第11話本幕/柏手の一=チャンバラの巻/その四~剣戟娘:断八七志流可の章~

形としては完全なるカウンター。

 カルシュルナさんが展開する、殺意張り詰める必死の間合い。

 そこへ僕自らが、喜び勇んで飛び込んだいった格好だ。

 まさに、飛んで火に入るなんとやら。

 けれど、その形容こそまさしく僕には相応しい。

 彼女の取る構えは刺突。

 その剣先に目を凝らし、カルシュルナさんを真正面から見据え構えを取る。

 軽く腰を落としてひとつ息を吸って止めた瞬間、予備動作もなく踏み切った。

 そして僕はその剣先一点だけを目掛けて突っ込んで、脇目も振らずに踏み込んでいったんだから。

 眩ましも揺さぶりなんて、詰まらないことはしない。

 定石なら、ここは回り込んで側面から攻めるべき。

 常識でも、身体を左右に振って視線と集中力を逸らすべき。

 だけど、そんな賢い生き方は死んでも嫌だった。

 だから、僕自身もそう思ってしまうくらいに大馬鹿者のやり方で。

 ひたすら愚直に真っ直ぐに。

 カルシュルナさんの、生命に向かう。

 本音を言えばひとつだけ。

 ただ、勝負をしてみたかった。

 あの美しく見惚れてしまう程に苛烈な突きに。

 果たして僕は、勝てるのか。

 僕は果てして、

 自分の生命を六文銭の代わりにしても、確かめずにはいられなかった。

 だから過信ではなく、先手を取れる自信はあった。

 けれど、カルシュルナさんの速さはそんなものを易易やすやすと凌駕する。

 僕の勝手な思い込みなど、粉々に撃ち抜いた。

 先手を取ったつもりが、逆に後の先を取られてしまう。

 だというのに、僕の笑みは一層深く鋭くなる。

 迎撃の位置、角度、そしてタイミング。

 その全てが完璧だった。

 だからこそ、だ。

 カルシュルナさんなら、これくらいはやってのける。

 彼女なら、これより遥かに上をいく。

 突きが放たれる一瞬前の刹那の時間、僕とカルシュルナさんの視線が交錯する。

 彼女の瞳に映る僕の笑みは、恐怖と歓喜に輝いていた。

 そして放ち穿たれる、彼女の必殺の一閃。

 空気を突き破る音すら置き去りに、煌めく流星が奔り抜ける。

 僕に向かって、僕の生命を貫く為に。

 けど、そうは問屋が卸さない。

 カルシュルナさんがどんなに全力で僕に死を告げても、はいそうですかとは受け入れられない。

 ぼくはそんなにいい子でも、素直でもないのだから。

 まるで彼女の気性を現したような、微塵もブレることのない一直線の突き。

 それをこの眼で視るのは

 どれほど素晴らしく凄まじい技だろうと、一度視たなら、避けられる。

 だからこそ、余裕も出来る。

 僕は一瞬たりとも瞬きなどすることなく、迫りくる流星の輝きを目に焼き付けた。

 そして剣先が右の睫毛に触れた瞬間、流れる刃に沿うように首を逸して回避する。

 僕の耳許で皮と肉が裂ける無粋な音と、風を切る美しい音色が重なった。

 彼女の刃は削り取った血の尾を引きながら、僕の背後へと抜けていく。

 そのときには今度は逆に、彼女の上体が覆い被さるように僕の間合いへと侵入している。

 殺し合いの恐怖と歓喜に満ち満ちた、僕の間合いの中へと。

 そうして深く入った彼女の胴を薙ぎ払う為、左の大剣を振るおうとした瞬間だった。

 刹那の停滞もなく遅滞もなく、駆け抜ける流星は横薙ぎの一閃へと姿を変える。

 ああ、

 この流れの逆は初手で視た。

 だったら、その逆も出来るのは当たり前だよね。

 僕は左で振るう大剣の勢いを殺さぬまま、背中から地面に倒れ込むように膝を折る。

 一瞬前まで僕の首があった空間を、カルシュルナさんの刃が一閃する。

 そしてそのまま僕の身体の上の空隙を斬り裂いていく、はずだった。

 今日二度目の驚愕はそこで起こる。

 彼女の刃が僕の首の位置へと到達した、その瞬間だった。

 極めて自然な動作で返さえた手首から、惚れ惚れするような見事な手際で剣身が直角に降ってくる。

 夜闇に奔る流星は垂直の彗星となって、僕の首へと喰らいつく。

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