第3話 魔導書の分類について

とりあえず今後の方針を考えたいな..

不特定多数のグリムに狙われ続けるとしたら流石に一人では対処しきれずそのうちもっと大変なことになりそうだ。

ここは凪のところに入れてもらうのが得策なように思える。

「てなわけで凪、俺を仲間に入れてほしい。一人じゃこのさき生きてけなさそうなんだ、頼む!」

割と俺の立場的にそう易々と仲間にいれてもらえそうもないのだが、頼る先が凪しかいないので一縷の望みにかけてお願いする。

「元々あなたを勧誘しに来たわけだし、断る理由もないわね。マスターには全部話すことになっちゃうと思うけど、

 それでもいいなら是非歓迎するわよ。シノ。」

こちらが何か条件を付けられる立場ではないのでありがたい話にちょっと泣きそうになる。いや、ちょっとだけだから。ほんとに。

だいぶ濃い時間を過ごした気がするのだが、時間としてはまだ昼前にもなっていない。

この後何からしたものかと悩んでいると、

「この後予定ないなら私たちのギルドの本部のリーダーに会いにいかない?東京と周りの県を幾つか保護しているギルドだから、

 本部が首都である東京にあるのだけど...私も少し用事があるし顔見せも必要だと思うの、どうかしら?」

「確かにこれから真の意味で厄介になる予定なので、こちらから足を運ぶのが礼儀というものだろう。」

...それにこの綺麗な銀髪を用事の間ずっと見てられるとか最高の休日になる予感しかしない。断言できる。

妙に覚悟の決まった顔をした俺をみて訝しげな視線を送ってくるが、そんなのお構いなしに出かける準備を始めた。

凪の服は割とボロボロだったので、俺の服をとりあえず貸すことにした。

しかし当の本人より着こなしている上に女性受けしそうな魅力を醸し出していて、服は主人を選ぶものだと痛感させられた。

少し喪失感に苛まれてしまった自分を慰めつつ、凪にギルドに案内してもらうべく家を出た。

凪によると、本部は渋谷にあるらしくここから電車ですぐらしい。

しかし急に転校してった凪にまたあえるなんておもわなかったなぁ...と、思いつつ電車に揺られながら凪に質問をした。

「そういえば長野まで親についていったのに、なんで今ここにいるんだ?色々今までのことききたいんだけど..」

すると、凪は今迄にあったことを話してくれた。

「中学を卒業するまでは向こうにいたんだけど、魔導書の所持者っていうのを隠し続けるのにも限界があってね...

 ある日、どこかのギルドのグリムに襲われてしまって危うくさらわれてしまいそうになったのよ。

 当時はまだ能力の使い方なんてほとんどわからなかったから、なすすべなく組み伏せられちゃったの。

 でも、今所属しているギルドのリーダーがちょうど助けに来てくれたおかげで無事だったのよ。

 中学を卒業するまでは護衛の人を付けてもらっていたのだけれど、

 ずっとそのままっていうより東京に来た方が安全だと言われて東京に戻ってきたの。

 ほんとは東京に戻ってきた時にシノに会いに行こうと思っていたのだけれど、色々忙しくて行けなかったのよ。

 そんな感じで私は東京に戻ってきて、ギルドの一員として色々活動してるってわけ。」

どうやら凪も大変な思いをしていたようだった。

そして、話が終わったころには電車から降り、目的地のギルド本部についた。

「ようこそ。天之防波亭に!歓迎するわ。」

凪に改めて歓迎されつつ、受付のお姉さんの前を通りエレベーターに乗って最上階に向かった。

エレベーターから降りると、「リーダーの部屋」と書かれた部屋の前に出た。

部屋の前にたつと、中からなにやら怒っているような声が聞こえてきた。

凪が扉を開けて入っていったので俺もついていったのだが...散らかっている部屋の中で男の人が女の人から説教を受けていた。

「いつもいつも部屋を散らかして...少しはちらかさない努力をしてくださいよ。」

「部屋のかたずけまで込みで雇っているんだからいいじゃないか別に...。」

「それはそれです。ちらかしておいていい理由にはなりません。だいたいあなたは...

 ...これは失礼しました。お見苦しいところをお見せしました。

 凪さん、あなたの隣にいる方はもしかして..?」

 どうやら俺たちが見ているのに気が付いて説教をやめ、凪に話しかけてきた。

「ええ、先日あの声によってしらされた特異な魔導書の持ち主の、四之宮という男です。

何やら俺の紹介を始めたので、とりあえず名乗っておくのが礼儀というものだろう。

「どうも、ご紹介にあずかりました四之宮信介というものです。

 ここのギルドに入れてもらいたくて今日はきました。よろしくおねがいします」

軽い挨拶をして次の言葉を待っていると、いきなりさっき説教を受けていた男が俺の前まで距離を詰めてきた。

「やぁやぁ!僕はここのリーダーやらせてもらっている鑓原 玲[やりはらあきら]っていうものだよ!

