第9話 戦力

昨日のように円卓を囲んで全員が座っている。 

昨日いなかった杏華さんの分の椅子もちゃんと置かれている。なんかカメラとかもおかれてる....なんだこれ。

全員着席したのを確認して、鑓原さんが話し始めた。

「さてと、それじゃあ始めようか。

 昨日話した通り過激派ギルドの動きに変化があった。

 その動きのあったギルドは全部で三つだ。

 まず一つ目は先日戦闘になった不知火の率いる[ヴルガン]

 二つ目は[新人類]というギルド。

 そして三つめは...[茨の王冠]だ。」

俺は何も知らないので何もわからなかったのだが、この場の空気が一気に変わった。

ちらりと周りを見回してみると全員の表情が険しいものになっていた。

どういうことなのか隣に座っている凪に聞こうとしたのだが

「四之宮君にはいってなかったね、説明するよ。

 そのギルドが過去にいったい何をしたのか。」

鑓原さんがいつもとは違う、少し重い雰囲気でおしえてくれた。

 

 魔導書が出現してから半年たったごろぐらいからかな。

 政府や警察の人と協力して魔導書の存在を世間に隠すために、僕とか千鶴ちゃんみたいにギルドを立てる人が現れ始めたんだ。

 その時はまだ魔導書を持っていても力を使って何かをしようと思うと思うような人間はあまりいなかったから、

 大した事件もなく魔導書の力を世間に対して隠すことができていたんだ。

 しかし、1年ぐらい前にある大事件が起きたことによってその状況は一変してしまった。

 当時近畿地方を保護をしていた「魔女の帽子」というギルドの本部にいた関係者全員が皆殺しにされたんだ。

 更にその数日後、中国地方を保護していた「銃の使い手」というギルドも同じように皆殺しにされた。

 そのどちらも一人の人間によるものだったんだ。

 そいつの名は班目吉 [まだらめきち]という男で....さっき言った[茨の王冠」のボスなんだ。

 それを境に、やつは人を集め始めたんだ。

 そして、つぶされたギルドが保護していた地域をある二人の人間に渡したんだ。

一人は不知火。もう一人は思陀唖妻[シダアヅマ]という男だ。

 そしてそれぞれが新たに立ち上げたギルドが[ヴルガン]と[新人類]なんだ。

 不知火の[ヴルガン]は中国地方、思陀の[新人類]が近畿地方といった感じでね。

 そっちの地方はもう魔導書の存在が公になってしまっていてね、やつらの支配下になってしまっているんだよ。

 一応その件については警察に協力してもらって緘口令が敷かれていて僕らの保護している地域に入らないようにしているし

 ネットで噂になっていても都市伝説になるぐらいで済んでいるんだ。

 それにむこうも社会を混乱させることを望んでいないみたいで、惨殺事件以外はたいしたことをしていないんだ。

 だから君は今まで魔導書のことについて知らなかったし、日本が混乱に陥ることがなかったんだよ。


結構凄いことに巻き込まれたとは思っていたが、まさか政府とか警察とか絡んでいるとは......

