第4話 労働について

凪の気の向くままに買い物をして、俺はその荷物持ちをさせられている。

世間一般ではこんな扱いあんまりだという声があるかもしれないが...俺は声を大にして言いたい。

「こんな幸せがあってもいいじゃない」

と。

太陽の光を含んだその健康的な輝きを放つ至高の銀髪を顔の動きにあわせ右に左に震わせている様は最早芸術なのだ。

この至高の女神さまに捧げる労働の対価としてこの光景が見られているのだ。これを幸福と言わずしてなんというのか。

そんな幸福に関してぽわぽわと考えながら労働をしていると、女神さまから喝が入った。

「...なんとなく変なこと考えてるのはわかるけど、今はいいわ。

 そろそろ荷物も多くなってきたでしょうし、帰ることにしましょうか。時間もちょうどいいし。」

気が付けば日も落ち、割と時間がたっていたことに気が付いた。

自らの内に秘められた人間としての幸福に対する飽くなき探求心に軽く戦慄を覚えながら帰っているとあることにきがついた。

「あれ?凪の家って俺の家の近くなの?...もうだいぶ俺の家の近くまできたけど。むしろ俺の家の前だけど。」

気が付けば俺の家の近くまで来ているではありませんか。

意外と近くに住んでたんだなぁ~と内心驚いる俺に爆弾が投下された。

「今日からシノの家に住むことにしたから...よろしく頼むわよ。」

俺は玄関の前に置かれたいくつかの段ボール箱をみて、これは決定事項なのだと理解させられた。

とりあえず空き部屋を掃除し荷解きをして、ひと段落ついたころにはもう九時をまわっていた。

流石におなかすいたまま寝るのは嫌なので、風呂の用意をしながら飯を作る。

「とりあえずチャーハン作ってるけど、食えないものとかなんかあるか?アレルギー以外は考慮しないぞ。」

「そうね...特に嫌いなものもアレルギーもないわね。ちなみに、今食べたいものは鳥もも肉のからあげよ!」

少し余計な返答が返ってきたが、俺は鉄の意志で聞かなかったことにしてチャーハンを作り上げた。

作り置きのサラダも机に並べて二人で食べ始めた。

「ふむぅ...中々おいしいじゃないのこれ。...意外と料理できるなんてずるいわね。」

何やら言っているが一人暮らしももう長いものなので、このくらいならできるのだ。

そこからお互い黙々と食べること十数分。

そろそろ食事も終わり一息ついてるところで俺は質問を開始した。

「とりあえず俺の家に住むことはわかった。荷物まで持ってこられたら流石に追い返すわけにはいかないからな。

 しかし何の理由もなしにこんなことはしないだろ?その理由を聞かせてほしい」

「昨日私が教会で聖女の真似事してたことの理由を説明したでしょ?

 本当はこんなに早く見つける予定じゃなくてもっと長い期間での調査の予定だったのよ。

 幾らラプラスが優秀だからとはいえ何の情報もない状態からは力を使えないからね。

 それで、ここら辺の調査をするなら年齢を考慮してこっちの学校に通いながらのほうがいいんじゃないかっていう話だったの。

 転入に話題性を持たせるために教会であんなことしてたのよ...

 でもまさか調査を始めた次の日に見つかるなんて思わないじゃない?

 しかもあんた一人暮らししているようだったし

 急に決めた居住予定の場所は割と通学に距離があるし、近くに知っている人がいないなんてさびしいじゃないの!

 だから、ここに住むことにしたのよ!」

何故か後半若干キレ気味でまくしたてられてしまった。

とりあえずそういうことなら俺に非があるようなないような気がするので、受け入れるしかないようだ。決して勢いに負けたわけではない。

でも実際こんな美少女と一つ屋根の下とか男としては「バッチコォォォイ‼」な状況なので断る理由はないのだが。

そうと決まれば、まずすることがある。

「まずいろいろとルールを決めよう。風呂とか家事の分担とかな。」

「そうね、決めちゃった方がよさそうね。  

 料理に関してはシノがやった方が多分お互い幸せだと思うわ。かわりに洗濯とか掃除は私がするわ。

 風呂に関しては、入ってる時にはちゃんと風呂場の扉を閉めておく。そうじゃないときは開けておく。

 こんな感じでいいんじゃないかしら?」

家事の負担としてはやや凪のほうが重めな気がするが....それを凪に伝えると

「急に転がり込んできたのは私の方だもの。これくらいやらせてほしい。」

だそうです。

まぁ偶に気が付いたら手伝えばいいかと思って納得していると、風呂の沸いた音が聞こえてきた。

ここで俺は気が付いた。今夜はどちらから入るのかという問題が残っていることに。

早速この難問にとりかかるべく凪のほうを向くと、既に風呂の支度を済ませていたようで扉を閉めて風呂に入っていた。


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凪の入浴を待っている間に俺は村正に話しかけるのであった。

「なぁ村正よぉ...とりあえず俺はこれからどうしたらいいんだ?

