第3話怪獣人間:ニーネの記録/1

 わたしニーネは怪獣人間である。

 誰かに名前を聞かれたら堂々とそう名乗りなさいとフェルは言っていた。でもその後すぐにしるかが「怪獣人間はいらなと思う」とというのを入れていた。

 突っ込みって何かものを無理矢理するときの動きをあらわした言葉だと思ってたけど、違うのかな。

 それともわたしが思ってるのとは違う隠された意味があるのかな。

 突っ込みを入れるって結局を入れるんだろう。

 さっきはしるかがフェルに話しかけただけで、何かを入れてるようには見えなかった。

 この後わたしがどう自己紹介で名乗ればいいのか、フェルとしるかの三人で考えることになった。

 だから結局突っ込みが何なのかこのときは分からなかった。

 前にフェルとしるかが夜中にちょっぴり見たことある。

 次の日二人には何してたのって聞いたら、二人ともなんだか

 首を振ったあり、手を上下に動かしたり、急にラジオ体操を始めたりして、いつもの二人と全然違ってた。

 でもしばらくしたら二人とも変な動きは止まった。そして大きな深呼吸の後にわたしを向いた二人の眼は、いつものフェルとしるかの眼だった、

 しるかはちょっとだけ屈んで目の高さを真っ直ぐわたしに合わせた後、優しく頭を撫でてくれた。

 そのまま頭を撫でながら「ごめんねニーネ。今は教えてあげられないけど、ニーネが大きくなったら必ず話てあげるからね」って困ったような、恥ずかしそうな、わたしに謝った。

