第8話 対となる存在

骨川さんについていってついたのは一回のロビーにあるソファだった。

よくみると、そこに寝転がっている少女が一人いた。

「梨花ちゃん。四之宮さんをつれてきたよ!起きて!」

何やら耳元でこそこそと話しているようだ。

そして、寝転がっていた少女がおきてこちらを見た。

「めんごめんご、昨日ちょっと夜更かししててね。

 今日急に招集されたものだから色々移動とかでいそがしくてねぇ..」

なんか鑓原さんと違うタイプの軽い人だな...と思っていると骨川さんが話し始めた。

「今日の場で面識がないのは私たちだけだと思いましたので、明日の話し合いの前に軽く挨拶をしておきたいと思いまして。」

確かに面識もないままの状態というのは不便そうなので賛成だ。

俺から自己紹介を始めようとしたら、凪が寝転がっていた少女の手を握って何やら話し始めた。

「梨花さんですよね!私ファンなんです、サインください!」

そういうと、どこからともなく色紙を出してサインを書いてもらっていた。

俺がついていけていないで立っていると、骨川さんが教えてくれた。

「梨花ちゃんは普段顔出しでゲーム配信をしているんです。

 ゲームを知らない人でも楽しめるって評判で、結構人気なんですよ?」

なるほどそういうわけだったのか。

説明を聞いている間にサインを書き終わったらしく、梨花さんがこちらをむいた。

「初めまして四之宮君。

 僕は愛座梨花[あいざりか]っていう名前で、君をここまで案内してくれた人の名前は骨川三世[ほねかわみよ]って言う名前だ。

 色々君の話を聞いていたら興味がわいてね。ちゃんと見てみたくなったんで、骨川ちゃんに呼んでもらったんだよ。

 特殊な魔導書を持っているというからどんな人間かと思っていたら、おもったより普通でよかったよ。

 そろそろ配信の時間だから帰ろうかなー。

 僕の配信にコメントしてくれたら反応するから、是非みにきてねーお二人さん。

 じゃ、ばいばーい」

大して何も話していないのにさっさと帰って行ってしまった。

「本当にすみません、お時間いただいちゃってすみませんでした。」

骨川さんはぺこぺことお辞儀をして、梨花さんを追いかけていった。

あの人もたいへんそうだなぁ.....

ほねかわさんに同情しつつ、俺は凪と家に帰った。

いつも通り飯を作って二人で食べ凪に先に風呂へ入ってもらって、特訓をして寝た。

 

