第5話 ミリメンタル
本日もいい朝です。ソファーの寝心地がこんなにいいとは...朝から新たな趣味に目覚めそうな俺に
朝から通常運転な少女が声をかけてきた。
「おそようお馬鹿さん。そのあほらしい顔をとっとと洗ってごはんたべちゃいなさい。練習するって言ったのにもう11時よ?
昨日決めた分担を早速破るのは少し気が引けたけれど、時間がもったいないからしょうがないってことにしておいて。」
いわれて時計を見てみれば11時を回っていた。
俺は言われるがままに顔を洗って、作ってもらった朝飯を食べようとした。
しかし作ってある料理を見て俺は驚いていた。
作ってある料理は卵焼きと里芋の味噌汁と、焼き鮭だった。見事に俺の好きな朝食ランキングtop3の食事たちだ。
なんで俺の好きな料理を知っているんだ...と思っていると、
「なんで覚えているんだと思っているでしょう?私記憶力はいい方だから、あんたの好みを覚えておくぐらい造作もないことよ。」
と、胸を張って言われてしまった。
俺は覚えていてもらった嬉しさと一緒に、作ってもらったご飯を噛みしめて食べた。
ご飯を食べ終わった俺は凪と一緒に本部に向かっていた。
下手に人目の付くところで能力を使った練習をするわけにもいかないので、本部に模擬戦をするのに適した部屋があるらしい。
電車で移動してる時にどんな練習をしていくかを話していたら凪が強引なナンパをされ
そやつを凪が半殺しにしたりといった事件があったが、無事に本部についた。
いつみても綺麗な受付のお姉さんの前を通り、ひしひしと隣にいる凪の視線を受けながらエレベーターに乗りこんだ。
どうやら目的地は地下にあるらしく、エレベーターが地下三階を示したところで止まった。
エレベーターの扉が開いたら目の前に、真っ白でめちゃくちゃ広い空間が広がっていた。
あまりの広さに俺が驚いていると、目の前から挨拶をされた。。
「凪さんに四之宮さん、こんにちわ。今日は六時ぐらいまでなら空いているからそれまで自由に使ってね。」
秘書の真純さんが挨拶とともに使用可能な時間を教えてくれた。
「真純さん、今日は急なお願いを聞いてもらってありがとうございました。
昨日シノと話し合って急に決めたことだったので...ほかの日に関しても結構な時間使わせてもらうことになってすみません。」
どうやら凪が今日の朝、真純さんに使用許可をお願いしたらしいことに俺は今更ながら気が付いた。
ここは俺も謝るのが筋なのだろうが...あんま謝りすぎても困ってしまうだけだと思ったので
俺はあえて何も言わずに少し頭を下げるだけにしておいた。決して一緒に謝るのが恥ずかしかったとか、そんなことはない。まじで。
伝えることを伝え終わったのだろう。真純さんは一言「がんばってね」というと、エレベーターに乗って仕事に戻っていった。
「さてと、早速始めましょうか。」
凪はそういうと羽織っていたパーカーを脱ぎ、中に着ていた動きやすそうな服になった。
俺も羽織っていた服を脱いで、軽いストレッチをした。
「準備できたぞ。とりあえずさっき話した感じでやるとしますか。」
凪と電車の中で練習の形について話して、今日は最初ということで全力で戦ってしまおうということになっていた。
幾つも細かい傷とかついていたら周りのやつらにどう説明したらいいものかと思っていたのだが
グリム同士の戦闘でついた傷なら治してもらえるし、軽い傷なら後も残さず治してもらえるそうだ。
俺も凪も準備ができた。お互いに距離をとって凪は手を前にかざし、俺は村正を正中線に構えた。
特に開始の合図を決めていなかったが、実戦にそんなものはないのできにしないでいいだろう。
何の前触れもなく俺の周囲に大量の水が出現して、俺を覆いこんできた。
どうやら凪は俺と相性が悪いのを理解して、早期決着をねらうつもりのようだ。
だが、どんな量の水だろうとそれが能力で生成されたものであれば俺は無効化することができてしまう。
凪もそれをわかったうえでの戦法だとは思うが、少々俺のことを甘く見すぎているようだ。
「一閃!」
俺は村正をふるって覆っている水をすべて斬り払い、凪の方へ距離を詰めるべく地面を蹴った。
しかし俺の体が思い通りに前へ進むことはなかった。
いつの間にか水でできた鎖のようなものが足に巻き付いていたのだ。
とっさに俺はそれを断ち斬ろうとした。
しかし...すでに俺の周りにはいくつもの水でできた槍が漂っていて、その切っ先は全て俺の方に向けられていた。
「こ...降参だ。」
手玉に取られてぼこられてしまった。
「まだ戦闘経験のないシノに負けるわけにはいかないから、ここは勝たせてもらったわよ!」
.....俺と凪では戦闘経験に差がありすぎて、能力の相性とか関係ないレベルだったらしい。
凪の能力を片っ端から斬り伏せてごり押しで勝とうとしていた俺の浅はかな考えを利用されて
掌の上で踊らされていたという事実が俺のメンタルをゴリゴリと削っていく。
ちょっとセンチメンタル..なんならミリメンタルと言えるほどの精神状態になっていると
急に凪がふらついて地面に手を付け、座り込んでしまった。
感傷的な気分に浸っている場合ではなさそうな感じだったので、すぐさま俺は凪に駆け寄った。
「どうしたんだ?大丈夫か?目の前にいるイケメンの顔が見えてるか?」
「イケメンの顔が見えなくて普通の顔しか見えないけど、大丈夫よ。ちょっと能力を使いすぎちゃっただけだから。」
どうやら軽口を返すぐらいの余裕はあるようでひとまず安心した。
しかし俺はまたも教えられていないことを聞いた気がした。
「え?能力って使いすぎるとそうなっちゃうとか俺聞いてないんだけど..。」
すると凪の顔がめちゃくちゃ驚いたような表情になった。
「聞いてないも何も...刀出したり振ったりするときに変な疲労感とか感じないの?
