第2話 戦闘の後
「とりあえず聖女様。助けたお礼としてはなんですが、この状況について色々と説明してもらえませんか?」
目下の危機こそ去ったものの、この状況に関して全くの無知なのでとりあえず聞いてみる。
「私も色々話したいのは山々なんだけれど...少し休ませてもらえないかしら。今話しているのも辛いのよ。」
そういうと聖女様は気を失って倒れてしまった。
とりあえず自分の家に連れて行こうと思って聖女様を背負ってみたが、肝心なことを忘れていた。
「帰り道がわからない...」
そう、わからないのである。どうしたものかと悩んでいたら
「多分あっちの方にいけば家に帰れるぞ」
と、村正が言った。
誰にも見つかりませんようにと思いながらその方向に進んでみると、すぐに自分の家の前に出た。
とりあえず服とかに触るわけにもいかなかったので、自分の部屋のベッドに寝かしておいた。
俺も色々あって疲れていたのか急に眠気が来たので、リビングのソファーで寝ることにした。
翌朝目が覚めた俺はめちゃくちゃ焦っていた。
「やべぇえええぇぇ遅刻だあああぁぁぁぁぁあああああ」
目が覚めたらもう九時を回ってしまっていたため、少しでも早く学校に行くべく急いでいるのだ。
「何言ってるのよ、今日は土曜日じゃないの。学校ないでしょ?」
おそらくこちらも寝起きであろう聖女様のお言葉で俺は落ち着きを取り戻した。
今日が休日であるということを思い出して余裕を手に入れた俺は、早速昨日のことについての質問をした。
「めちゃくちゃ聞きたいことあるんですけど、聖女様はなんで俺のこと知ってたんですか?」
「一番最初に聞くことがそれ。しかも私のこと忘れているなんて....
私達が小学六年生の時まで仲良かったじゃない!...六年生の時に引っ越しちゃったけど、本当に忘れちゃったの?」
ピキーン!ここで俺の脳裏に電流走る。小学生の頃、唯一仲の良かった水凪里美という少女の記憶が呼び起こされる。
「もしかして...凪か?...いや、変わりすぎだろ!
当時から色々成長してるし、可愛くなりすぎだし、髪もめっちゃきれいになってるしよぉ!...これは流石にわからないだろ。」
「そっ...そこまで言うなら忘れていたことは不問にしてあげてもいいわ。」
ほめちぎったおかげでなんかちょっと嬉しそうに見えるのでミスのカバーはうまくいったようだ。
「じゃあ次の質問なんだが、一体俺は何に巻き込まれたんだ?そして昨日のあの超常現象はなんだったんだ?全部教えてくれ。」
「とりあえず先に質問に答えてあげる。まずあなたが巻き込まれた一連のことに関してなのだけれど、
これに関しては明確にわかっていないわ。ことの発端は4年前のある出来事なのよ。」
四年前に世界中の色々な人の元に特殊な本が突如与えられたの。
与えられた人の中にはどこぞの国の王族や、野心の強い政治家、年端のいかない少女や、病弱で外に出たことのないような少年などに与えられた。
その本は所持者に特殊な能力や武器を与えるというものだった。
そのことからこの特殊な本は「魔導書」と呼ばれ、特殊な能力を与えられたものは「グリム」と呼ばれている。
また、最近ではグリム同士で集まってギルドを作って社会的な力も持ち始めている。
今はまだ魔導書の存在を知る地域は少ないが、既に一部の地域は過激派ギルドの影響下にある。
昨日襲ってきた男は「不知火 誠」という名前で、その過激派ギルドの一つである「ヴルガン」のリーダー。
近々何かしようと色々企んで動いているらしくて...
それで、特殊な魔導書の中でも更に特殊らしい魔導書の持ち主のあなたを引き入れようとしてたわけ。
私たちのギルドも自分たちの管轄内でそんなことがあるのは見過ごせないからその魔導書の持ち主を保護しようと動いていたのよ。
まさかその持ち主があんただったとは思わなかったけどね。
「だいたい説明としてはこんな感じになるわね。ほかにまだあるかしら?」
「まだあるぞ。まずは昨日の戦闘してた場所についてと、俺の魔導書についてだ。
昨日襲われた場所は家の近くなのに知らなかったし、この魔導書を手に入れたのは5年前なんだ。」
「昨日の場所は魔導書の適合者なら誰でも使える結界よ。結界内の戦闘で壊れたものも直ってしまうし、
一般人には知覚することができない不思議空間をつくれてしまうの。かなり便利なのよ?」
「なるほどな、そりゃ便利そうな能力だ。で?俺の魔導書については?」
「あんたの魔導書については正直わからないことだらけね。そもそも今回の騒動のきっかけになった特殊なグリムがいるという
情報の出どころ自体が特殊なのよ。
「特殊ってなんだ?」
「私たちグリムは魔導書を与えられたときに頭の中に
「人の身でその力を扱って見せろ」
と言われたの。
その時と同じ様に頭の中にこの街に特殊なグリムがいると先日いわれてね。それで頑張って探していたわけ。
教会でのこともその人探しの一環だったの。だからあなたの魔導書についてはわからないってのは私も一緒ね。」
どうやら俺の魔導書についてはさっぱりわからないらしいな。
しかし今の状況を理解するればするほどまずいことに足を突っ込んでしまったらしい。
これからどうしたものかと考えていると、村正がしゃべりだした。
「坊主、俺のことは俺から説明しよう。」
何やら凪が驚いているようだが、おとなしく説明を聞くことにした。
「俺は知っての通りちょっと特殊な魔導書でな。過去に適性者による戦争が起きるたびに適性者を自分で探して、
その適性者にある使命と力を与えることが俺の役割なんだ。」
「ある使命ってなんだ?」
「その使命とは...すまん。今は言えないんだ。時期が来たら話すが今はまだ駄目なんだ。
とにかく俺は坊主に素質をみたから五年前に坊主を古本屋に来るよう誘導して、その手に俺が渡るようにしむけたんだ。
そして、盟約を結んでこの村正の力を使える状態になっていることだけは確かだ。」
どうやら自分はだいぶこの事態の台風の目らしいことを自覚して、少し現実逃避に浸りたい気分になってしまった。
そんな感じで少し放心状態になっていると、凪が何やら話し出した。
「あんたの魔導書何故かしゃべるみたいだけど、そこはまぁ...今はふれないでおくわ。でもなんでそんな役割が与えられていて、
そこまでの知識があるの?この魔導書が出現してからまだ四年しかたってないからわからないことだらけなのよ。
例えば、何故魔導書が与えられたのかとか、魔導書を与えられた人間の条件とかね。
この件に関して知っていることがあれば話してほしいわ。」
確かに凪の言う通り俺もさっきの説明以上のことが知れるのなら知りたいと思ったので、俺も便乗して聞こうとしたら
「俺の口からは言えない、そういう決まりなんだ。その力が与えられた意味を、使い方を自分達で考えてくれとしか言えない。」
明確な拒絶をされたことで、俺も凪もこれ以上聞こうとは思えなかった。
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