4.青井さんは文化系

「今日から2週間、入部体験期間になるからいろいろ気になる部に見学に行ってみてください。大商だいしょうは運動部は練習場所が広くて活気があるし、文化部も商業ならではの部活がたくさんあって面白いぞ!」

 帰りのホームルームで坂井先生が部活動について説明していた。

 帰宅部が良かったが、何かの部活に所属しないといけないルールらしい。

 坂井先生の話を聞きながら部活紹介が載った冊子をパラパラとめくってみる。

 運動系は野球部、水泳部、剣道部、陸上部、バスケ部、卓球部なんて王道な部活から薙刀なぎなた部、弓道部、体操部と言った少し珍しい部活がある。

 弓道や体操はともかく、薙刀なんて初めて聞いた。

 棒の先に刀がついてるイメージしか浮かばないのだが合っているのだろうか? しかも薙刀部は全国大会常連の強豪らしい。

 運動系だけ見てもバラエティに富んでいるが文化系はもっとすごい。

 聞いたことのある部活が吹奏楽部、茶華道部、演劇部、書道部、美術部の5つだけだ。

 その他の部活は、コンピューター部、ITリサーチ部、マルチメディア部、ワープロ部、ESS部、ビジネス計算部、簿記部、速記部。

 え? 最初の4つって全部パソコン系じゃないの? いくつも派生していてよく分からない。しかもこのよく分からない部のほとんどの大会実績が全国大会やブロック大会だった。

 元々、文化系部活に入ろうとは思っていたがまさかこんなに種類が豊富で大会実績があるなんて思わなかった。


「はい、じゃあ今日のホームルームは終わるからいろんな部活に行ってみてな! 先生は男子バスケ部だから男子の諸君、ぜひ来てくれよな!」

 ホームルームが終わってしまった。

 どこかに所属しなきゃいけない以上、見学には行くべきだ。リュックに荷物を入れながらどこを見に行くか考えていた。

 この部活紹介の冊子には部活の内容以外に活動頻度、所属人数が載っている。

 土日は学校に来たくないから平日のみ活動している部活にしたいところだ。

 この冊子によると文化系で土日に活動していないのは、ITリサーチ部、マルチメディア部、ビジネス計算部、速記部だけらしい。文化系なのに意外に活動が密なところが多い。



 ITリサーチ部は研究テーマを設定し仮説を検証するためのプロジェクトを立ち上げて活動するPBL(課題解決型学習)を行っている部活。らしい。冊子に書いてあるがなんだか難しそうだ。


 マルチメディア部はパソコンを使って映像、イラスト、音楽の制作を行っていて

この冊子の表紙の大商生のイラストもマルチメディア部の人が描いたものみたいだ。


 ビジネス計算部は略してビ計部と呼ばれているらしい。電卓・珠算(そろばん)のどちらかを用いて実務計算処理をする。と冊子に書いてある。要するにお金の計算ということだろう。


 最後に速記部は速記文字や速記符号といわれる特殊な記号を用いて人の発言を書き記すこと。速記検定を受けたり、競技大会で上位入賞を目指します。と、書いてある。朗読されたことを速く書く。といった感じだろう。


 この4つの中から選ばないと…。

 今のところ気になっているのはビ計部と速記部だ。

 ITリサーチは難しそうだし、絵は描けないからマルチメディアもちょっと無理そうだ。消去法で2つ残った。

 どちらの部も活動場所が同じ棟だから行ってみるか。

 私が今いる1年B組は北舎ほくしゃといわれる棟の4階だ。

 北舎は主に1年生~3年生の教室と保健室、生徒指導室、図書館などがある。ビ計部と速記部があるのは南舎なんしゃらしい。

 入学してからまだ一度も行ったことがない。南舎は3階の連絡通路か1階の下駄箱前を横断して行けるみたいだ。

 3階の通路が近いからそちらから行ってみよう。




 3階の通路を渡り、南舎に着いた。

 南舎は北舎と比べて真新しく、壁や床がきれいだ。そして階段で4階に上がる。

 階段を上って左に2つ教室がある。奥がビ計部、手前が速記部のようだ。

 近しい場所にあって助かった。セットで見学できそうだ。

 まずは奥のビ計部からと思って速記部を通り過ぎようと……

「待った!この先には何もないぜ!」

 通せんぼされた。



「あの私、ビジネス計算部の見学に…」

「この先なにもないよ! ぜひ速記部に寄ってって!」

 どうやら速記部の勧誘のようだ。

 ビ計部の入口で部員らしき人が苦笑いしている。通せんぼしている人以外の速記部らしい人も苦笑いしている。

 このままここにいるほうが面倒だし、ビ計部は後にすることにして、言われた通り速記部の教室に入ることにした。


「ようこそ速記部へ! いま基礎練してるから自由に回って見てってね!」

 会社で使っていそうな少し大きめの机に2人ずつ先輩たちが座っている。速記部の部員数が奇数だからか1人だけで座っている机もある。

 ちょうど基礎練で速記文字という記号を使って五十音を書いているらしい。

 あ、い、う、え、お、と記号が続いているのだろうがどれも同じような形の記号で全く読めない。

「…この記号でね、五十音を書くんだけど最初はさっぱりだったけど続けていると1か月くらいでさらさらっと書けるようになるよ」

 じっと近くの先輩の手先を見ていたら教えてくれた。

 速記文字は日常的に使うものじゃないから新しく覚えていかなきゃだけど

 全員初めてで初心者だから大丈夫だよ。と優しく言ってくれた。




 ……みんな初めて 

 ……



 まだ速記部しか見学していないけど、

「すみません、入部届もらえますか?」






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