◆伊東さんは気になる

 中学の友達とクラスが離れてしまった。まさか知っている人が誰もいないなんて思わなかった。

 がっかりしながらB組の最前列の右から2番目の席に座る。

 右隣の子がちらっとこっちを見た。

 私が出席番号2番だから隣の子は1番だ。中学の頃はほとんど出席番号が1番だったから2番というのは少し驚いた。

 なんて名前だろう? 安藤? 伊賀?

 「ねえ、私、伊東って言うんだけど、よろしくね」

 これから1年間同じクラスなのだし自己紹介してみた。

「…よ、よろしく」

 少し待ってみたがよろしくされただけだった。

 え? 名乗らないの? 予想外な対応に動揺して口だけが動く。

「B組に同じ中学の子が誰もいないんだよね~」

「…はぁ」

「ねえ、名前なんて言うの?」

 伊東より番号が前になる苗字が何なのか気になっただけなのに余計なことを言ってしまっただろうか。反応が薄くて不安になる。

「えっと、青井…」

「ただいまより第114回大沢商業高等学校の入学式を執り行います」

 青井さんか。名前は聞けたけど入学式が始まってしまって返事が出来なかった。


 開式の言葉、PTA会長の挨拶、校長の挨拶と式は進んでいく。

 退屈な大人の話が続く中、あくびを嚙み殺して座っている。

 ちらりと右横を見てみると青井さんは――――寝ていた。

 え? そういう感じの子なの?

 初日に最前列ですやすや寝てるなんて度胸があるなぁ。さっき喋った時は大人しい印象を受けたけどそうでもないみたいだ。

 せっかく寝ているし、まじまじと見つめてみる。

 さらさらときれいな黒髪は鎖骨くらいまで切り揃えられている。あ、髪嚙んでる。

 取ってあげたいけど最前列で目立つ動きはしたくないからそのままにして目だけ青井さんに向ける。


 さっきお話した時にも思っていたが、青井さんは美少女だと思う。美人系だとも思うけど、可愛さもあるから、美少女系ということで。

 とにかく同性の私から見ても綺麗な顔をしていると思う。

 このままずっと青井さんばかり見ていても仕方ないから大人しく壇上を見つめる。


「これにて第114回大沢商業高等学校の入学式を――――――」

 閉式のことばを教頭が話し始めた時、青井さんを起こしたほうが良いのかなと思って右隣を見ると、青井さんは何事も無かったかのように真剣な顔で教頭の話を聞いていた。この子面白いな。



 中学の友達は誰1人いないクラスだけれど、少しだけ楽しみになってきた。

式が終わったら青井さんに話しかけてみようと思った。

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