第6話 ミリメンタル2

一方は眼帯をして黒髪を短く切りそろえた、なんだか威圧感を感じる女の人。

もう一方はやけに体格のいい男だった。...なぜか口紅を少しつけていたが多分男だ。男に違いない。

「あら~ん凪ちゃん、なんだかお疲れのようじゃないのぉ。大丈夫かしら?」

どうやら男ではなく漢だったようだ。

凪と知り合いらしいこの漢の人は凪の方に駆け寄ると、魔導書をだして凪の背中に手を当て始めた。

何をするつもりだと思ってそちらへ行こうとしたら、いつの間にか喉元に銃先がつきつけられていた。

「黙って見てな。」

眼帯の女の人がこちらを見ずに、そういった。

そんな感じで俺が動けずにいると漢の手が凪から離された。

「気分どう?凪ちゃんまた無理してたみたいだったからスタミナを少しわけたけど。」

「ありがとうございますクロさん...おかげさまでだいぶ元気になりました。」

どうやら凪に何か回復系の能力を使っていたらしく、凪の顔色がよくなっていた。

「あいつは見た目があれだから初対面のやつには警戒されてしまうことが多いからね。

 君も勘違いして何かしてしまいそうだったからな、少々手荒になってしまったが許してほしい。」

そういうと銃をしまって凪の方へ向かっていった。

「どうやら急激に疲労がでてしまうほど能力を使っていたようだが、一体何をしていたんだい?

 まだ能力を扱えていないらしいけど、普通に使った程度ならそこまで消耗することはないだろう?」

そういわれると、凪は俺の方をジト目で見てきた。

「その通りです、千鶴さん。ただそこにいる馬鹿のせいで普通に使った程度で済まなかったんですよ。」

「きみのせいねぇ...。君、名前なんていうのかな?」

「はい!自分は四之宮信介といいます!よろしくおねがいします!」

さっきまでの威圧感はどこかへ行き年上のお姉さんの魅力があふれていたので、男子高校生として至極当然の反応をしてしまった。

先ほどにもまして凪のジト目が強くなったように感じるが、きっと気のせいだろう

「君は四之宮君というのか。私は散 千鶴 [ちるちずる]というものだ。こちらこそよろしくたのむよ。

 ちなみにそっちにいる体格のいいやつは...」

「玄杉 白田 [くろすぎはくた]っていうのよん。クロちゃんて呼んでくれていいわよ。」

ハ イ ゴ ニ イ タ。

さっきまで凪の横にいたはずなのに気が付いたら背後にいた。

俺は本能的な恐怖を感じてその場から離れようとしたのだが...体が動かない。腕をがっしりとつかまれてしまっている。

俺は逃げることが不可能だと悟ったので、この漢の人との会話を試みることにした。

「そ、そうですか。クロさんというんですね。

 ところでクロさん、何故僕の腕をつかんでいるのか理由を聞かせてもらってもいいですかね...?」

「凪ちゃんが苦戦するっていうじゃない?どんな人間なのか気になるのも当然ってものよ。

 職業柄筋肉の付き方とか特にきになっちゃってねぇ...ジュルリ。」

本当の命を危険を感じてパニックになってしまった俺は村正をだしてこの危機的状況を脱そうとした。

しかしまた、喉元に銃先がつきつけられていた。

「クロ、流石に悪ふざけがすぎるぞ。少年がおびえて奇行に走ってしまいそうだったではないか。

 すまんな少年。本当に悪気はないのだよ。」

「ごめんなさいね?本当になにもするつもりはなかったのよ?...イマハネ」

とりあえず腕から手を離されつきつけられていた銃もなくなったので落ち着くことができた。最後になにか不穏な言葉が聞こえた気がしたが。

自分が生きていることに改めて幸福を感じていると、千鶴さんが話し始めた。

「してクロよ。体を触った感じ四之宮君の実力はどんな感じだと思う?」

「そうねぇ...とてもじゃないけど強そうには見えないわよ。千鶴さんの動きに反応すらできていないし戦闘経験もなさそうだし...」

どうやら俺の実力に関して何やら話しているようだった。

「となると..魔導書か。四之宮君、君の能力を見せてもらえるかな?