 とりあえずようこそ、天之防波亭に! 君の参加は是非是非!..と言いたいところなんだけど一つだけ質問をさせてほしい。

 君は魔導書の力をどんなふうに使うつもりなのかな?この質問にだけは絶対に答えてほしいな。」

なにやら重要そうな質問だが、難しい質問でもないので

「使い道精々自己防衛ぐらいしかなさそうなので、おとなしく過ごしたいと思います」

と、答えた。すると、

「どうやら君はこのギルドに入るに足る人材のようだね!

 このギルドの活動理念は世界平和と、この魔導書関連の情報集め、そしてこの事態の解明だからね。

 君のように力を使って何かをしようとしない人間なら歓迎さ!」

どうやら俺は加入を認めてもらえたらしい。

「一応私も自己紹介をしておくかしら。私の名前は大貫 真純[おおぬきますみ]。

 このダメリーダーの秘書をやってます。困ったことがあったら私に行ってね、対処するから。」

だいたいこの二人の関係もわかってきたな...と少し情報を整理していると

「四之宮君、早速で悪いんだけど君の魔導書の能力をみせてくれないかな。

 上に立つものとしてはメンバーの能力を知っておきたいんだよ。」

特に断るようなことでもないので能力をみせようと、カバンから魔導書をだそうとしたのだが..ない。

確かにカバンに入れたはずの魔導書がない!?焦ってカバンの中を覗き込んでいると

「もしかして魔導書がなくてあわてているのかい?凪ちゃんはもう説明したものだとおもっていたよ...

四之宮君、心の中で念じれば君の手元に魔導書は現れるよ。やってごらん?」

忘れたわけではないと安心し、いったん落ち着いた俺は心の中で念じた。

すると、突然手元に魔導書が現れた。

「魔導書も無事だせたようだし、君の能力を見せてくれるかな?」

俺は村正を出すべく、心の中で[無に帰せ 村正]と唱えた。

...しかし剣が出てこない。おかしいと思いつつ、魔導書を叩いたりパラパラしたりしていると

「おぉ悪いな坊主。寝てて反応できなかった、すまんな。」

と、気づいたら手に握られていた村正から謝られた。

「剣なのに寝るとか...色々不思議な奴だな。」

「俺にだって意識はあるし偶に寝ることだってあるぞ。」

村正とそんな感じで話していると、鑓原さんが

「君の武器は...みたところ刀、日本刀のようだがしゃべることができるのか!?」

何やら村正が話せることに驚いているようだった。

よく見てみると、秘書の真純さんも驚いた表情でこちらをみていた。

村正について俺が説明しようとしたが、それより先に凪が説明を始めた。

「この刀の名前は村正という名前で、見ての通り話せるらしいの。

 能力もちょっと特殊で斬った能力の無効化と、刀の扱いが上手くなるらしいくて。

 シノ自身も昨日戦闘中に私を助けるために能力を開花させたばかりで、まだわからないことだらけで困ってるのよ。」

どうやら俺が余計なことを言わないように説明をしてくれたらしい。

...しかし、信用されてないっぽくて少し悲しみを覚えてしまうな。気を使ってくれたのは嬉しいのだが。

少し複雑な心情になっていると鑓原さんが

「なるほど、確かに色々と特殊な武器型の魔導書のようだがきっとこのギルドの力になってくれそうないい能力だね。」

と、評価してくれた。

これでこの話は終わりかなと思っていると、秘書の真純さんが凪に向けて話し始めた。

「さっき助けてもらったといっていたけれど、やはり何者かと戦闘になったのね?」

「はい。ヴルガンのリーダーの不知火に襲われてしまって、シノが来てくれなかったら私きっと...」

どうやら戦闘になることは予想がついていたようだが、戦力までは予想できていなかったようで

かなり危険な状態だったことを改めて思い知った。

「やっぱり意識を失ってでも能力を使って、情報の確度を上げるべきだったんだわ...」

昨日のことを少し思い出して色々考えていた俺だったが、今の真純さんの発言が気になって

「もしかして真純さんも魔導書の適合者なんですか?」

と聞いてみた。そしたら

「ええ、私は超人型の魔導書の適合者よ。その中でも少し特殊な部類なのだけれど..」

と、知らない単語がでてきて真純さんの能力の説明が始まりそうだったが、急に鑓原さんが話だした。

「もしかして四之宮君は魔導書のタイプについて知らないんじゃないのかな?」

その言葉を聞いた凪は少しギクッとした表情でうなずいて

「そういえばそれについて話すのわすれていたわ...色々ありすぎて。ごめんなさいね。」

...俺は大事なことをきかされていなかったらしい。

「といってもそんな難しい話じゃないんだ。

 でも、今後グリムとの戦闘を避けれらないだろうことを考えるとしっておかなければならない。」

 

