第15話本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その七~剣戟娘:断八七志流可の章~

 最初の交錯から同じ構図を描いて止まり、再び僕らは対峙する。

 一度目と変わることなく、たび相対する僕とカルシュルナさん。

 遮えるものなど何もなく、互いのが鬼気が鎬を削り火花を散らす。

 僕と彼女の殺意と闘志がぶつかり合い、不可視の雷光を奔らせる。

 そしてまたしても向けられる、彼女が告げる死の流星。

 その苛烈な一条の眼差しは、否が応でも僕に死を意識させる。

 魂を撫でていく死の感触に肌は粟立ち、全身の産毛が総毛立つ。

 それは途轍もなく心地いい、絶頂を覚えそうになる程の心の昂揚。

 お互いの戦意が滾り、張り詰め、漲った緊張感に包まれながら僕とカルシュルナさんは向かい合う。

 彼女の構えは最初のとき全く同じ。

 嫌、僅かな差だけどはっきりと違う。

 その微かな紙一重の差違に気づくかどうか。

 それが自分と相手、その生と死を境界線を決定的に分け隔てる。

 だからこそ、見極めないといけない。

 死んだら、そこで終わりなんだから。

 そこで、終わってしまうんだから。

 この、心ときめく素晴らしく時間が、

 それを一秒でも永く愉しみ味わう為に、僕はまだまが死にたくない。

 みんなとまたいつも通りに笑い合う為に、僕は生きて帰らなくちゃならない。

 だからこそ、カルシュルナさんを見定める。

 基本の型は初めと同じ。

 だけど、腰は更に深く落とされ重心が低くなっている。

 それでいて、姿勢はやや前のめり。

 後ろに引いた右足は、爪先だけが地面を噛んでいる。

 それに反するようにして、上半身は限界まで反らされている。

 まるで弦が切れる寸前まで、引き絞られた矢のように。

 剣を握る右の手は、たなごころを天に向けて捻り込まれている。

 そして髪の毛一筋たりとも揺らぐことのなく僕を見詰める、カルシュルナさんの瞳。

 次こそが、彼女の本気。

 見惚れている暇なんて微塵もない、おそらく眩い流星。

 僕の生命を穿ち抜く、絶死の一閃が放たれる。

 その瞬間を待ちわびながら、僕もカルシュルナさんに倣って構えを変える。

 彼女の生命を、斬る為に。

 右手の順手に持ち替えし深く握り直した太刀は、最早担ぐというより背負うようにして背中に回す。

 その右腕と交差するように、左手の大剣を右の腰だめへと持ってくる。

 そのまま外へと思い切り身体を捻じり、筋肉で縫い止めた。

 そして僕もまた、カルシュルナさんから一寸たりとも視線を外さない。

 そうして見た彼女は、薄く綺麗に笑っていた。

 それはとっても人間らしい、美しい微笑みを浮かべていた。

 きっと僕も、笑っているだろう。

 果たしてそれは彼女にとって、どんな存在に思えているんだろう。

 ひとに非ざる、ひとならざるものに見えているんだろうか。

 それはまるで自分もひとも喰い尽くす、獣の姿に、映るんだろうか。

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