 大した実力もなく凪ちゃんをここまで消耗させるとは並大抵の能力ではなさそうだ。

 個人的興味もあるので是非見せてほしいところなんだが、どうかな?」

散々な言われようだが、やはり年上のお姉さんに頼まれたら断れないのが男子高校生という生き物なので喜んで村正を出した。

「君の能力は武器型なのか。しかしそれでどうやって凪の能力を消耗させたんだ?

 まさかその刀で斬ってしのいだとかいうわけもないと思うが...」

まさにその通りなので、思わず気まずくなって目をそらしてしまった。

すると伝わったようで、千鶴さんの表情がすごいことになっていた。

「武器型の魔導書は特に数が多いが、そんなことできる魔導書など聞いたことがない!」

そして興奮しているらしく、心なしか目がキラキラして見えるようだ。

「一体どうやって斬ったんだ?その腕では魔導書の能力ありきでもそこまでの斬撃はだせないだろう。」

もう興味津々といった感じで聞いてくるのし、特に隠すことでもないので答えた。

「僕の魔導書の力は能力で作られたものの無効化らしいんです。だから、僕に大した技術がなくても凪の能力をさばけたんです。」

すると、さっきまでのテンションがいっきにどこかへいってしまい最初に見た千鶴さんに戻っていた。

「なるほど、どうやら君が例の特異な魔導書の持ち主のようだな。

 その様な能力聞いたこともないし、それなら確かに納得というものだ。」

「なるほどねぇ...この坊やがそうなのね。」

「そうなると、その魔導書の能力がどんなものなのかこの目で見てみたくなっちゃうよねぇ。」

「....がんばってね。坊や。怪我したら治してあげるわよ。」

なにやらクロさんが不穏なことを言っていたので聞き返そうとしたら、いきなり背中に衝撃を感じた。

次の瞬間、壁際まで吹き飛ばされていた

俺が何事かと目を白黒させていると、銃先をこちらにむけてさっきまで俺が立っていた場所にいる千鶴さんに気が付いた。

「少年、がんばって私の攻撃をしのいでみてくれ。君の能力がとても気になってしまったんでね!」

...俺に拒否権はないらしい。それにさっきの攻撃も手加減されていたらしく体が少し痛む程度だった。

この場を切り抜けるためには、しのぎきるしかないようだ。

俺は村正を正中線に構えて、きたる攻撃に備えた。

「準備ができたようだな。それではいくぞ少年。」

そういうと一瞬で目の前に距離を詰めてきて、ゼロ距離で俺に銃弾をぶち込もうとしてきた。

しかしさっきまでとは違い、俺は反応することができていた。

銃身を払って銃口の向きを変えることで弾をよけていた。

背後の壁にできている弾痕をみるととうやら銃の種類は散弾銃のようだ。

どうやら実弾ほどの威力ではなさそうだが、流石にこれを近距離でくらったらやばそうだな。

しかし全部ゼロ距離で撃ってくるならまだかわしようがあるが、銃弾を拡散させて当てにきたら避けようがないぞ。

「なるほど、どうやら魔導書のおかげで戦闘能力自体も上がっているようだね。

 次はいよいよ、無効化の能力とやらを見せてもらおうかな。」

そういうと、千鶴さんは銃身に弾を込め始めた。

「この銃弾は拡散率を抑えた中距離戦闘向けの代物でね。よけ続けることは君の実力じゃ多分無理かな

 ちゃ~んと能力を使っているとこを見せてね。」

そういうと、今度は俺と距離を取って銃弾をぶち放ち始めた。


これはもう無理だ。流石に何発も撃ち込まれたとあっては刀で防ぐといっても限界がある。

刀で急所へのダメージは防げているが防げていない攻撃のダメージが積み重なっていってしまっている。

距離を詰めようにも、千鶴さんの銃弾がそれを許さない。

このままだとその内動けなくなっちゃう...どうしよう!?