 そのときのしるかはすごく優しい眼をしてたけど、その奥に悲しさと悔しさがあるのをわたしは見付けた。

 なんでそんなものがあるのか分からなっかたけど、それはわたしにじゃなくてしるかが自分自信に対して思っていることだというのはなんとなく分かった。

 そしてしるかがわたしに言ってるのはすごく伝わってきた。

 だからわたしはしるかにそんな顔をして欲しくなかったし、そんな眼を自分自身に向けて欲しくなかった。

 それでしるかに精一杯明るい声で「わたしいますぐ大きくなれるよ」と言うのと同時に

 「待って待って。そんなに急に大きくならなくていいから」と今度はほんとに顔でわたしの肩を押さえて、光って少し熱くなった背中をさすってくれた。

 「ニーネはゆっくり大きくなればいいんだからね。世界中にある楽しいことや面白いことを全部やっていいんだから。それを邪魔する奴は誰だろうと何だろうと

 とっても穏やかで温かい喋り方で、そんなすっごく嬉しいことを言ってくれた。

 だからわたしもしるかたちのために何かできるようになりたかった。

 「でもわたし早く大きくなってしるかたちの役にたちたいよ」

 「大丈夫だよニーネは今でも十分僕たちの力になってくれているよ。ニーネは焦らず自分のペースでいいんだよ。僕たち三人でいればなんてにないからんだから」

 そう言ってもう一度優しく頭を撫でてくれた。

 そのときふと前にも同じ様にして誰かに優を頭を撫でてもらったことがあったような気がした。

 でもそんなこはあるはずない。これが錯覚と勘違いだって

 わたしはんだから。こ何かが残ってるわけないんだから。何かがあったことだって

 だから今こうして頭を撫でてもらえる。その優しさと暖かさだけがわたしにとって大事なことだっった。

 「うん、分かった。ありかとうしるか。わたしはわたしのペースで大きくなるね。それにきっとすぐに追い越して大きくなってそして二人を守ってみせるから」

「う、ん。そうだ、ね。ありが……とうニーネ」

 そう言ってしるかは絡み合った綾取りの糸みたいな表情でわたしの頭から手を離して立ち上がった。

 そしてそのまま横を向いたので、つられてわたしも同じを見る。

 そしたらそこでフェルが

 そうして涙を流しっぱなしにしながら、「大丈夫、大丈夫よ」としるかに謎の言葉をかけながら肩を叩いていた。

 しるかはその手を邪魔そうに払いながら「別に何とも思ってない」と素っ気ない顔で答えた。

 「そう?そうね、そうだよね。んおしゃべりしていたんですものね」

 そう言うフェルの表情はさっきと全然変わってて、それでも涙は流しっぱなしのままとっても面白そうなニヤニヤとした表情でしるかの顔を眺めてた。

 そんなしるかは耳の先まで林檎みたいに真っ赤になったでそっぽを向く。

 になるとあんな器用なことができるようになるんだ。

 そんな風にへのになったときのことを考えているときだった。

 しるかのことを涙を流しながらニヤニヤ眺め続けていたフェルがようやくハンカチで涙を拭いた後、今迄喋らなかった分を全部を吐き出すみたいに思いっきり大きな音を鳴らした鼻をかんだ。

 「あんな大人になっちゃだめだよ」といつもの顔色に戻ったしるかが耳元でそっと教えてくれた。

 涙と鼻水とついでに涎も拭き取ったフェルがさっきまでのしるかとは何かが違う顔の赤さでとても活き活きと喋りだした。

「確かにしーの言うことは多数の理にかなっていると私も思うわ。何でもかんでも考えなしの無制限に与え教えるのは愚の骨頂、かといって逆にあれも駄目これも駄目と全てを取り上げ何も教えず蓋をするなんていうのは浅薄極まる思考停止に他ならない。

 そもそも私たちが管理するなんてそんな大それたことを言うつもりは毛頭ないわ。

ちゃんと一人の人間として向き合い話し合うの超基本の大前提。

 ただそのうえで自分の望む正しい道を歩んで欲しい。そのために間違った道や悪い道に進みそうになったとき、もしくは道から外れそうになったとき、私たちがそっと手を引いたり言葉をかけたりして本来進むべき道に暗に導いていく。

それこそが私たちの務め。やりたいことは思いっきりやらせ、いけないことはしっかり教える。そして叱るべきときにはちゃんと叱る。

そうして陰ながら成長を見守るというしーの考え実に素晴らしいと思います。ハラショーです」

そうして一息に喋り続けるフェルの言うことはわたしにはほとんど分からなかったけど、しるかは「いや、それこそそんな大それたこと考えてないし。それにまた妙な語彙が増えてるし。話を理解する前に言葉が合ってるかどうかが気になってしょうがない。それにこれはどう見ても興奮してる」

 なんてひとり言を呟いてる。そうしてる間もフェルの話は止まらない

 「でも私はまた別の考えがあると思うの。いつか知ること、知らなければいけないことならそれを教えることに早すぎるなんてこはないんじゃないかと。

 そうそれこそがまさに愛。人と人の、人ならざる者同士の、ときには人と異種族の間において最も大切なものの一つ、いえ、最も大切なものだと言い切ってしまっても過言ではないわ。

 それはとても素晴らしく美しいものだわ。それは異性間での繋がりにおいては当然のこと、それと同様に、いえ、もしくはそれ以上に尊く崇高なもが同性間での繋がりには存在すると私は思うの。

 これはもちろん私の私見だけど本能からの脱却にこそ意味があるとか、非生産的な交際に価値がないとかそうことは関係ないの。

 何故なら愛とは始めから自由なものなのだから。そこに意味だの価値だの持ち出した時点で家畜の生産と買わらないわ。

 愛の交わりってそういうものじゃないと思うの。肉体同士の結びつきがお互いの愛を確かめ深め合うのと当然として、さらにそれは二人の精神をひいては魂を――」

 のおとなっぽくて、困っている時助けてと言う前に必ず助けてくれるそんなフェルのことは大好きだし、いつもいろいろなお話をしてくれて、そのお話を聞くのも好きだ。

 でもこの話は止まらないしさっぱり分からない。それに喋れば喋るほどフェルの顔は赤くなるし、息も荒くなっていって、眼はもう少なくてもわたしたちを見ていない。

 「ニーネ向こうでお茶でも飲みながらお菓子をべようか」

 そんなときしるかがとってもお誘いをしてきた。

「うん、お菓子食べたい。でもフェルはどうするの?」

「このまま放っておこう。しばらくすれば我に返るはずだよ。僕たちもとっくにフェルなにを言ってるのか分からないし、そろそろ本人も自分が何を言ってるのか分からくらなく頃だろうから」

 フェルとしるかはわたしと会う前から一緒にいた。そのしるかがそう言うならきっとそうなんだと思う。

 それにフェルがああいう風になるのは初めてじゃないし。

「じゃあ大丈夫だね。早くお菓子食べよう。何があるのかな?

