第15話一番大事な仕事の基本~その十四~

「成程、よく分かった。とりあえず全部お前が原因だな」 

「いやいや待てよ、何一つ分かってないだろ。理解力があるくせに人の話を聞かないって相変わらず一番厄介な奴だなお前は」

 この世界でこいつにだけは言われたくない。

 しかし今追求すべきはことはそこではない。

 亜流呼からの報告があり無事が確認された時点で施設の地上部が健在なことは確認ができたいる。

 そしてこいつの証言戯言した更地にするために

 それをこいつ自身の口から訊き出すことが肝要だった。

「ちゃんと分かっている。こっちがなけなしの神経すり減らしてここまで飛んできたのによりにもよってだと。

 それもこの施設だけじゃなく当たり一面所構わず山も森も一緒くたとは。

 お前には環境保護だか自然を大切にだとかに対する意識はないのか?」

 実際にあの思春期の子どもよりも神経質な対空レーダーの警戒網の編みの目をその神経と技術を駆使してすり抜け俺たちをここまで運んでくれたのは高道運河だ。

 ここで問題は二つある。

 一つ目はいくら爆撃機がレーダーに補足されにくい性能を持つとはいえこの場合ほとんど意味がない。

 何故ならあの運河があそこまで気を遣わなければならないような網の目だ。それをどうやって突破して空爆なんてやらかしたのか。

 これは実際にその爆撃の雨の矢面に立たたされた亜流呼の報告からある程度の目星はついた。

 もし俺の推測が正しかったなら個人的に問い詰めたい。

 そしてその爆弾自体は亜流呼が》処理したお陰で地上への被害は皆無のようだ。

 その際の能力の使用が先ほどの一時的な断線の理由だろう。

 二つ目はその亜流呼が処理した爆弾が対地上用のものだけでなく、二の矢として地下貫通爆弾バンカーバスターが使用されたこと。

 それは空爆を実行した連中が地上部分はただの偽装でこの地下空間こそが施設の本体だと

 はたして一体誰が教えたのか。

 仕方がない。目の前にいる当人に訊くしかないか。

「随分非道い言われようだ。自分で言うのもなんだが俺ほどこの緑の大地と自然に愛着をもっている奴はそうはいないと思うぞ。

 だからあとで苦道亜流呼には礼をいっておいてくれないか。

 真逆というか流石というかを一人で何とかするとはね」

「それくらい自分で言え。きっと本人も

 それにそんなことは知っている。こいつが虫一匹、草木の一つを守るためなら人間などものの数には数えない。

 いっそのことそんなほとんど黒と見分けがつかないような暗い紺色ではなく、もっと明るく鮮やかな青の背広を着ればいいものを。 

 そして訊きたいのそこではなく、たとえそれは俺たちの求める回答はではない

 形式に則って言質をとるのは大事なことだ。

 相手がこいつだと大変に面倒だが。

「それはお前にお願いするよ。あいつはどうも苦手なんだ。

 見返りはきちんと支払うからさ」

「そうか。それじゃあ全力でお断りさせてもらう。せいぜい一人頑張って世界の緑化運動にでも励むがいいよ。

 だが支払いだけはしてもらう。 

 それで話は、一体何処のお喋り屋がどんな言葉で間抜けどもを唆してどうやってあんな馬鹿げた真似をさせたのか上に余計なこまで教えたのか。

 お前が知っている筈だからいいから答えろ」

 まるで雲の中にいるように焦点のぼやけた、そして雲の上を歩くように地に足のつかない曖昧でとぼけた会話を演じながら、何を訊き何を訊かれているのか、それは互いに

 刃の切っ先は髪の毛一筋ほとも外れることなく相手の眉間に向けたままだ。

 毎回意図した訳ではないのにこいつとの会話は大概こうなる。

 これが何故か苦にならない俺が不本意極まりないことだがこいつが関わっている案件では常に窓口担当にさせられる。

 確かに亜流呼あたりなら顔を見た瞬間まさに問答無用で殴っている。

 話を聞かないのではなく最初から聞く耳を一切もたないのだ。

 何も言ってこないが恐らく今こうして回線越しに聞いている最中も、さっさと燃やし尽くして灰にしたいと本心から思っているだろう。

「ああ、もうわかったよ。答えればいいんだろう。

「お前の口から訊くことに意味があるのはお前もわかっているだろう」

 そう言って刀に付けた鈴をと鳴らす。

「万事心得てる相手に報告することほど無意味なこともないと思うがね。

 さっきから言ってる通り俺は本当に何もしてないし本当のことしか言わないよ。どうしてか分からないがあんまり信じて貰えないだけで。

 ただちょっとした機会があって正義やら倫理とか道徳なんかを自己満足と履き違えた連中相手に、ここにいる奴らは皆外法の徒で悪魔の如き所業に日々精をだしているようなことを世間話で冗談混じりにしたらなんか連中本気にしてね

この世に悪は栄えない俺達がいる限りとか言い出して、笑うしかなかったよ。

いやぁまいったねホント」

 やっぱりに全部お前が原因か。

 それもまた回りくどい面倒なかたちで。

「その結果がか」

 結局何事もなく大事にならなかったがそれこそ結果論だ。

「ああ、真逆俺も思わなかったよ。

 実験段階の超音速爆撃機を持ち出しきて後先考えなく使うとなんてな。

 自分を満足させるためだけにあんな勿体ないことをするとはね」

 そこだけは同感だ。

 こいつの言う人命などではなく無駄になった機体のみを言っていても。

「じゃあ次だ。この施設に侵入した俺たち以外の第三の勢力というのはお前か?」

 こいつがここにいる以上訊くまでもないことだが。

「三分の一正解だ。

 ここに来たのは俺だけじゃないし俺たちは二人は勢力なんて言えるような数じゃない。

 あと一つ注文なんだがその第三の勢力って止めてくれないか。何だか背中が痒くなる」

「そうか。なら今度から自分で好きな呼ばれ方を考えてビラでも配れ。」

 うちのオプション料金は安くないぞ。

「それじゃあ一周して最初にもどってお終いだ。

 どうしてお前がここにいる」

 また適当な答えが返ってくるかと適当に考えていたがこれだけは今迄と違っていた。

「それは見届けるために。そして責任を果たすために、だ」

 、中身だけ入れ替わったような真摯な言葉と誠実な表情でそんな至極真っ当な答えを返してきた。

 その答えが嘘か本当か、いまどんな眼をしているか見るまでもなくわかってしまった。

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