俺が驚いていると、千鶴さんが話し始めた。

「しかし変な話だよ。

 一人でギルド二つ壊滅させちゃうような人がどうして何もしてこなかったんだってね。

 何もしてこないなと思っていたら、こっちに仕掛けるとか言われるし。」

確かに変な話である。

そこまでやった人間が1年間何もせずにいるなんて不気味だし、急に仕掛けてくるというのも変な話だ。

「ともかく、そんなやばいやつと戦わなきゃならないんだ。 

 やつらが何を考えているかは知らないけど、僕らが負けてしまったら相当まずい事態になることは確かだからね。

 そんなわけで本題に入ろうか。

 それじゃ頼むよ。」

真純さんがホワイトボードを部屋の中に運び込んできて、紙の資料を分け始めた。

わけられた資料に目を通してみるとそこには何人かの人間の顔と文字,ギルドの規模が書かれていた。



茨の王冠ボス 班目吉[まだらめきち]男 能力不明 最重要危険人物

主力メンバー 火暴綾香[ひばれあやか]女 おそらく爆発物を扱う魔導書の所持者

構成人数2人



ヴルガンボス 不知火誠[しらぬいまこと]男 炎を操る自然型の魔導書 特に戦闘力が高いので注意

主力メンバー1 佐々木小太郎[ささきこたろう]男 刀の扱いにたけた超人型の魔導書の所持者

主力メンバー2 予見椿[よみつばき]女 おそらく未来の情報を何らかの形で入手できる超人型の魔導書の所持者

その他構成員100名 

構成人数103人


新人類ボス 思陀唖妻[しだあづま]男 恐らく物理現象に干渉する能力の超人型の魔導書 

主力メンバー1 速水風太[はやみふうた]男 おそらく風を操る自然型の魔導書の所持者  

主力メンバー2 十文字京谷[じゅうもんじきょうや]男 おそらく武器型の魔導書槍の所持者

その他構成員200人 

構成人数203人



「今わけた資料にかかれているのはさっき言った三つのギルドの主力メンバーで、

 顔と名前、ギルドの規模、真純ちゃんの能力と風魔君の調査結果によって導き出した敵の能力が書いてある。

 能力に関しては絶対じゃないから参考にする程度にしておいてくれ。

 敵の構成員の魔導書の所持者は4割ぐらいで、残りは何らかの武装をしているって感じかな。」

敵に関して結構調べがついているようで、これ俺いらないんじゃないかな...とか思っていると鑓原さんの表情が急に真剣になった。

「ここから先は僕の予測なんだけどね、おそらく敵の2か月の準備期間って魔導書を持たない構成員の武器の調達のための期間だと思うんだ。

 いくら本州の西を抑えているからと言って、武器をそろえるのにはそれなりに時間がかかると思うんだ。

 つまり、この二か月という期間の間に攻め入ることができれば主力メンバーの差というものを埋められるんじゃないかなと思うんだ。」

確か、この場に集まっているのが確か主力メンバーと言っていたな。

鑓原さん、真純さん、風魔さん、梨花さん、骨川さん、土屋さん、千鶴さん、クロさん。

こっちは八人もいるし、敵と同じ人数だし大して不利じゃないよな...?