魔導書のタイプは大きく三種類にわけられるんだ。

一つ目は「武器型」とよばれる史実や伝承に基づいた武器を召喚、使用できる能力なんだ。四之宮くんはここに分類されるんだ。

二つ目は「超人型」とよばれる歴史上に残っている偉人にまつわる逸話や技能を使用することのできる能力なんだ。

真純君はここに分類されるんだよ。

そして三つめは「自然型」とよばれる、自然現象の発生、操作が可能な能力なんだ。

他の二つと比べて人数自体は凄く少ないんだが、その分強力なんだ。

ヴルガンの不知火と戦ったのならわかると思うんだが、力を扱える奴はあれぐらいの実力者なんだ。

うちにも凪ちゃんを含め二人その能力者がいるんだけど、凪ちゃんは扱え切れていなくてね。

強力な能力であるが故制御が難しいというのがこの能力の特徴なんだ。


「...まぁこんな感じで三種類に分けてるって感じだね。

 ちなみに真純ちゃんの魔導書は超人型でね、少し特殊なんだけどとても強力な能力を持っているんだ。」

魔導書の説明が終わった鑓原さんはそういうと、真純さんに目配せをした。

「...そうなんです。私の魔導書は超人型で、能力は超演算なんです。

 ラプラスの悪魔という話を知っていますか?その話に出てくる悪魔の能力を模したものなのですが..」

その話が全くわからない俺は、とりあえず困った表情をするしかなかった。となりで凪のため息が聞こえた気がした。

「ラプラスの悪魔っていうのはね?ラプラスっていう人が考え出した悪魔なの。

 この世のある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができて、

 もしもそれらのデータを処理できるだけの能力と知性を持った存在のこと。」

凪が説明してくれたが、何となくしか理解できなかった。そんな感じの顔をしていたらまたため息が聞こえた気がした。

「...凪ちゃんが説明してくれた通りの悪魔の能力を私は扱える。でも、私が扱えるのは処理能力のほうだけなの。

 私が得ている知識をもとに処理能力をあげていろいろなことがわかるって感じの能力なのよ。

 それに、知ろうとする物事に対して使う処理能力によって疲労度合いが変わるんだけど...燃費悪いのよ。これ。」

なるほど、それで戦闘の予測ができていたり、もっと能力を使うべきだったとかいっていたのか。

また知識の増えた俺はとりあえず頭の中を整理して落ち着いていた。

そうしていると、鑓原さんが興味しんしんと言った感じで質問をしてきた。

「凪ちゃんと四之宮君なんかとっても仲良さげにみえるけど...なんだい?もしかしてラブなのかい?」

なんか急に男子高校生のノリで聞いてくるもんだから、少しフリーズしてしまった。さっきの話との温度差で。...温度だけに。

「いえ、小学生のころに仲が良かっただけですよ。あの頃僕が仲良かったの凪だけだったので、それだけです。」

とりあえず、誤解を生まないように努めて簡潔に答えたのだが...横から足を踏まれてしまった。

多分俺が内心でくだらないことを考えていたから、それを察知して踏んだのだろう。...にしても痛いな。これ。

そのやり取りを見て鑓原さんが何かにやにやしているが、

横にいる真純さんの突き刺すような視線にいい加減気づいた方がいいと思う。まじで殺気が込められてるぞ。あれ。

多分その視線に気づいたのだろう、突然襟元を正し始めた。

「...ごほん。とりあえず今日のところはこんな感じでお開きにしようじゃないか。 

 まだ日の上っている時間なのだから、せっかくの休日楽しんでくるといいさ。」

これ以上聞きたいこともないし、ここらへんで帰ろうかなと思って扉に手をかけたときに、

「シノ、ちょっと私話があるから先に外に出て待っていて。」

と、命令された。 

美少女からの命令とあらば逆らうわけにいかないところの男子高校生なので、本部の外に出て待っていた。

このあと何をしようかと考えていたら...案外早く凪が外に出てきた。

「待たせて悪かったわね。それじゃ買い物しに行きましょ」

と、自然に誘われたとあってはさからうわk(以下略)


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