2.青井さんは1年B組

 体育館の入り口にたくさん人が集まっている。

 クラス分けの紙が張り出されてるからだ。私は……B組か。出席番号は1番だ。

 この学校に知ってる人は誰もいないし自分が何組なのかを知ってしまえばあとは特に用もない。さっさと体育館の中に入ることにする。


 まだ席は埋まってなくてまばらに人がいる。

 私は出席番号が1番だからB組の1番前の右端に座る。

 左隣の席は空いている。まだ2番の人は来ていないみたいだ。



 右端に座って正面の壇上をぼーっと見ていると左横でパイプ椅子が軋む音がした。

 ちらりと見てみると同じ制服を着た女の子が座っていた。染めているのだろうか? 肩にかかる髪は少し茶色い。

「ねえ、私、伊東って言うんだけど、よろしくね」

「……よ、よろしく」

 伊東さんはにこにこしながら話しかけてきた。思わず声がどもってしまった。

「B組に同じ中学の子が誰もいないんだよね~」

「……はぁ」

 このまま喋るつもりだろうか。私を見て話しかけてくる伊東さん。

「ねえ、名前なんて言うの?」

「えっと、青井……」

「ただいまより第114回大沢商業高等学校の入学式を執り行います」

 名前を言おうと思ったら入学式が始まってしまった。

 あとでクラスで自己紹介あるだろうし別にいっか。伊東さんもなんとなく私に話しかけただけだろうし、わざわざ式の後に話しかけなくても良いだろう。







「これにて第114回大沢商業高等学校の入学式を閉会します。各教室でホームルームを行うので移動してください」


「A組から順番に移動してくださーい」

 担任の先生に引き連れられてA組の集団からぞろぞろと移動が始まる。

 A組からI組まで8クラスあるから(なぜかG組のあとはI組)全員移動を終えるのは結構時間がかかりそうだ。

 A~D組までは総合科、EとF組は経理科、GとI組は情報科と学科ごとに分かれている。私は総合科だ。


「B組移動しまーす!」

 やっとB組の番がきたみたいだ。

「青井さん、一緒に行こうよ」

「えっ?」

 伊東さんが話しかけてきた。

「ああ、名前? さっきちゃんと聞こえてたよ。これからよろしくね」

「……伊東さん、よろしくね」

 愛想笑いしながら一応名前を呼んでみる。

「……うん!」

 入口に近い、後列の人たちからぞろぞろと移動していく。



「初めまして。B組の担任になりました。坂井さかいです。担当科目は簿記です。1年間よろしくな! 」

「副担任の戸田とだです。担当科目は情報処理です。進路指導担当でもあるので進路や普段の学校生活で悩みごとがあればいつでも相談してね」

 担任は30代くらいの少し髭がある男の先生で、副担任は25歳の若い女の先生だ。

「じゃあ青井さんから出席番号順に自己紹介をお願いします!」

 がたっと立ち上がり後ろを見る。

「はい。青井 若葉わかばです。よろしくお願いします」

「……それだけ?」

 私の1つ後ろの席の伊東さんが不思議そうな顔で見ている。

「もっと好きなこととか、入りたい部活とかいろいろ言って良いからなー」

 坂井先生もこんな短い自己紹介をすると思ってなかったのかフォローを入れる。

 でももう私は椅子に座ってしまったし、次は伊東さんの番だ。

「伊東 希衣きいです。中学はバドミントン部でした。高校では文化系も良いかなって思ってます。趣味は音楽聴くことです。よろしくお願いします」

 坂井先生もにっこりの完璧な自己紹介だ。

「岸 翔太です。──────」

 残り38人の自己紹介も順当に進んでいく。


「はい、じゃあ自己紹介も終わって連絡事項も伝えたので今日はこれで解散です。

明日は午前中が身体測定だから体操着を忘れないようにな。じゃあ今日はここまで。委員長、挨拶よろしく」

「きりーつ! 気をつけー! 礼!」


 委員長は隣の席の男の子が立候補して、そのまま決定した。

 挨拶が終わったらそそくさと荷物をリュックに入れて教室を出る。

 久々に人がたくさんいるところにいたから疲れてしまった。早く家に帰ろう。

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