第10話 強くなるために
翌朝、俺にしては珍しく朝の5時半に目が覚めた。
凪の機嫌を直すため本気の朝食づくりに向かおうと布団から出ようとしたら、凪が横で寝ていた。
俺が布団をめくったことで凪も目が覚めたのだろう、俺と目があった。
とりあえず見なかったことにして、俺は急いで朝食をつくるべく台所へ向かった。
俺が焼き鮭とか卵焼きとか作り終わって並べているところに、凪が気まずそうに入ってきた。
無言なのもあれだったのでとりあえず挨拶することにした。
「お、おはよう。」
「...おはよう、今日は早いのね。」
挨拶は帰ってきたが、めちゃくちゃきまずい。
どうしたもんかと思っていると...千鶴さんが起きてきた。
「おはよう二人とも。
いい匂いにつられてしまって目が覚めてしまってな、もうたべていいか?」
「もうできてるんでどうぞ食べてください。」
「じゃあ、私もたべようかしらね。」
千鶴さんが昨日何事もなかったかのように飯を食べ始めてくれたので、さっきまでの微妙な雰囲気はうやむやになった。
そのままいつも通り飯を食べ洗い物をして、朝の身支度をして学校に向かった。
学校に向かっている途中に朝のことについて聞こうとしたのだが、俺は聞くことができなかった。
なんだか微妙な空気のまま学校に着いたのだが、席についたときに服部から少し言われた。
「おいおいシノ、凪ちゃんとなんかあったのかよ?
なんかお前ら変だったぞ。」
どうやら周りから見てもなにか違和感を感じるレベルのものらしかった。
どうして説明したものかと思っていると...絶対に学校で見ることはないだろうと思っていた人物がやってきた。
「諸君おはよう。出張で学校を空けることになった後藤先生に変わって本日より赴任してきた、散千鶴というものだ。
私のことは鶴先生と呼んでくれ。 今日からしばらくよろしく頼む。」
なんでこんなところに、この人が....
後ろにいる凪の方をちらりと見てみると、凪と目があった。
凪はこちらを見て少し笑っていたが、俺も少し笑ってしまった。
多分彼女と俺は同じような表情をしていたのだろう。
「そこの笑いあっている二人、一時限目の授業が始まる前に私のところへ来るように。」
...呼び出しを食らってしまった。
言われた通り授業の始まる前に千鶴さんのところへ向かった。凪と一緒に。
廊下へでるとまっている千鶴さんの姿が見えた。
そこにむかうと小声で話し始めた。
「驚いただろう?二人とも。鑓原に無理を言ってな、この学校の教員にさせてもらったんだよ。
これも一か月の間に君たちを強くするために必要なことだから、よろしく頼むぞ。
あと、私と君たちの関係を知られるわけにはいかないからそこらへんばれないように頼むぞ。
それとこれ、これから学校にいるときは、絶対にこれを腕と足に一つずつつけて生活してくれ。
それじゃ、今日も一日がんばってな。」
そういうと俺たちに四つずつリストバンド型の重りを渡して、職員室に帰っていった。。
「これつけて生活するのは確かに有効だと思うけどよ...これ一つ2kgって書いてあるんだけど。」
リストバンドをみると2kgとかいてある。
これ四つつけて授業受けるの流石にきついだろ。
「今の私たちにはこれぐらい必要ってことでしょうね。
鶴さんも学校にきてるわけだし、私たちの戦力アップはそれだけ重要ってことよ。
つべこべ言わずやるしかないわよ。」
そういうと凪は黙っておもりを付け始めたので、俺もさっさとつけて教室に戻った。
授業開始前に席についたのだが、また服部が絡んできた。
「おいおいシノよぉ。さっきまでぎくしゃくしてたと思ったらおそろいのリストバンドつけて帰ってくるとかなんなんだよ。
お前らまじで仲良すぎじゃないか。」
もう返事するのもだるいのでシカトを決め込むことにした。
ふと凪の方を見てみると、俺と同じ内容をきかれているのだろう。
周りのやつらから何やら話しかけられているのが見えたが、俺と違ってにこやかに話しているところが見えた。
そこから普段通り授業を受けたのだが、おもりのせいで中々ハードな一日だった。
千鶴さんの授業の時だけおもりをこっそり増やされたり、まじめに授業を受けていないと弾丸が飛んできたりした。
弾丸はまじでやばいでしょ。まじで。ほんとに。
銃を出したところを誰にも見られていないのは本当にすごいと思うが。
そんな感じで一日過ごし放課後になり、最速で凪と一緒に帰宅した。
最速で帰宅をしたはずなのに..千鶴さんが既に家にいた。
「さて特訓開始だぞ、二人とも。」
「いやおかしいでしょ。なんでもう家にいるんすか。
教師の仕事色々あるでしょうに、なんでさも当然のようにもう家にいるんですか?」
普通に考えてこの時間帯にこの家にいるのはおかしい。
俺たちがあまり早くない速度で歩いていたことを考慮しても教師がこんなに早く帰れるわけがない。
そんな俺の疑問はたった一言で解決されてしまった。
「別に仕事しに来たわけじゃないからな、そこらへんのことは国家権力で解決してるぞ。」
他の先生たち泣いちゃうだろ絶対...