とか考えていると村正が俺に話しかけてきたので、銃弾を受けながら話に応じた。

「早速俺の能力が必要な場面がきたな。

 坊主、頭の中にイメージとして技を教えてやる。見事それを使ってこの場を切り抜けてみろ。」

そういうと、俺の頭の中にイメージと技名が浮かんできた。

「さて坊主、あの銃撃をこの技でしのいで自分の能力を見せてやれ!」

そろそろ俺の体も限界なので言われるまでもない。

それにただ攻撃をうけていたわけじゃなく、千鶴さんの銃を観察していたので反撃のタイミングはつかんでいた。

「どうした少年、何故何もしてこないのだ?このままなにもしないつもりなのか?」

千鶴さんはそういいながら銃をこちらにむけた。

そして俺は気づいていた、今千鶴さんの銃の中には銃弾が一発しか残っていないことに。

「そろそろ俺の体も限界なんでね、ここらで決めさせてもらいますよ。」

俺は反撃のタイミングはここだと、腹をくくって距離を詰めた。

「奥の手が、ただ距離をつめるだけかい? さっきも同じことして無理だったってことわすれちゃったのかい?」

確かにさっきは距離を詰めることができなかった。しかしそれは、銃弾を防ぐので精いっぱいだったからだ。

だが、今の俺には銃弾など関係なかった。

今までとは違い俺には銃弾を防ぐ術を手に入れているのだから。。

「斬壁」

俺は村正をふるうことで何物をも消し去る絶対的な壁を作り出した。

それによって千鶴さんの銃弾を無効化して、驚いている千鶴さんに斬りかかろうとしたのだが...

そこで俺の意識は途絶えていた。


目が覚めると知らない天井だった。

俺は意識を失ってからどこかのベッドに運ばれたようだった。

壁に掛けてある時計を見ると六時を回っていた。結構な時間寝てしまっていたようだった。

体を起こしてベッドから出ようとしたら、ドアが開いて凪と鑓原さんが入ってきた。

「いや~四之宮君災難だったねぇ~。手加減ありとはいえ、鶴ちゃんにぼこぼこにされちゃうなんてねぇ。」

「シノ体は大丈夫?あの人平和派のグリムの中でtop3に入る実力者だから、気にしなくていいわよ。」

千鶴さんそんなつよかったのかよ...凪に勝てない俺じゃぼこられて当然だったということか。

そんな風に考えていると凪がやけにテンション高く質問してきた。

「それでシノ!さっきのあれはなんだったの?今まであんな技つかったことなかったわよね?

 もしかして村正がいってた能力使えるようになったの?」

「あぁ、なんか村正が教えてくれたんだよ。頭の中に直接な。

 ただ体の限界っぽかったらしく一回使っただけで意識が飛んじゃったみたいだけどな。」

「それは興味深いねぇ...武器が話すだけでなく、技まで教えてくれるとはねぇ。」

「そんなこと聞いたことないし、あの能力も面白いし、この少年もらってもいいかな?玲」

「もう、ダメでしょ千鶴さん。そんなこと言って鑓原さんをこまらせちゃ!」

凪の質問に答えていたらいつの間にか千鶴さんがいた。今度はクロさんまで一緒だ。

「しかしこの少年は驚異的だぞ。聞けばつい先日魔導書の力を覚醒させたばかりだと言うじゃないか。

 それなのに私に一太刀浴びせるところだったし、魔導書に技を教えてもらったという!

