第一章 本州ギルド戦 第7話 既に火薬は燃え始めた。
月曜日というものは本当に気が重い。
休日が終わってしまったという絶望と同時に、一週間が始まってしまうという絶望を同時に味わうことになるからだと思う。
神様は世界を作ったときに土日しか休んでないらしいので、水曜日ぐらいにも休んでおいてほしかったところである。
そんなくだらない思考をしていても時間は無慈悲にも過ぎ去っていってしまうので、潔く布団から出て身支度を済ませる。
朝飯は食べない派なのでそのまま家を出ようとしたら、後頭部を鈍器のようなもので殴打された。
「おそようお馬鹿さん。あなたが朝ご飯を食べたなかろうが関係なく私は朝ごはんを食べたいの。
でも一人で食べるのは寂しいからあなたも朝ごはんを食べなさい。」
どうやら俺は朝飯を食べなくてはいけないそうです。
まぁ朝飯を食べない理由は、ただ単に面倒くさいというのと飯より惰眠を貪っていたいというだけなので食べるだけならば問題ない。
もう家事の取り決めなど関係なくなってしまっているなぁ...と思いつつ、作ってもらった飯を食べ終えた俺は今度こそ家を出るべく席を立った。
すると、持ち上げようとしたかばんの上に布で覆われた物体がおいてあることに気が付いた。
これはもしや弁当なのか..?と考えていると
「それ朝食のあまりもので作った弁当だから昼に私に感謝しながら食べなさい」
やはり凪が作ってくれた弁当らしい。
昼飯はいつも購買で買ったパンだったので、ありがたくて朝からちょっと泣きそうだった。
いつも通り一人で通学路を歩いて、本日も無事学校につくことができました。俺、グッジョブ。
俺は自分を自分で鼓舞しつつ、退屈な一日を始めるために今日も二年一組の教室に入った。
席に座ると、服部が後ろの席から話しかけてきた。
「おい、シノ!今日だぜ?いよいよ転校生が来るのは!俺はもう楽しみで楽しみでさぁ...」
相変わらず朝から元気なやつだとあきれつつ、返答をする。
「そういえば先週そんなこといってたな、俺はそこまで楽しみじゃないよ。めんどくさい。」
俺はもうその転校生のことを知っているし、なんなら一緒に住んでいるまであるのだ。
つまり俺には楽しみも何もないのだ。むしろ変なことを言って何か面倒なことが起きないかどうか心配まであるのだ。
「お前相変わらずものぐさだな...転校生を見たときのお前の驚く顔が楽しみだよ。」
むしろ俺は服部の驚く事態が起きないか心配だ。と、考えていると後藤先生が入ってきた。
「今日は転校生が来るぞー。入ってきなさい、水凪君。」
そういわれて入ってきた人が美少女だったので、クラス中がどよめいた。
「今日からこの学校に通うことになる水凪美里といいます。
私のことは凪って呼んでくれたらうれしいです。
小学生の頃この辺りにいたので知っている人もいるかもしれませんが、改めてよろしくお願いします。
ちなみに今は四之宮君の家に住ませてもらってます。」
そういってぺこりとお辞儀をして自己紹介を終えた。最後に爆弾を落として。
「じゃあそういうことでよろしく頼むぞー。席は空いている後ろの方の席に座ってくれ。」
そういわれて凪は空いていた後ろの方の廊下側の席に座った。
そしてまたクラスがざわつき始めた。
「おいおいシノ、一体どういうことなんだ!?俺お前からなんにもきいてないぞ?!?!」
うしろのやつもざわめき始めてしまった。
後ろから肩をつかまれて強く体を揺らされ、頭がグワングワンするが答えると更に面倒なことになりそうなのでだまっておいた。
俺に話す気がないことを悟った服部はあきらめたようで、俺の肩から手を外し机に顔を伏せ何やらぶつぶつつぶやき始めた。
怖いので知らない顔をして、授業の準備を始めた。
午前の授業が終わって昼休みがやってきた。俗に言うつかの間の幸福というやつだ。...人によっては執行猶予期間ともいうかもしれないな。
そんな昼休みに対する思いを馳せながら朝持たせてもらった弁当を食べることにした。
いつもは服部と購買にパンを買いに行っているのだが、昼休みが始まる前にに弁当があると言ったらどこかへ泣きながら言ってしまった。
なので一人で弁当を食べようとしていたのだが...俺の周りには人だかりができていた。
凪が俺のところに来たせいで人が集まってきてしまったようだ。
人が集まっていても、話の中心は凪なので俺は空気になって弁当を食べることにした。
弁当を開けるとその中にはからあげとか卵焼き、焼き鮭とか好きなもんしかしか入ってなかった。
朝のあまりもので作ったとか言っていたが絶対嘘だ。こんなん宝石箱でっせ。
弁当を食べてみたが、めちゃくちゃうまかった。毎日食べても飽きないレベルだった。
俺が弁当を食べ終わるのを待っていたのだろう、凪が話しかけてきた。
「どうだったかしら、お弁当の味は。勿論おいしかったわよね?」
なんだか少し脅されているような気がするが、そんなことしなくてもおいしいって答えたぐらいにはおいしかった。
めちゃくちゃおいしかったと答えようとしたら、俺は視線が集まっていることに気が付いた。
そう、会話の中心が俺に話しかけたことにより俺に注目が集まってしまったノダッッッッッ。
流石にここまで注目された状態で話せるほど俺の肝はすわっていないので、凪を連れて教室をでることにした。
屋上に出る扉の前まで来た。ここならめったに人がこないので、会話を聞かれる心配がない。
「それで?なんであんな爆弾投下したんだ?なんでさっきあんな周りに聞かせるように弁当の話したんだ?
