3.青井さんは計られたくない

 今日は1時間目から身体測定だ。

 更衣室には同じセーラー服を着た女子ばかり。

 この大沢商業高校(略して大商だいしょう)の制服は男子は学ラン、女子はセーラー服だ。古き良き伝統と言うやつだ。

 短パンをはいてからスカートのホックを外し、いっきに下す。

 上着もホックを外し、ぐいっと勢い良く脱ぐ。そして手早く体操服を着る。

 こういう着替えというのは誰かに見られているわけではないがなんとなく恥ずかしいからさっさと済ます。

 身体測定は回る順番が決められていてクラス単位で行動するようだ。


「わたし今日の朝ごはん抜いてきちゃった!」

「今年こそ身長伸びてると良いな~!」

 なんて身体測定に前のめりな声も聞こえてくる。

「青井さん着替え終わった?行こう?」

 今日も伊東さんは私に話しかけてくる。

 クラスに同じ中学の友達がいないと言っていたし、喋る人をキープしておきたいのだろうか。斜に構えたことしか考えられなくて自分が少し嫌になる。




 身体測定はあまり好きじゃない。

 自分の体型に自信がないから、という訳ではないがなんだか値踏みされているようで苦手だ。

 身体測定の目的は健康状態を把握し、自分自身の体を正しく認識することだってのは分かっている。

 それでも身長が高い男の子がかっこよかったり、女の子は体重が少ないほうがみたいな風潮がどうしてもある。

 人は中身が大事なんて話よく聞くが結局は見た目がそれなりに整っていないとその人を知ろうと思わないし、中身を知る機会なんて永遠にこないじゃないかとすら思う。








「青井さん、どうだった?」

「どうって言われても…普通だよ?」

 B組の身体測定は比較的はやく終わったので教室で自習になった。

 自習という名のお喋りタイムだ。

 リュックに入れていた本を読んでいたが伊東さんに話しかけられてしまった。

「身体測定って数値が細かく出てなんだかショック受けちゃうよね」

「そうかな? 俺の結果用紙見て良いよ。身長伸びてたし!」

 なぜか隣の席の委員長の男の子も話に参加していた。

 名前はなんだっけ? 覚えてないや。

「てか青井さんと話すの初めてじゃんね! 昨日話しかけようと思ったら即効帰ってたし。てか俺の名前分かる?」

「えっと…」

「汐見くん、青井さんにぐいぐいいきすぎ。引かれるよ?」

 汐見くんというらしい。

「ごめんごめん、隣の席だし仲良くしたくてさ! 俺の名前、汐見しおみ いつきだから。覚えといてね?青井さん」

「う、うん」

 笑顔で言われてしまって思わず頷いた。



 伊東さんと汐見くん。このクラスではまだこの2人しか名前は分からない。

 傍から見ても私は愛想良く応対してるわけでもないし、2人とは釣り合っていないだろう。

 なんでこの2人は私に構うのか。中学の頃のことが頭に過って少し頭痛がする。

 早く帰りたい。

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