...さっき私の能力を消すほどの力を使ったってのに、あまり疲れているように見えないのはそういうことだったのね。」
確かに今の俺は特に疲労を感じているわけでもないのだが、どうやらそれはありえないことのようだ。
「いい?基本的に能力を使うときにはその能力の規模によって疲労感を感じるの。ゲームで言うMPとかSPみたいなものよ。
私がちょっとふらついたのも短時間で能力を使いすぎたからなのよ。
だから今特になにも疲労感を感じていない状態っていうのはおかしな話なのよ...。」
なるほど。だから前に凪を助けたときも大した外傷もなかったのに辛そうだったのか。
それに、真純さんの燃費の悪いって話も真純さんに限った話じゃなかったってことね。
となると俺はなんで疲労感がないんだろうな...と、手元の村正に聞いてみた。
「なぁ村正?なんで俺は疲労感を感じないで能力を使えてるんだ?」
「それはな坊主。まだお前さんが俺の能力を使ってないからなんだよ。だから、疲れないってわけさ。」
「??お前の能力は刀の扱いが上手くなることと、能力の無効化じゃないのか??」
「すまんな坊主、あの時は色々切羽詰まってたから説明がちょっと言葉足らずだった。
それは確かに坊主の能力なんだが、坊主が使っているわけじゃないんだ。
ゲームで言うパッシブスキルなんだよ。コストなしで常に発動してる感じのやつだ。」
村正の言う通り俺は自分の能力を勘違いしていたらしい。しかしこれは....
「それが本当ならあまりに強すぎるわね、その能力。
たださえ能力の無効化なんて言うとんでも能力をデメリット無しで使ってるのに、まだ能力を使っていないですって?
幾ら特殊な魔導書といっても流石にそれは理不尽としか言えないわよ。。」
強すぎるだろこれ...と思っていたら、凪が俺の考えていたことを代弁してくれた。
すると村正がまた話し出した。
「確かにそれだけ聞いたらめちゃめちゃ強く感じるだろうな。でも、俺を使うためにはある条件があるんだ。
俺の意思に反して俺の所持者にはある精神効果がかかっちまうんだよ。
そいつの中で一番大きな欲求を、増大させてしまうっていう危険な効果がな。
そして、その増大させる割合は所持者の精神的な強さによって変わる。強ければ大して増大しないんだが、弱ければ..。
そんな感じで俺を扱うのには条件があるんだよ。
その条件を坊主がクリアしてるから、俺は坊主のもとにきたんだよ。」
なるほど....俺の能力にそんなデメリットがあったとは....ん?
「でも俺特に変なとこないんだけど....精神効果どこいったの?」
すると村正があきれたような声で
「坊主は何故か精神力が強すぎるし、一番大きな欲求が性欲だったんだよ。
しかも銀髪への強い思いだ。 こんなの初めてで、俺も最初の方はわけがわからなくて混乱したもんだぜ。」
なんか凪がかわいそうな目を村正に送っていた。まるで、俺が悪者みたいな空気になってしまっている。
「なるほどね、だから昔はそこまでひどくなかった銀髪フェチがここまで悪化していたのね...。」
俺の記憶でも凪がいたときにはここまで酷くなかったのは覚えているので、なるほどそういうことか!と、いった感じである。
俺の性癖の悪化の原因がこいつにあったことは少し変な感じがするが、
今の自分がそこまで嫌いなわけでもないので特に思うところはなかった。...むしろグッジョブなのかもしれん。
何やら凪の視線があきれたものに変わって俺の方に向けられている気がするが、きっと気のせいだろう。
「とりあえず俺が疲れない理由はわかったんだけど、じゃあ俺の能力ってなんなんだ?
そんなものがあるのならとっとと使えるようになっておきたいんだけど...」
「この力に関しては前に言った使命と同じで、まだ言うわけにはいかないんだ。
それに今の坊主はまだ俺の力を扱いきれていないし、戦闘経験もない。
今やるべきことをしっかりやることに集中した方がいいぞ。」
これに関してもいうわけにもいかないらしく、言っていることももっともなのでこれに関してはもう聞かないほうがいいだろう。
「とりあえず、この後どうする?まだ使用時間はあるわけだし、流石にこれで終わるのは勿体ないわね。
少し休んだおかげで、能力を使わない程度なら動けるようになったわよ。」
会話の終わったところで凪が壁に手を当てて立ち上がりながらこの後のことを聞いてきた。
凪はこの後トレーニングを続けたさそうな感じだが、とてものこの後トレーニングができそうには見えない。
顔色も良くないように見えるし、今立っていることすらつらそうに見えた。
トレーニングを続けようにも今から帰ろうにも凪が心配だなと悩んでいると
エレベーターの扉が開いて、二人の人間がこちらに向かってきた。
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