翌日九時ごろ起きて、凪の作った飯を食べようとしているとインターホンが鳴った。

凪に対応させるわけにもいかないので、俺がでることにした。

こんな朝から誰だよ、と思いながら「はーいだれですかー」と、玄関カメラをのぞくと片目に眼帯をしたお姉さんが立っていた。

見ていないふりをして居留守を使おうと思ったのだが、

「少年、さっさとでないと玄関に銃をぶっぱなすぞ。手加減なしでな。」

「はい、すみません今すぐ開けます」

俺は潔く無駄な抵抗をやめて開城することにした。開錠だけにね。

静かな朝の食事が、騒がしい朝の食事へと変わってしまった。この人のせいで。

「それで、こんな朝からいったい何の用なんですか?千鶴さん。

 多分住所は鑓原さんから聞いたんだと思いますけど、訪ねてくるなんて相当な用事でしょう?」

「それはな少年。年頃の男女が同じ屋根の下暮らしているというから気になって見に来てしまったのだ。

 しかし、特になにもなさそうでがっかりしているのだ。」

朝から暇なのかこの人...とか思っていると、千鶴さんの分の朝食を凪が持ってきた。

「私たちと同じもので悪いんですけど、よかったら食べてください。」

「ふむ、朝食を取らずにきたのでここはありがたくいただくとしようか。」

そして普通に朝食を食べ始めてしまった。

凪も特に何も言わないので、黙って食べるしかないようだ。

そして朝食を食べ終わった頃、千鶴さんのスマホに電話がかかってきた。  

外に出て何やら通話を始めた。

「そうか、この家は安全だったか。外にも特に何もなかったか?...よし。

 ご苦労だった。引き続き頼むぞ。」

通話が終わったようで、戻ってきた。

「さて、四之宮君と凪ちゃん。何故私がここに来たのかという本当の理由を説明しよう。」

そういって千鶴さんは少し姿勢を正して話し始めた。

「実はね、前々から過激派ギルドのやつらとは水面下でいろいろあったんだよ。

 その中には情報戦も含まれていてね、度々密偵が見つかるんだ。

 そして今日重要な会合をするにあたって密偵探しを昨日念のためしていたらね、密偵本人は見つからなかったんだけど

 昨日使っていた部屋に盗聴器が見つかってね。

 そういうことで昨日の会合の参加者の住居とか滞在場所に仕掛けられてないか調べてたんだよ。

 どうやら四之宮君の家の周りは仕掛けられていなかったらしいね、よかったよかった。」

さっきとの温度差で俺が反応できずにいると、凪が反応してくれた。

「そんなことになっていたとは知らずにすみませんでした。

 千鶴さんほどの人が暇つぶしでここに来るなんて私は思っていなかったので何事かと思っていましたが...」

そういって凪は頭を下げた。横目で俺のことをあきれた目で見ながら。

「いやいや謝ることじゃないよ凪ちゃん。悪いのはむこうとか、魔導書を世界にもたらした元凶だしね。

 それにここに来たのは最初に言った理由もあったし、朝ごはんまでもらっちゃったし。」

いつの間に食べ終わったのだろう、ふとみると料理がすべてなくなっていた。食べ終わっていなかった俺の分まで。

俺がなくなった料理を悲しい目で見つめていると、もう帰るつもりなのだろう千鶴さんが席を立ちながら俺に目を合わせ言ってきた。

「少年、君は覚悟を決めるべきだ。私が言うのもなんだが生半可な気持ちでは2か月後、生き残れぬぞ。」

俺はそんなものできていると言おうと思っていたが、俺の口は動かなかった。

俺はただ、しまった扉を見ていることしかできなかった。


凪が食器をかたずけていてくれたので俺は素振りをすることにした。

俺がいつも通り素振りをしていると、珍しく村正が話しかけてきた。

「坊主、珍しく素振りが少し乱れているぞ。さっき言われたこと気にしてんのか?」

どうやら少し乱れてしまっていたらしく、村正に指摘されてしまった。

しかし、自分の中で整理出来ていない気持ちがあったため俺は少し気が立ってしまっていた。

いつもなら素直に答えていたところを、八つ当たりしてしまった。

「そりゃ気にするだろ。

 急にわけのわからぬ能力の刀渡されて、なんか戦争に巻き込まれてるんだぜ?

 こちとら最近まで普通の高校生やってたのに何も思わないって方が無理あるだろ。

 他の人もある日突然魔導書渡されて俺と同じ立場ってのは頭では理解できてるけどさ、

 俺を巻き込むなよって思っちまうんだ。」

それを聞いた村正は少し間をおいて、

「それについては申し訳ないと思ってるよ坊主。 

 でもな、少なくとも坊主は俺に選ばれちまったんだし頑張るしかないんだ。

 それにもし仮に坊主が今まで通り過ごしていたとしても、遅かれ早かれグリムが起こす何らかには巻き込まれていただろうよ。

 そこはわかっているから、特訓とかしてるんだろ?

 俺としても坊主には死んでもらっちゃ困るからな、一緒に乗り切っていこうや。」

村正に諭されてとりあえず自分を落ち着かせることができた。

しかし気に食わないことがあるというのも事実なので、この機会にきくことにしてみた。

「前に村正は何か役割を持っていて俺に使命を与えるとか言っていたけど、そのことに関して本当に何も言えないのか?