「確かクッキーやチョコレートがこの間会社にたくさん届いていたし、ほかにも色々あったと思うよ」

 そんな話を聞いたらもうお菓子のことしか考えられなかった。

「早く行こうしるか」

「大丈夫。そんなに急がなくてもお菓子は逃げないよ」

 わたしはしるかの手を引っ張るようにして隣を歩く。

 本当はお菓子向かって駆け出したいくらいだけどそれはとして我慢した。それに肝心のお菓子が何処にあるのかわたしは知らない。

「お茶はどうしようかな。いつもはほうじ茶だけどフェルが何か珍しい紅茶があると言ってたし今日は紅茶にしようかな。ニーネは何がいい?」

 わたしはいつも甘いジュースだけど、こういうとき決めつけないでちゃんと聞いてくるのがしるかだった。

 それに今日は少しに挑戦してみようと思った。そしてこういうときが何て答えるかちゃんと予習と練習済みだ。

「わたくしもおなじものをいただけるかしら」

 練習した通りに答えたけどやっぱりなんだかぎこちない。鏡との練習じゃ限界があるのかなぁ。

 でもしるかはそんなわたしの答えをしるかは笑ったりしなかった。

「かしこまりました。麗しの君フェア レディ

 そのお芝居みたいな台詞とそれがびっくりするくらい似合ってて一瞬息が止まりそうになった。

「さ、早く行こうか。じゃないと誰かが全部食べてしまうかもしれない」

 さっきと反対のことをいいながら、さっきと同じくらい真っ赤な顔で少し早足で歩き出すしるか。

 それでもちゃんとわたしがついていける速さで歩いてくれる。

 そんな優しくて格好いいしるかのことももちろん大好きだった。

 

 あとでうちの会社の社長さんにこの話をしたら「まるで教育方針で揉める夫婦そのもにね。ちょっと変わっているけど」って言っていた。

 社長さんはいつも綺麗でお洒落で柔らかな感じだけど、お仕事のときはいつビシッと決まってた。

 これが本物のなのかなと何となく思った。

 フェルにしるかに社長さん。

 わたしはになるんだえろう。

 になれるんだろう。

 


                         ◇◇◇◇◇


 作戦開始の時刻になったのと同時に肉と金属が一緒に斬られる音がして、ちょっと遅れてドカンと大きな音がした。

 さっきの通信で言ってたみたいにフェルとしるかの二人とも自分の仕事を始めたんだ。

 今日のわたしたち三人のお仕事は悪いことをしようとしてる奴らを、悪いことをする前に倒すこと。

 悪いことをする奴は悪い奴に

 誰かを傷つけたり、痛いことをするに

 絶対に倒さないといけないんだ。

 みたいに。あのとき自分が

 爆発と金属音がどんどん激しくなってくる。

 わたしも自分の仕事をしなくっちゃ。

 わたしの仕事は遊撃。悪い奴らのなかに飛び込んでぐちゃぐちゃにかき混ぜてフェルとしるかの仕事を楽にすること。

 そっかこれがなんだと急に理解できた。

 思い出してみれば突っ込みって何なのか考える前にしるかの言葉がだとわかってた。

 なんだ最初から答えは分かってたんだ。もしかしたこなことって他にもあるのかもしれない。

 でもとりあえず喉に刺さった魚の骨が取れたみたいにスッキリしてよかった。

 そして思いっきり全力の突っ込みを入れるために、悪い奴らの群れに向かって走りだした。

 あのとき三人で考えた自己紹介を堂々と名乗りながら血風渦巻く修羅場へと飛び込んでいった。

 わたしにニーネは怪獣人間である!

 そしてフェルメルス・ジェルルド・ローゼンクロイツと断八七志流可たちばなしるか、大好きな二人の仲間である!

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