 こんな面白い少年なら私が直々に指導したいところなのだよ。冗談ではないぞ。」

そういう千鶴さんの目はマジだった。 

鑓原さんとクロさんは困ったような表情をしていて、どうしたものかといった状態だった。

そんな時に俺に救いの手が差し伸べられた。

「シノは渡せません!シノは私と一緒に強くなる予定なので、千鶴さんの手を煩わせるほどでもないですよ!」

すると千鶴さんはニヤニヤし始めた。

「なるほどのぉ。そういう理由なら少年を私の都合で持っていくわけにもいかないか。 

 ここは凪に免じて連れていく話はなしにしよう

 でも少年!もし自分の意志で私に鍛えてほしくば私のところにくるといい。いつでも歓迎するぞ。」

どうやら面倒な事態は避けれたようだった。多分。

「では、私たちはここらへんで帰るとするかね。」

そういうと千鶴さんとクロさんは帰っていた。

そしてきがついた。「あの人たち何物だったんだ?」と。

そんな考えが顔に出ていたのだろう。鑓原さんが教えてくれた。

「あの人たちは僕たちと一緒の平和派ギルド[血気集]の人間なんだ。

 鶴ちゃんはそこのリーダー。クロさんは、真純ちゃんみたいな感じの立ち位置の人だね。

 今日は君が見つかったということもあって、わざわざ足を運んでもらってたんだよ。」

案外すごい人たちだったんだなぁ...とぼけぼけ考えていた。

「目も覚めたことだし、そろそろ帰ることにしましょうか。

 明日からは学校もあることだし、私は色々と準備があるから。」

確かに明日からは学校があるので、俺も宿題をやらねばならない。

俺はベッドから出て立ち上がって歩こうとしたのだが...体がなんともない。

せめて歩くのがだるかったりするものだとおもっていたのだが...

「クロさんがあんたの体力回復してくれたのよ。今度会ったら感謝しときなさいよ。」

....俺は表情にですぎるらしいな。今後気を付けよう。

ともかくそういうことらしいので、今度絶対に感謝しようと心に決めた。

「あぁそうだシノ君。今週の土曜日の昼頃、凪君と一緒にまたここへきてくれるかな。

 ちょっと大事な話があるんだ。」

帰り際、鑓原さんにそういわれ俺と凪は家路についた。


途中で食料の買い出しをしたり、消耗品の買い足しをして家に帰った。

その日の夜はお互いにやることがあったのでさっさと夕食を済ませて風呂に入って自室に入った。

俺は宿題をおわらせ寝ようと思ったが、寝るには少し早かったので 村正に今日の技のことを聞くことにした。

村正を出して話を聞こうとしたら手入れをしてほしいと言い出したので、村正の出した手入れ道具で手入れしながら話を聞いた。

「なぁ村正?今日のピンチを救うためにあの技を教えてくれたのには感謝してるよ? 

 ただね?技を使ったら倒れることぐらい教えてくれてもよかったじゃん?なんで教えてくれなかったの?」

まずは俺の不満をぶつけることにした。

「あの時坊主倒れることを教えてもそれ以外やるしかなかったんだから、言わないほうが気が楽だと思ったから言わなかったんだよ。」

むむむ...気を使ってくれたということならこれ以上何か言うのは違う気がするな。

「それならまぁ、仕方ないか。俺が弱いせいでそうなったわけだしね。

 じゃあもう一つ聞きたいんだけどさ、なんで俺倒れちゃったの?俺確かにボロボロだったけど、倒れるほどじゃなかったと思うんだけど。」

そういうと村正は少し申し訳なさそうな声になった。

「昼間に俺の能力を扱うのに必要なのはは精神的な強さがあればいいって言っただろ?でもそれは俺を扱うための条件なんだよ。

 つまり、俺の能力を発動するためにはほかのやつと同じように体力を消費しちまうんだよ。

 しかも今の坊主にとっては使うためのコストが重いんだよ。万全の状態だとしても三回しかつかえないな。

 坊主がもっと成長して魔導書の扱いにも慣れればもっと使えるようになるんだが、今じゃそれが限界だな。」

なるほど、俺は村正の能力を扱えてはいるが発動することはまだ難しいということか。

俺は自分をもっと強化していく必要があるなと改めて強く感じた。

手入れをしつつ、この機会に自分の刀を鑑賞して夜のひと時を過ごした。

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