そう思っていると、梨花さんが俺の表情を読んで答えてくれた。(´・ω・`)また読まれてしまった。

「四之宮君は何か勘違いをしているね。

 骨川ちゃんは魔導書持ってないから戦えないよ~。

 それに杏華ちゃんも戦闘型じゃないし、真純ちゃんもそういうのじゃないから同じく戦えないね。

 敵にも一人戦闘型じゃない子がいるみたいだけどそれ考慮しても人数差、実力差がかなりあるのはかわらないよん。」

どうやらこの戦い、かなり絶望的なものらしかった。

そんな絶望した表情をしていると、鑓原さんが話し始めた。

「だからこそさっき僕が言った攻めなんだよ。

 敵の準備が整う前に攻め入ることで少しでも差を埋めることが大事なんだ。

 それに、奇襲を仕掛けることで実力差があったとしても敵を倒せる可能性が上がるかもしれないからやるしかないよね。」

鑓原さんがそこまでいうなら多分大丈夫なんだろう。

会議室にいるだれも特に何も言わないのであればきっと問題ないのだろう。

「具体的には一か月後に攻め入る感じでいいかな。

 千鶴ちゃんと梨花ちゃんもそれくらいで大丈夫かな?」

「私は特に問題ないぞ。」

「千鶴ちゃんと同じく問題ないよー。」

「じゃあとりあえず今日はこんな感じでおわっておいて三週間後、作戦決行日の前日に作戦前の最後の話し合いをしよう。

 それまでに集められるだけの情報は集めておくから、各自できることをやって備えておいてね。

 それじゃ、解散!」


俺は会議が終わってからずっと考えていた。

多分今のままの自分では何の役にも立たないと。

鑓原さんの言っていた一か月の猶予は普通に考えて長すぎる。

国の協力を得られているのだから、おそらく攻めのための準備は2週間もかからないだろう。

と、なるとこれは俺に与えられた時間なのだろう。

しかし鑓原さんは直接俺にそれを伝えなかった。

俺に選択肢をくれたのだ、逃げるのか戦うのかの。


俺は千鶴さんを探した。

ちょうど帰ろうとしているところの千鶴さんを見つけて、呼び止めた。

「千鶴さん、お願いがあります。

 僕に戦い方を教えてください。」

「少年、覚悟を決めたようだね。

 鑓原の意図もくみ取れているようだし、いいよ。鍛えてあげる。

 ただし、後ろにいる凪ちゃんも一緒にね。」

俺は言われて気が付いた。後ろに凪がいることに。

「何を考えてたかだいたいわかるけど、水臭いじゃない。一人でなんて。

 私も多分戦闘になったら実力不足だろうし、シノと同じなのよ。

 だから、二人で強くなって....勝つわよ。」

凪もそんな風に考えていたとは...と、少しうれしくなっていると、

「じゃそういうことだから、クロちゃん諸々全部頼んだよ。

 四之宮君家にいるから、私の荷物送っといてね。」

「そういうと思ってましたよ...」

クロさんはそういうと、とぼとぼと肩を落として帰っていった。

「じゃあ二人とも、とりあえず家に帰ってご飯食べようか。」

対して千鶴さんは意気揚々とした足取りで俺の家へと向かっていった。


家に帰って、夕飯を食べた。

全員が食べ終わったのをみて千鶴さんが話し始めた。

「私は君たちに戦い方を教えてあげるつもりだけどね、相当つらいものになることは覚悟しておいてねとあらかじめ伝えておくよ。

 なにせ一か月しかないし、四之宮君に至っては僕の動きについてこれてないからね。

 しかも二人には学校があるから、一か月丸々使えるわけじゃないからねぇ。」

確かに俺は前に千鶴さんにボコされたとき、手加減ありであれだったからな。

一か月で俺は本当に強くなれるのか...と思っていると千鶴さんがまた話し始めた。

「四之宮君はねぇ、多分魔導書の力をもっと使えるようになれば直ぐに強くなると思うんだ。

 多分君の体と頭が魔導書の力に追い付けてないんだと思うんだよね。

 だから、四之宮君は僕との戦闘と体力強化によってスペックの底上げと、戦闘経験を積む方向で行こう。

 それでいいね?」

まさしくその通りなので、俺としてはありがたい。

だが、俺にそこまでしてもらっては凪はどうするのか。

そんな感じで考えていると、凪が千鶴さんにそんな感じのことを聞いた。

「シノには確かにそれでいいかもしれないですけど...私はどうなるんですか?

 私にも何かしてもらわないと...」

千鶴さんは椅子から立ち上がって、凪の方に手を置いて話し始めた。

「凪ちゃんに関しては助言することしかできないんだ。

 でも凪ちゃんも一緒にって言ったのには理由があってね....

ある人から助言を預かっているんだよ。

 [お前の能力は他とは違う。使うのではなくもっと別のイメージを持て。私から言えるのはこれだけだ。]

 この言葉を伝えることを頼まれてたんだ。

 凪ちゃんなら多分誰かわかると思うけどね。」

「...わかりました。シノ、悪いけど今日の分の食器洗っておいて。」

そういうと凪は自分の部屋に戻っていってしまった。

食器を洗うことぐらい構わないけど...どういうことなんだろうか。

そんな疑問を持ちながら食器を洗っていると、千鶴さんが食器を洗うのを手伝いながら話してくれた。

「北海道の方にいる凪ちゃんと同じ自然型の魔導書の所持者の人からの伝言だったんだけどね、

 凪ちゃんその人に使い方を学びたいって言って何回もお願いしてたんだけどね。

 全部さっきいった言葉とともに断られてたんだよ。

 10回ぐらい断られたあたりから凪ちゃんは彼にお願いするのをやめちゃってね。

 そんな経緯があって、凪ちゃん部屋に戻っちゃったんだと思う。」

そういうことならしょうがないか....

しかし、断った時と同じ言葉をここにきて伝えるというのも変な話だな。

もしかしたら凪は何か勘違いをしているんじゃないかと、思ったりしながら食器洗いを済ませた。

その後風呂を千鶴さんに先に入ってもらって、その間素振りをした。

千鶴さんの次に凪に入ってもらおうとしたのだが、先に入っておいてと言われたので先に入った。

凪のことが心配だったが、明日朝早起きしておいしい朝飯でも作って機嫌を直してもらおうと思って早めに寝た。

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