 こんな力手に入れても困るっていうか、使い道がわからないし。

 村正が俺を認めてくれたってのはわかったけどさ、してほしいこととかなんかないのか?」

「まぁ確かに急にこんなことになればそうなるか。

 とりあえず二つだ。この二つさえやってくれればいつも通りに生活してもらって構わない。」

俺は少し緊張した面持ちで

「一つ目は、俺の手入れだ。何を斬っても刃こぼれすることはないし汚れることもない。

 だが使い手に手入れをしてほしいという刀としてのプライドがある。偶にだけでいいんだが、ここだけは譲れない。

 二つ目に関してはどちらかというと坊主のためだな。

 毎日素振りをするなり走り込みをするなりして自身の強化をしてくれ。

 お前は刀を扱うからだがまだできていないんだ。

 昨日みたいにすぐ終わるような戦闘ならなんとかなるが、少しでも長引いたら体力が持たずに負けちまうぞ?」

確かに昨日はあいつが引いてくれたから何とかなったが、

家に帰った後のあの眠気のことを考えると確かにこのままではこの先何かあったとき対処できないこともありそうだ。

それに敗北が死につながってしまいそうな世界なので、鍛えておくに越したことはないだろう。

そうときまれば早速行動に移すことにした。風呂に入る前だったのでちょうどいいところである。

まずは、昨日の戦闘を覚えているうちに素振りをから始めていった。


そうこうしている内に時間がたって、風呂からでた凪が外で素振りをしている俺のところにきた。

凪の髪はまだ乾ききっておらず、まだ少し水分を含んでいることによりいつもと違ってどこか淫靡な印象を受ける。

更に淡い月の光を浴びていることによりいつもと比べてひと際、銀の色が映えているので

目の前で多大な感謝しながら礼拝でも始めてしまいそうなほどの衝撃をうけてしまった。

そんな自分の荒れ狂う内心を治めつつトレーニングを終えた。

「...相変わらず益体もないこと考えていそうな顔をしているわね。まぁいいわ。

 トレーニングをしていたようだけどいったん切り上げて、さっさと風呂に入ってしまいなさい。それを伝えに来ただけよ。」

もう少しトレーニングをしたいと思っていたが、さっさと入れと言われたら入ってしまった方がいいだろう。

さっさと風呂に入って髪を乾かして自分の部屋に戻ると、何故か俺のベッドの上で凪が待っていた。

「風呂からでてきたようね。少し話があったからあなたの部屋の来たのだけれど...ずいぶんと物が少ないのね。

 意外と部屋が散らかっていなくて少し驚いたわ。」

なんだか自分の部屋をまじまじと見られて女の子に評価されるってのは、なんだかちょっとむずむずするな。

「それで、話ってのは何だ?ギルドに所属したことで俺にもなにか仕事とか割り振られたりするのか?」

「今のところあなたに仕事を割り振るっていう話は出てないわね。

 多分能力に目覚めたばかりだからまだ余計なことをさせないほうがいいっていう考えだと思うわ。」

確かに凪の言う通り、今の俺に急に何か仕事を割り振られても混乱するというのはその通りだと思う。

「じゃあ話ってなんなんだ?」

「今日の話で私が自分の能力を扱え切れていないって聞いたでしょ?

 私は力を扱える様になりたいの。今後の戦いを生き抜いていくためにもこれは必要なことだから。

 だから、その手伝いをお願いしたいのよ。

 恥ずかしい話だけど、能力に目覚めたばかりのあんたの方が強いのは確かだから....日にちを決めて練習をしてほしい。」

なるほど。確かに能力を扱えないままだとこの先不安なのは確かだ。それに...

「俺としても能力者との練習とあれば断る理由もないしむしろありがたいので、全然okだ。

 それで、どのくらいの頻度でやるつもりなんだ?」

「できれば毎日といいたいところだけど、学校もあるしそうもいかないわね。

 休日は全部、平日は火曜日と木曜日とかこんな感じでどうかしら?

 とりあえず明日は日曜日だから、まずは明日からって感じでいきましょ!」

「まぁそんな感じでいいと思うぞ。」

やけに多い気がするが、場合によっては命にかかわってくるのでこれぐらいが妥当か。。

自分のトレーニングとのかみ合わせをどうしようかと考えていると...

「今日は買い物とか色々して疲れたわね...。もう寝ることにするわ。」

そういうと、凪は寝転がってベットですやすやと寝始めてしまった。...俺のベッドで。

ここは俺のベッドだぞとか、とっとと起きないと襲っちまうぞとか無粋なことを言うわけにもいかなく...

おとなしくリビングで寝ることにした。

「意気地なし。」 

部屋を出るときに何か寝言が聞こえた気がしたが、眠気に襲われていた俺はふらふらとリビングに向かって寝た。

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