第12話本幕/柏手の二=花火の巻/爆発娘:フェルメルス・ジェルルド・ローゼンクロイツの章~

「ばーん!」という巫山戯たふざけた声が響くたび、ひとの頭が柘榴ざくろのように弾け飛ぶ。

 それはまさしく悪夢の具現。

 たったひとりの女が見せる、鮮やかに彩られた死の顕現。

 たかが錬金術師が生み出している、惨憺たる修羅場の体現。

「あらあらあらあら、これは一体どうされたのかしら? さっきまでの威勢のよさは、一体何処へいってしまわれたのかしら? もうとっくに、お仕事の時間は始まっていますのよ?」

 そう言葉にしながら、私は自分を囲んでいる連中をぐるりと見回す。

 彼らの敷くお粗末な陣形を見るだけで、その戦術は手に取るように分かってしまう。

 前衛職である剣士や闘士を矢面に立たせて数で以て押し潰してから、後衛職の魔術師どもがその支援と援護を行う。

 そして隙きあらば自分は無傷で頂こうという、卑しく性根の腐った魔術師どもの思惑が見て取れる。

 途轍もなく頑張って好意的に解釈し虫唾が走るのを堪えて最大限に良く言えば、それは基本に忠実な教科書通り。

 でも本音をひと言で吐き捨てるならこんなものは最低、そして最悪。

 視るべきものなど何処にもなく、学べるものなど何もない。

 そこには機知も工夫も独創性の欠片もない、平凡にして凡庸なだけの尋常の極み。

 だから、その形はとっても単純。

 まあ、当座の寄せ集めなんだから当然と当然だけど。

 それにしても、これはちょっと酷いんじゃないかしら。

 前衛、後衛、指揮の順番で、その三枚がぐるっと私を囲んでお行儀良く並んでいるだけ。

 そのどれもこれもあれもこれも、そこら中が穴だらけ。

 何処もかしこもあそこもそこも、みんな揃って薄っぺらい。

 あまりに薄っぺらいものだから、私みたいなはこれで十分という思考まで透けて見える。

 そう見られているのは百も承知。

 そうして侮られるのも委細承知。

 そんなことは全部覚悟の上で、私は戦場に立っている。

 でもだからといって実際にそれを目の前にした状態で、何も感じず思うところが何もないという程に私は達観していない。

 わたしはまだまだ、その境地には達していない。

 それに実を言うとこの陣形と戦術、本当はかなり厄介だ。

 もしも優秀で有能な指揮官に率いられた、ちゃんとした訓練を積んだ本物のひと達に駆使されていたならば。

 私は、此処で終わっていた。

 簡単であるからこそ、明快。

 だからこそ、堅実で強靭。

 単純な解答こそが世界で一番難しい答えであると、私の師も言っていた。

 故に、何ものよりも強いのだと。

 けれどそれは理想であり、現実はこの体たらく。

 ただ何をするでもなく、持っている武器を曖昧に構えているだけ。

 私に刃を向けながら、私から逃げるように距離を取っているだけ。

 そんなことしても、無駄なのに。

 そんな訳だから、私はこんな余計な思慮に耽る余裕があるのだけれど。

 でも、流石にそれももう飽きた。

「あれだけお仕事開始の鐘を鳴らして差し上げたのに、まだ起きない寝坊助さんがいるのかしら。それともそんなことにも気付かない程、あなた達は間抜けなお馬鹿さんなのかしら。まあ、どちらでも構いませんわ。どうせみんな、どれが何だか分からなくなるんですもの」

 そうして私は前へと進む為の最も単純で簡単な答えを、「ばーん!」という掛け声と一緒に真っ赤な解答用紙で提出していった。

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