第6話序幕/柝の二=花火の巻~爆発娘:フェルメルス・ジェルルド・ローゼンクロイツの段~

 陽光の下に一面鮮やかな緑に彩られる夜露に濡れた草原は、鮮血を吸い込み月光に照らされてなお鮮烈な赤一色に塗り替えられる。

 その作業を行っている張本人、フェルメルス・ジェルルド・ローゼンクロイツは夜の散歩にいくような気楽な調子で歩みを進める。

 自主的に無人にしている野を征くことは当然の権利であると無言で主張するように、真っ直ぐに行き先を示すように赤く染められた道を進んでゆく。

 結婚前にウエディングドレスを着ると婚期が遅れると聞いたことはあるけど、一人でヴァージンロード血染めの花道を歩いたらどうなるのかしら。

 いえこんな立っているだけでも靴が汚れるような道、いつどんなときに歩こうと少なくとも良いことはなにもないわね。

 などと至極身勝手でどうでもいいことに思考を割きながら、何も考えることなく周囲の人間の命と肉を花と咲かせていた。

 でもやっぱり一人で歩いても虚しいだけね。今度はしーとニーネの三人で手を繋いで歩きましょう。

 そうだわ、そのときは皆でウエディングドレスも一緒に着ましょう。

 しーは口では嫌がっててもなんだかんで着てくれるのはベッドの上と同じだろうし、ニーネは好奇心が強いからきっと自分から色々なタイプのドレスを着たがるわ。

 二人には一体どんなドレスが似合うかしら。

 オーソドックスかつシンプルなヴェールとドレスもしーの可憐さとニーネの可愛いらしさを十全以上に引き立ててくれるわ。

 しーの国ではシンプルに見えてプロの仕事で素材の良さを最大限に活かしたものを好まれると言っていたし、きっと間違いなく似合うでしょう。

 逆にもっと華やかなデザインでもいいわね。ヴェールだけじゃなくヘッドドレスも付けたり、ドレスにもコサージュやスパンコールいっそダイヤモンドとかの宝石類もふんだんに使って装飾して綺羅びやか仕上げて、スカートもフリルやドレープ思いっきりあしらったふわりとボリュームのある裾の広いタイプなんかも素敵だわ。

 しー本人はいつも謙遜するけど剣士なんだもの、歩く動作一つとっても立ち振舞に凛とした美しさがる。

 ドレスの華やかさに埋もれることなく、寧ろ普段から着ているような全く違和感のない自然さで着こなしてみせるでしょう。

 ニーネも普段はそういったことには無頓着に見えてどこか仕草に気品がある。

 そんなニーネが華やかで綺羅びやかドレスを身に纏えばなんて足下にも及ばない、まさに毅然として愛くるしいお姫様そのものになるわ。

 それとも以前見た最早花嫁の貞淑さなど微塵も存在しない、娼婦でも着ないような布面積の少なさにおいては下着とほぼ変わらない。

 かろうじてヴェールとブーケの存在だけが、これがウエディングドレスであるここの証明としたデザインにこの機会を存分に利用して、どうにかにして着てもらえないかしら。

 もちろんこれはかなり難易度の高いチャレンジになるけれど、それ以上の価値はある。間違いなく。断言出来る。

 ショーツとブラを着用するのはまあ仕方ないとしてここは妥協しましょう。

 そこに下半身は膝上まであるオーバーニーソックスや太ももまで届くサイハイソックスを履き、ガーターベルトで固定する。

 スカートは身に着けないなので腰から下はそのまま全てが丸見えになるとうエキサイティングかつエクセレントだわ。

 上半身はブラの他はコルセットね。これが腰とお腹のくびれのラインを美しく見せるとともに、引き締められた下腹部により胸がより強調されるという相乗効果まで生み出すなんて素晴らしくて秀逸だわ。

 そこにアクセントとして短いケープやショールを羽織るのもたまらないわね。

 あとは腕の長手袋も外せないわ。これがあることによる視覚的効果は計り知れないわ。

 そして頭部を覆うヴェールとそれを飾るティアラによって最終的な完成をみると言っても過言ではないわ。

 言うまでもなく色は眩しいほどの純白。

 明らかに異性を、誘っているとしか思えない妖艶で扇情的な姿でありながら、純潔の証であることを示すウエディングドレスであるとう相反する要素が生み出す背筋がゾクゾクするような背徳感。