おかげで今まで大して目立たず平穏に暮らしていた俺の状況が一変しちゃったんだけど?」
「それはね...私もてちゃうのよ。かわいいからね。
小学校の時はそれほどじゃなかったけど中学に上がった時から持てるようになったのよ。
最初の方はただ嬉しかったんだけど...ある日友達の好きな人を振っちゃってね。
女同士って色々あるから、ほんとに色々されたわ。
そこから私はモテるのがめんどくさくなって、告白とか断るとき他校に彼氏がいることにするようにしたの。
それで中学の時はなんとかなったのだけど...高校に入るとちょっと強引な人もいるじゃない?
現に彼氏がいるっていても実際に見ないと信じない人とか、いても関係ないとかいう人がいてね。
最初の一年間はなんとかごまかしてたけど...ここにシノがいるならそれを利用しない手はないって思ってね。
だから朝にあんなこと言ったんだし、昼にもわざと人目を集めてお弁当アピールしといたのよ。」
そういう理由があって俺を男よけにしようって話か。まぁ薄々感じてはいたが。
それなら断る理由はないので、仕方なく受けることにしてやろう。仕方なくだ。
そろそろ昼休みが終わりそうな時間なので教室に戻ることにした。
俺は帰り際、弁当の感想を伝えていないことを思い出した。
「弁当めっちゃうまかったぞ。毎日食べたいレベルで。」
「そ、そう。それならよかったわ。」
そんな会話をしながら教室に戻っていった。
教室についた時少し周りの視線が気になったり服部の目がうっとおしかったが、しょうがないので気にしないように席に着いた。
午後の授業も適当に流して、無事に放課後まで今日も生きぬくことができました。
今日も最速帰宅をしようと思ったんだが、カバンを後ろからつかまれた。
「なんで当然のように私を置いていこうとしてんのよ。
あんたがいないと私に色々あるかもしれないじゃない。」
別においていこうとおもっていわけじゃないのだが....
「ちょっと職員室に用事があったから先によって行こうとしてただけだ。」
「そう?じゃあ、とっとと用事済ませて帰るわよ。」
提出の遅れていた宿題をだして、俺と凪は家に帰った。
今日は月曜日なので凪との取り決め通り特訓をする日だ。
といっても俺は毎日やる予定なので、その特訓に凪が付き合う形なのだが。
走り込みとか筋力トレーニングを二人で他愛もない会話をしながらこなしていった。
トレーニングが終わったら俺が飯を作って、その間に凪が洗濯とか掃除をして...