「それじゃあまずは走り込みから始めるぞ二人とも。凪にも基礎体力はつけてもらわないと困るからな。」
家についたのは4時ごろだったのだが、9時ごろまで走り込みやら筋トレやらをした。
ちなみにおもりはつけっぱなしだったのでめちゃくちゃきつかった。
「とりあえずこの一週間はこんな感じでやっていくぞ。」
...これ俺達無事に一週間過ごせるのかね。
こんな感じで火曜日水曜日....金曜日と過ぎていった。
疲労はたまる一方だったので授業中にうとうとすることはかなりあったのだが、千鶴さんの弾丸がたびたび飛んでくるので本当につらかった。
そして本日は土曜日だ。疲労のせいで俺も凪もおきたのは昼頃だった。
まだ疲労の残っている重い体を起こして何か食べるものを作ろうとしたのだが、既にテーブルの上に料理が並んでいた。
「二人とも起きてきか。このくらいの時間だと思っていたぞ。
軽く昼食を作ってきたから、さっさと食べて着替えて外に出てきてくれ。
四之宮君は私と模擬戦だ。
凪ちゃんは自分の能力の扱いの練習をしてくれ。前に言った伝言を忘れずにね。」
模擬戦とあらばやはり昂ってしまうのが男というもの。
さっさと飯を食べて服を着替え、いざ戦場に。
しかしここで戦ってしまっては流石にまずいのではないか...と思っていると千鶴さんが魔導書を出した。
「四之宮君君は確か結界を知っているはずだよ。
私的に使うにはその地域のギルドの許可とかある程度の立場が必要なのだけど、私に関しては問題ないから使おうじゃないか。」
前凪と模擬戦したときにはわざわざ本部までいったから、ここで戦えるのならありがたい話だ。
しかし....俺は結界の中で戦ったことはあるけれど、結界を張ったことはないんだが。
そんなことを考えていると、魔導書が勝手に俺の手の中に出てきた。
「いや、坊主。お前さんは結界の出し方を知っているはずだぜ。」
村正はそういうが、俺ほんとにしらn....知ってるわ。
なんか頭の中にイメージがある。
「魔導書を扱えるようになった時に自然と扱える様になってるもんだからな、当然だ。
そのイメージ通りにやればちゃんと張れるからな、坊主。」
「私が説明しようと思っていたのだが...まぁ君の優秀な魔導書の言う通りだよ。
じゃあ、始めるとしようか。」
千鶴さんは銃をだして、俺は村正をだした。
そして、二人の武器を重ね合わせた。
そうすると、前に一度見た不思議空間が展開された。
結界の生成の仕方はお互い能力が接触することで自動で展開されるらしいかったが、どうやらこれでよかったようだ。
しかしぱっと見ではわからないけど、展開されたと思ってみるとやはり普段と少し違うといった感じがわかるな。
場も整ったので俺は刀を構えてきたる攻撃に備えた。
..2時間後俺は地面に這いつくばっていた
「前は手加減ありだったからね、少しは動き追えてたみたいだけど今日はそうもいかないみたいだね。
自分で言うのも私は結構強いからね。
単純な戦闘能力だけは高いから一概には言えないんだけど...これに対応できないようなら多分、死んじゃうかもね。
とりあえず6時ごろからもう一度やるから、それまでに休むなりしててね。
じゃ、またあとで。」
...俺は本当に弱すぎるようだ。
このままだと多分ずっとボコされ続けるだけだな。
そんな感じでリビングのソファで寝ていると、村正が話しかけてきた。
「坊主の思ってる通り、このままじゃ多分ずっとあのショットガン女にボコられ続けるだけだぜ。
そこでだ、今まで黙っていたが坊主が強くなるための方法があるぞ。
しりたいか?」
今まで黙っていたことは気になるが、強くなれる方法があるのなら気になるところだ。
「そりゃきになるが...なんで今まで黙ってたんだ?