 そしてあえて肌を隠すことにより逆説的によりエロティシズムを感じることができるなんて。

 私の好みとしては露出は多いに越したことはないのだけれど、恥じらいがより劣情を煽り高めるスパイスとなることについては理解しているのだし、それには一も二もなく賛成するところだわ。

 しーはきっと真っ赤な顔をしながら無駄な抵抗と知りながら、それでも少しでも自分の肢体を隠そうとモゾモゾとその体をくねらせるいる様子が容易に想像できる。

 ニーネの場合はしーとは逆に、新しい服を着る喜びを全身で表現していつも通り無邪気に駆け回りながらその幼気で瑞々しい肢体を余すところなくみせてくるでしょう。

 少女にだけ許されたまだ性を意識することのない瞬きのような時間。

 その無垢なる純真さが淫靡と純潔という矛盾する要素を持つことによりエロスの一つの極地として具現化した衣装を身に纏うことにより、ただ心のなかの劣情と興奮を極限まで高めるだけではなく、それ以上のもしくはそれ以外の尊さや崇高さといった境地まで垣間見ることができるかもしれない。

 ああ、想像するだけで涎が溢れてしまうのを止められわ。

 

 まさかそんな人間がいるなんて思いもしなかったろう。

 自分たちを電子レンジに入れた卵よりもお手軽に爆破している女が己の煩悩と妄想に塗れた思考に溺れたまま、だけに過ぎないと。

 並列ではしらせている思考が機械的に判断した結果によりと。

 何も考えずにひとを殺せる、殺したことを何とも思わないがいるなんて。

 そんな昨日の朝食のメニューよりも顧みれることなくとは露知らず、派手は音が響くとともに草を濡らす夜露に混じり誰かも分からなぬになっていった。

 

「あら、今迄と変わったわね」

 そうフェルが呟いたのは自分の想像と妄想にある程度区切りがつき、結局実際にこの眼で見ないと本当の満足は得られないという結論にいたったときだった。

 その間自分がなにをしていたのか知っているいるし分かっているが、何も感じていないし思ってもいない。

「ようやく話がまとまったのかしら?」

 今迄は指揮系統が混乱していて上、何とか指揮命令者と連絡を取りかいつまんで状況を報告をした。

 最初は驚きつつも半信半疑だったが、結果的に受けた指示は”その場で何とかしろ”という聞くまでもないものだった。

 そう、目の前にいるのはなのだ。戦場で遭遇する確率など限りなくゼロに近い。

 その理由も知っている。

 その錬金術師が自分たちを虫けらのように虐殺しているのだ。

 それも身体そのものがが爆発するなどという、原因も対処もまるで分からない手段で、だ。

 そこまで知っているならあと一歩踏み込んで考えるべきだった。

 そんな錬金術師が何故此処にいるのかを。

 どうして戦場に、その最大にして最低限の理由を。

 目の前で恍惚の表情を浮かべながら人間を爆破しているのが一体を。

 やはり彼らには、想像力が決定的に足りないのかもしれない。

 なぜならそれこそが、彼らの無為な死を決定付けたたようなものだからだ。

 好奇心は猫だって殺せるが、想像力のない者は勝手に死んでいく。

 当たり一面に広がる地面の染みと、散らばるごみがこれ以上ない例だった。

 しかし、ここからは違った。

 奇襲からの混乱からようやく抜け出し、散発的にあがる報告から状況を把握し対処法が立案される。

 予備の指揮系統が機能を始め本陣からの指示が伝達される。

 それは即物的な対処療法に過ぎないが本格的な反撃のための時間稼ぎくらいにはなると的本陣は

 要はその場の生き残りをかき集め、前衛と後衛、指揮官を揃えた即席の部隊を小隊規模で編成する。

 それを敵の、この場合はフェルの周囲を囲むように、いくつも配置したのが現在の状況であり、急ごしらえで立てた敵の行動プランだった。

「なるほど。ここからが本番というわけね」

 そう言ってだらりと下げていた両手をピストルの形にして正面に向け構える。

「ではあなたたちも枯れた人生、最後に死に花一輪咲かせ差し上げあげますわ」

 その言葉が終わるのを待たず、の前衛が四方八方から突撃を開始した。

 その様を眺めて溜息をつきつつ、「積極的なのはいいけれどせっかちなのはいただけないわ」と余裕をもって呟いた。

 そしてという、弾ける風船よりも軽い死の宣告が小さく高く鳴り渡る。

 その瞬間と大きく派手な音が響き渡り、向かってくる者一人残さずその頭部を吹き飛ばし、宣告通りの死を与えた。

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