 流石に少しぐらい聞かせてほしいんだけど?」

俺はやや怒りをにじませて聞いた。

「まぁ全く話さないというわけにもいかないな。でも、そのことに関してはまだ全部言えないんだ。

 しかし俺の力の一つを使いこなせるようになった坊主になら話せることがある。」

そういうと、魔導書の中に戻って俺の頭の中に語り掛かけ始めた。

「ここからの話は、嬢ちゃんにも聞かれるわけにはいかない話なんだ。

 それじゃ話すぞ。

 実は俺[村正]には対になる能力の刀が存在するんだ。

 [村雨]という刀なんだが、そいつの能力は増幅という能力なんだ。

 俺の能力と違ってそいつの能力は使い手によって変わるんだが、増幅させるという性質は変わらないんだ。

 そしてその魔導書の所持者はお前の敵だ。

 そいつを倒すために、俺という魔導書が存在している。」

それだけ言うと、村正は話すのをやめた。

夕方までまだ時間があるので、走り込みとか筋トレをしながら言われたことを考えて

自分のこれからについて考えていた。


五時に間に合うように風呂に入って、凪と一緒に家を出た。

本部について昨日会合をしていた部屋に向かったのだが、真純さんが何人かの人と機材とかの準備をしていた。

こちらに気が付いた真純さんがこっちにやってきた。

「お二人ともご苦労様です。準備にもう少し時間がかかってしまうので鑓原さんのところへ行って待っていてください。」

真純さんはそう言って作業に戻っていった。

真純さんに言われた通り鑓原さんの部屋にやってきた。

中に入ると、昨日の面子全員がそろっていた。しかし一人、昨日いなかった金髪の女の人もいた。

誰なのかなーと思って眺めていると、みられていることに気が付いたのだろう。

こちらを向いてきたのだが、見られることが気に食わなかったのかにらまれてしまった。

しかし、その女性はにらんでいてもとても美人だった。

ややきつくみえる切れ長の目に整った鼻、そして不機嫌そうに結ばれた口。

目をそらして居心地悪そうにしていると、鑓原さんが話し始めた。

「これで全員そろったかな。

 四之宮君と凪ちゃんは知らないと思うから一応紹介しておくね。

 そこにいる娘は土屋 杏華[つちやきょうか]っていう名前の娘でね、彼女も今回の作戦に必要なので呼んだんだよ。

 ほら、杏華ちゃん挨拶して。」

そういわれてその杏華と呼ばれる少女はだるそうな顔で挨拶を始めた。

「どうも初めまして、土屋杏華といいます。よろしくお願いします。」

それだけ言うと椅子に座ってしまった。

「や~ごめんね。杏華ちゃん疲れてて急によばれたもんだから機嫌悪くてね~。

 普段からこんな子じゃないから仲良くしてあげてね~。」

どうやら梨花さんの知り合いらしく、そういうことらしい。

別に何とも思っていなかったので問題ない。

鑓原さんがまた話し始めた。

「せっかくここに集まってもらったんだから、会合を始める前に一つ話しておこうと思う。

 何人かはもう聞いていると思ううんだけど昨日会合をしていた部屋に盗聴器が付けてあってね。

 内部犯によるものの可能性が高くて、今日の昼間のうちにいろんな場所を検査したんだ。

 その結果わかったことは、敵はこちらが情報を入手して対策を講じてくることを前提で動いてるらしいんだ。

 誰かの家や滞在場所には仕掛けられておらず、ここにある部屋にしか仕掛けられていなかったんだ。

 恐らく、個人をつぶすのではなく総力戦をして雌雄を決する腹積もりのようだ。、

 敵はこちらに負ける可能性なんて考慮していない、どうやらなめくさっているらしい。

 そんなやつらとっととボコしてこの争いを終わらせよう。

 そろそろ会議室の準備が終わる頃合いだ、行こうか。」

そういって鑓原さんは部屋を出ていった。

そのあとを全員無言でついていった。

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