲れていたようで隣から寝息が聞こえる。


「おやすみ」


 その一言を暗闇に溶かすようにつぶやくと僕も眠ってしまった。


 僕と彼女との生活はこの日始まった。

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