あさひのマリア様
かもがわぶんこ
おばあちゃんとの別れ、永遠の友達との出会い。
私は母の顔を知らない、父の顔も知らない。
時々夢に出てくる優しかったおばあちゃんも、今ではそれが血の繋がった肉親かもわからない。
わたしの中にある一番古い記憶をたぐりよせる。
黒い服を着たおばあちゃんと手をつなぎ、長い時間バスに乗り遠くの人の多い街に向かっている。バスを降りてしばらく賑やかな商店街を歩くと、白くて綺麗な建物が見えてくる。
絵本に出てくるような建物の扉をくぐると、神聖な空気の中におばあちゃんと似た黒い服の人がたくさんいる。窓から入ってくる七色の光が幻想的だ。
赤、青、黄色、緑
白い太陽が七色に染まり大きなマリア様の絵を、ほの暗い部屋に浮かび上がらせていた、その中でわたしとおばあちゃんは手を組み祈を捧げている。
お祈りが終わるといつも商店街のレストランで子供のプレートを頼んでくれた。山になったチキンライスの頂上に外国の国旗が立っている。プレートの隅にはかわいいおもちゃがついていて、わたしはそれをせっせとあつめていた。
大好きなおばあちゃんだったのだが、今ではその顔を思い出せない、しわしわで優しく包んでくれた手の印象しか残っていないのだ。
いつものように保育園のお遊びの時間、砂場で友達とママゴトをして遊んでいると、わたしだけ先生に呼ばれた。先生は真剣な顔をしてわたしを車に乗せ、病院に連れて行った。そして冷たい部屋に入ると、白いベッドの上に胸の上で手を組んだおばあちゃんが寝ていた。
おばあちゃんは未来永劫、そのしわしわの手でわたしのあたまを「ぽんぽん」と撫でてくれることは無かった。
私はおばあちゃんが大好きだった。
それからわたしはいろんなお家で過ごすことになった。
わたしのことを愛してくれる大人は、おばあちゃんかマリア様しかいないと思い始め、次第に大人に対して反抗的になっていく。
トラブルが起きるたびに転々と住む家が変わり、やがて聖母子供園という施設に、もう大人に気を使わなくていいと思い清々とした気持ちで入園する。
初日から園の先生とのトラブルになってしまう、懇々と説教されるのだが聞く気は無かった。夜になると優しかったおばあちゃんを思い出し布団の中で泣いてしまう。そんな時はいつも布団を抜け出し園の中にいるマリア様にお祈りを捧げ心をおちつけていた。
ある日、ひとりの泣き虫の女の子が男の子グループにいじめられていたのをボーッと見ていた。自分には関係なかったし、園児も多かったので名前を覚える気も無かった。
男の子が女の子が大切にしているランドセルを取り上げ壁に投げつける、ランドセルの中からバラバラと鉛筆やノートが飛び出し散乱し、女の子が泣きながら拾い集めている。
ランドセルの中に勉強道具をしまい込むとまた、男の子たちがランドセルを壁にぶつけている。
「おい!オメーラ!弱いもんイジメすんじゃねーよ!鼻垂れガキが!」
なんとなくその女の子のことが気になってつい口から言葉が飛び出してしまったのだ、男の子たちのターゲットはわたしに変わり飛びかかってくる。
二人に押さえつけられそして顔を殴られた。
「ぽたぽた」
くらっとして下を見ると床に血が滴っている、鼻からドクドクと赤い血がながれていたのだ。
「女のくせに生意気なんだよ!」
「んっだとてめー!」
その時だった、ランドセルを抱いていた女の子が鬼のような表情で立ち上がりわたしを殴った男の子の肩をギュって掴んだ。
「あ、あ、あさひちゃんをいじめるな!」
「なんだよ!うすのろバカマキノ!放せよ、バカ!」
そうだ、たしかあの子はマキノとかいう名前だったと思い出した、そして男の子はマキノを蹴り倒し再びわたしに殴りかかってきた。
「あさひちゃんは悪くない、だからいじめるな!」
マキノは立ち上がり泣きながらそのリーダー格の男の子の手を掴むと、腕を肩にかけて壁に投げ飛ばしてしまった。男の子は綺麗な弧を描きながら頭を下にして背中から壁に激突する。わたしを押さえていた男の子も一緒にマキノに飛びかかったのだが、あっという間に投げ飛ばされた。
わたしはあっけにとられてしまった、そして呆然としているわたしの前に立ち両手を広げて立ちふさがったのだ。
「いじめるなら、あたしだけにしてっ!」
マキノの言葉にわたしは感情を震わされてしまう、わたしを守ろうとしてくれる人間がここにいることが嬉しかったのだ。
そしてメンツもありリーダー格の男の子が立ち上がりマキノに突進するも、軽く身をひるがえし鮮やかにいなすと、男の子を押し倒し馬乗りになり、何度も拳で男の子の頬をなぐりつけていた。
わたしは、マキノの中に光のような優しさと、そして恐ろしい闇の力を見てしまう。男の子はマキノの怪力のまえに従うほかなく何度も殴られ、恐怖に震えながら大粒の涙を流して許しを乞うていた。
「おい!やめろマキノ!泣いてんじゃねーか!」
真っ赤に光ったマキノの瞳が、茶色い瞳に変わるとブルブルと震えだし大粒の涙を流し自分の手を見ている。私はマキノの肩をポンポンとたたき。男の子たちをを起こして座らせた。
「おい、お前、こんどマキノをいじめたらどうなるか…わかったよな!」
マキノも男の子たちも身震いし、わたしの声を聞いている。ただその場をまとめただけなのだが、いつの間にか私がみんなのリーダーになっていたのだ。
=======================
pixiv内にコミカライズした作品を公開しております、
よろしればごらんください。
https://www.pixiv.net/user/504569/series/81741
かもがわぶんこ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます