最高の初恋相手


それからというもの、5人でつるんで悪さばかりしていた。

まぁ園の規律を少し破るくらいの可愛いものだが、生まれて初めて仲間という絆を知った。


例えば夏になると深夜にコソコソと園から脱走しカブト虫をつかみに行く。集めた虫を小学校に持って行っては同級生に売った、綺麗なツノのカーブを描くミヤマクワガタは高価でペットショップのおやじが引き取ってくれた。手に入れた金を分配し隣町の花火を見に行ったり、ゲーセンに行ったりと。園の規律を破ってはよく先生に怒られていのを思い出す。


4年生から5年生にあがると男の子がひとりまた一人、園から去っていく、

グループはわたしとマキノ、そしてわたしを殴った雄琴だけになってしまった。


雄琴は私たちとつるむようになってから精神が落ち着いたのか、もう誰かをイジメめたりすることもなくなり、学校の成績がみるみる上がっていった。もとから地頭が良すぎたみたいだ、そんな彼にこんなことを言われたことがある。



「あさひは頭がいいのになんで勉強しねーんだよ。」



そんなことは考えたことはなかった、勉強したところで何の得があるかわからなかったのだ。どうせ未来に希望なんてない、成績が上がるからっておばあちゃんが褒めてくれるわけでもない、だから今を楽しむこと以外無意味と思っていたのだ。


当時小学5年生になってもわたしもマキノもまだ掛け算の九九が覚えられてなかった。いや正確に言うと、わたしは九九は語呂でなく、例えば七×七なら、頭の中に7を7つイメージして全て足して答えを出していたのだ。不思議と語呂でおぼえている子供と出すスピードは一緒だったので気にはしていなかったのだが、

それを雄琴に話すと、やっぱりなといった顔で話す。




「あさひ、お前はお前のために勉強しろ。そしたら守りたいものを守れるぞ」


「守りたいものって何だよ!そんなもんねーよ!」


「マキノがいるじゃねーか、お前が引っ張って行ってやれよ。」




雄琴は夏休みの前に園を出ると言い出した、家庭の事情は話さなかったが、海外に行ってしまうらしい。



「おれ医者になる。母さんを奪った病気をなくしたいんだ。」


「そっか…寂しくなるな、雄琴ならなれるよ。」


「あのとき叩いてしまって、ほんとに悪かったな、お前らと一緒にいれて本当に俺、幸せだったよ。」


「バカ!」



私は目を閉じると優しく雄琴が唇を重ねてくれた、甘い初恋もこんな形で終わりを告げる。子供のわたしからは永遠とも思える遠い遥かな地に彼は行ってまうのだ。



雄琴が去り六年生になると、仲間もマキノと二人きりになってしまった、マキノは随分身長も伸び、私より先にお姉さんになっていく。マキノはマキノで園の料理をしてくれているおばさんの所に行ってはその手伝いをしていた。

学校の成績は悪いものの、料理をしている姿はとても輝いて見えた。



なんだかまた一人になった気がしてすこし塞いでしまったときに、私に素敵な手紙が届くそれは海外から雄琴の手紙だった。

中にはドイツ語と英語を同時におぼえるのが大変と書いてあった、特にドイツ語は発音が難しいらしい。頭がパンクしそうで、あのときみたいにバカしたいと懐かしい思い出を綴っていた、そして最後にわたしのことについて書いてあった。



「あさひ、今お前一人ぽっちになった気分じゃないのか?お前にできることあるだろ、頑張ってみろよ!」



右上がりの綺麗な文字に涙が溢れてしまう、すこしメソメソしているとマキノが嬉しそうな顔をしてこっそり玉子焼きをもってきてくれた。

とても上品な匂いと鮮やかな黄色でどこかで買ってきたものかと思い口に入れてみる。いままで食べた中でも最高の玉子焼きだった。



「マキノこれどうしたんだ?」


「うん、おばさんにお願いして作らせてもらったの。」


「えっ、お前が作ったのか?」


「うん、そうだよ。」



私は雷にうたれたようにショックだった、いつも目立たないマキノがこんなに料理が上手いなんて知らなかった。わたしだけなんだか取り残されていく気がして身震いしていまった、そして手にした手紙から声が聞こえた。



「あさひ、お前はお前のために勉強しろ。そしたら守りたいものを守れるぞ。」



守りたいものってなんだろう?この先わたしにもそんな大切なものが出てくるのかな?そう思いながら玉子焼きを食べ終えると、目の前でニコニコしているマキノをギュッと抱きしめた。



「マキノすごいな、わたしも出来ることをしてみるよ。」



教科書を引っ張り出し読み返してみる。そんなとき雄琴の言葉を思い出した。



「教科書は読むんじゃなくて、頭の中で写真をとってそれを絵として見るんだ。」



わたしもそうしてみた、各ページ頭の中で映像として焼き付けファイリングすると、1時間で国語の教科書が頭に入ってしまった。文字でおぼえているんじゃない、目の前に文字が見えているのだ。それから全ての教科書、参考書を記憶の中に入れていく。

そして気がつけば六年生の三学期の通知表の丸は全て左端に寄っていた。



これでやっとマキノと肩を並べられた気がした、従順すぎてどことなく危なかしいマキノのことを「家族」として守っていきたいと思い始めていたのだ。



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かもがわぶんこ


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