むしろなんで今それを教えてくれたんだ?」
「それはな...この方法にはリスクがあるんだ。
坊主への精神的な負担が大きくてな。
まだ坊主には早いと思っていたんだが、そうも言ってられない状況になったからなぁ。
で、どうするよ。」
確かにそんなリスクある方法なら黙っていて当然か。
だから俺に自主的な筋トレとかお願いしたのか。
「まぁ多少...かなりのリスクは覚悟の上だ。
あと三週間しかないわけだし、千鶴さんの動きに対応する以上になるためにはまともなことだけじゃ無理だって思ってたしな。
やるよ、俺。やるしかないからな。」
「わかった。じゃあ横になって寝てくれ。
三時間後には目が覚めるようにしておくから、死ぬ気で頑張ってこい。」
さっきボコされたおかげで体は直ぐに睡眠に入ることができた。
寝たはずの俺は目が覚めた。
しかしここは現実の世界でないことは直ぐにわかった。
高さと奥行きがはっきりしていない、とても普通には見えない世界だからだ。
自分の立っている場所だけがはっきりとしている、そんな場所だ。
なんだここは..と思っていると、村正の声が聞こえた。
「ここは俺と坊主の精神世界だ。
ここの時間の進み方は現実とは違うから、時間を気にせず戦っていいぞ。
そしてここで傷を負ってもすぐに治るし、疲労を感じることもない。
ただし、致命傷を負った場合は別だ。
致命傷を負ったとしてもここではもちろん傷はすぐに治る。
でも、坊主の精神が削られるんだ。実際に削られないとわからない感覚だとは思うが、気をつけろよ。」
そういうと村正は話すのをやめた。
ここで何すればいいんだと思っていると、目の前に千鶴さんが現れた。
そしていきなり距離をつめてきて銃撃をしてきた。
俺は後ろに吹っ飛ばされてしまいった。
自分の腹を見てみると、だいぶグロテスクなことになっていたがすぐに治ってしまった。
村正の言う通り、すぐに治ってしまうようだ。痛みもどうやらかなり抑えられているようだ。
しかし俺は村正の言っていった精神を削られるということを痛みをもって理解した。
傷が完治するのと同時に体の内側にマグマを流し込まれたような、心臓を細い針でつつきまわしているような痛みが全身を襲った。
俺はあまりの激痛に地面をのたうち回ってしまった。
その間千鶴さんは攻撃してくることはなかったが、俺を見る目があまりに冷たいものだということに気が付いた。
そして俺は村正の言う強くなる方法の正体に気が付いた。
これは寝ている間精神世界で架空の千鶴さんと本気の殺し合いをすることで強くなるものということだろう。
しかも寝ているから体は休まるというメリットがある。
しかし俺の精神が激痛に耐えられればという条件があるわけだ。
俺はまだ少し残る根源的な痛みに耐えその場に立ち、村正を構えた。
「やってやるよ。俺の精神が擦り切れるまでな。」
そこから俺は何度も何度も腹に銃弾をぶちこまれ痛みに耐えられなくなってきたころ、急に意識が落ちた。
俺は意識が戻った。ソファーの上なので現実世界に戻されたのだろう。
「坊主の精神が限界だったからな、強制的に戻させてもらったぞ。」
どうやら俺は負け続けたせいで精神が限界を迎えてしまったようだった。
時計を見ると五時をまわっていた。
自分がすごい汗をかいていたことに気がついたので、少し汗を流すことにした。
六時になりまた千鶴さんにぼこぼこにされ、終わったのは九時ごろだった。
心も体もボロボロなので疲れた表情でいると、凪がご飯を作ってくれていた。
しかしその凪もかなり疲れた表情をしていた。
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