そんな感じで一日が終わっていった。
そうして一週間が立って、鑓原さんに本部へ呼ばれていた土曜日がやってきた。
凪と一緒に本部へやってきたのだが、改めて見るとすごいところだと思う。
前に来たときは色々忙しい状況だったりしたのでちゃんと見る余裕がなかったのだが、結構な建物だと思う。
高層ビル群の中でも決して埋もれていない高さなのでどんだけここが大きいところなのか、気になってしまった。
それに地下にあんな部屋まであったし、もしかしてめちゃくちゃ凄い企業だったりするのかな..。
そんな感じでビルを眺めながら、いつもの通り受付のお姉さんの前を通り鑓原さんのところまで向かった。
エレベーターをでると、真純さんが部屋の前で待っていてくれた。
「今日は来てもらってごめんなさいね。
ここであることについての大事な会合がおこなわれるから、あなた達にも来てほしかったのよ。
会合をする部屋は下の階にあるから、ついてきて。」
そうらしいので真純さんの案内で下の階にいき、部屋の前まで来た。
何やら重い雰囲気を感じたので入るのが何だか怖かったのだが、凪はお構いなしに扉を開けて部屋に入っていった。
部屋の中にはプロジェクターとかホワイトボードとか、会議に使えそうなものがおいてある部屋だった。
部屋の真ん中のは大きな円卓がおいてあり、その周りに椅子がおかれていた。
知らない人もいたが、千鶴さんとクロさんがいた。目が合ったので軽く会釈をしておいた。
俺と凪は真純さんに促されて空いている椅子に座った。
俺たちが座ったことにより空いていた椅子がなくなったようなので、これで全員集まったらしい。
俺たちが席に着いたのをみて鑓原さんが話し始めた。
「今日ここに集まってもらってありがとう。実は先日特殊な魔道書の持ち主が発見されたので、その件について話があるんだ。
そこにいる少年こそがその特殊な魔導書の所持者であり、覚醒してからまだ一週間と立っていなかったのに
あの鶴ちゃんに一太刀浴びせかけた期待の新人なんだ。」
そういうと鑓原さんが俺にウインクをしてきたので、多分軽く挨拶をしろということなのだろう。
「ご紹介にあずかりました、四之宮信介というものです。まだ右も左もわからない新人ですのでお手柔らかにおねがいします。」
席を立ち、軽い挨拶をして席に座った。
「ここからが本題なのだが、そこの少年の覚醒したきっかけというものが少し異常事態でね。
みんなも知っているそこに座っている凪ちゃんが敵対ギルド[ヴルガン」のボス、不知火と交戦していたところなんだ。
そこに関しては凪ちゃんに話してもらおうかな。頼めるかい?。」
凪はうなずくと席を立って話し始めた。
「先週、特殊な魔導書の捜索をしていたら運悪く不知火と出くわしてしまって戦闘になってしまったんです。
能力の相性以前に実力差があったせいで、戦闘と呼べるほどのものではなく一方的になぶられていただけなのですが。
その時に、シノがその場に居合わせて能力の覚醒をしてその場を切り抜けたっていう感じなんです。」
凪は話し終わると軽く礼をして席に着いた。
「話を聞いての通り、あの不知火と戦闘になったんだ。
しかし僕は疑問に思ったんだ。何故不知火ほどの男があの場にいたのかと。
確かに特殊な魔導書の所持者とあれば、仲間に引き込むメリットはある。
しかし、ボス直々に来るほどのものなのかとなると疑問が残る。
そこでわがギルドの誇る諜報員の風魔君にヴルガンへ潜入してもらったんだ。
すると、まずいことがわかったんだ。
風魔君。」
するとどこからか忍者のような恰好をした人が鑓原さんの後ろに出てきた。
「拙者諜報部所属の風魔小次郎というものでござる。」
....めっちゃ忍者だった。期待に胸をwkwkさせながら話を聞いた。
「鑓原さん言われヴルガンの本拠地へ潜入したのでござるが、事態はかなりまずいことになっていたでござる。
東日本の支配権を取ろうと、過激派ギルドで結集して戦争を仕掛ける気でござる。
そのために不安要素になる四之宮氏をこちらに渡さぬよう動いていたようでござる。
準備に時間がかかるらしく、仕掛ける日時は今日より2か月後の8月15日らしいでござる。
報告は以上でござる。」
そういうとシュバッと一瞬で消え去った。
「というわけなんだ。
二か月後、日本でグリム同士の戦争が起きる。」
会議場に重苦しい空気が流れていると、千鶴さんが話し始めた。
「なるほど。私らを集めたとは何事じゃと思っていたが、そういうことじゃったか。
だから集められていたのは、各ギルドの実力者ということか。合点がいったぞ。」
どうやらここにいる人たちは大変なたちばなんだなぁ...と思っていると、鑓原さんがにこにこして話しかけてきた。
「四之宮君、君も僕のギルドの重要な戦力なんだ。だから、そんな他人事みたいな顔をしている場合じゃないよ。」
また表情をよまれてしまったし、この戦争に参加しなくてはならないようだ。
「とりあえず今日のところはこんな感じで終わって、また明日の五時頃集まるっていう形でよろしく頼むよ。
では、解散!」
時間自体は短かったが、すごく濃い時間だった。
夕飯は何にしよーかなーと考えながら部屋から出ると、知らない人から声をかけられた。
「四之宮さん、初めまして。私は骨川というものなのですが、私のギルドのボスがあなたに興味があるとのことなので
一緒にきてもらえないでしょうか。
水凪さんもご一緒にどうですか?」
どうやらまだ帰るわけにはいかないようだ。
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