第14話一番大事な仕事の基本~その十三~

 地下そのものが崩れ落ちるかのような揺れと轟音は予想に反して一度だけですぐに鎮まった。

 この地下施設はシェルターとしての役割も兼ねているのか、かなり頑丈に構築されているようだ。

 実際にあれだけの衝撃を受けても天井から欠片一つ落ちてこなかった。

 そのお陰か俺自身無様に地面を転がることもなくかすり傷一つ負っていない。

 それは揺れの最中も足に根が生えたように微動だにせず、こちらに青い眼を向けて立ち続ける男も同様だった。

 本来ならば落石にでも潰されていてくれれば後腐れもなくすっきりするのだが、今だけは

 最後まで口にできなかったこいつへの質問。それが

 しかし今はそれとは別に気がかりなことがある。

 それを確認しようとしたとき九区利からの通信が入った。

「大丈夫ですか亜流呼さん。無事でしてたら応答して。傷仁さん、つくもさん、ましろさんも同じく無事でしてたら応答願います。負傷や損害を受けた人はすぐに報告してください」

 一体何が起こったのか。

 そのことに対する詳細な説明や具体的な状況の確認を全て差し置いて、何よりもまず最初に俺たち三人の無事を確認してくれる。

 九区利も回線を通じて今の揺れと轟音を体感したはずだ。

 しかしその声はちらりとすら揺らぐことはなくいつも通りの落ち着いた響きを持ち、その穏やかな口調にも乱れや変化はない。

 焦燥や不安や動揺といった負の感情は容易く相手に伝わり連鎖していくことを熟知しているからだ。

 それが年月と経験から得た鋼の如き自制心であれ、生まれ持った天然の素質であれに意味がある。

 だが九区利の言葉には俺の懸念を補強する材料が含まれていた。

 九区利からの呼びかけは先ほどとは違い聴覚からではなく普段と同じく直接頭のなかに聞こえてくる。

 恐らく今の轟音による耳鳴りを気遣ってのことだろう。

 こういった切り替えはそうそうできない。

 特にこんな一秒でも早く現状を把握しなければならない場合は。

 確かに耳の奥に音の残響が残っているがこの程度なら支障はない。

 それでも九区利の気遣いに心のなかで感謝する。

 ならば間を置かず返答するのが道理だが、先に確認しておきたいことがある。

 先ほどの揺れは縦方向への振動だ。

 この地下空間そのものが巨大なシェイカーになったようだった。

 そしてその揺れは何か巨大な圧力を叩きつけたことで起きたものだ。

 ならばそのの矢面に立っていたのは亜流呼の筈だ。

 九区利が真っ先に呼びかけたのも亜流呼だった。

 きっと回線を通して亜流呼に何が起こったか知った筈だ。

 しかし俺や傷仁と違って亜流呼に繋げた回線からはその後どうなったか状況が分からなっかったのだろう。

 それがこの接続コネクト能力の欠点の一つだ。

 そもそもこの回線を繋ぐ条件が

 それは自分の精神を開放し完全に無防備になるということ。

 そして能力を行使し精神を繋ぐ親である九区利を完全に信頼するということ。

 そんなことは生半の覚悟と関係でできることではない。

 精神系統の能力者の前で自分の裡を曝け出すなどこめかみに銃を突きつけれているより遥かに質が悪い。

 それゆえに繋がれた子が拒絶の意志を示せばそれだけで回線は閉じてしまう。

 つまり精神を繋ぐのは親である九区利だがそれを受け入れるか、維持するかは子の意志による。

 また繋がれた子がこの接続コネクトよりも強力に能力を使用し精神に負荷がかかった場合も回線の繋がりは途絶えてしまう。

 とても利便性の高い能力だがそれを十全に活かし切るにための信頼性と安定性には不安定な部分があった。

 亜流呼に何かあったとは思えなから回線が繋がらない理由も恐らくはそれだろう。

 それでも万が一のことがないとはいえない。

 いつもなら呼びかけられればいの一番に返答を返す亜流呼からの報告が未だない。

 そのため自分でも亜流呼に呼びかけようとたそのとき、

「こちら苦道亜流呼。ちょっとびっくりしたけどいたって問題なく元気です」

 と本当に元気よく本人から報告が返ってきた。

 何があったかは知らないが多少なりとも本気を出せて気分が高揚しているのだろう。

 俺の懸念は一瞬で無駄になったが本人が無事ならそれに越したことはないしそれでいい。

 そう思っていると今度は、

「こちら傷仁。いやーすごい揺れと音だったけどこちらも何ともなく無傷だよ」

 などと冗句なのか本気なのか分からない報告で無事を伝える。

 なんだ結局最後俺なのかと思いつつしっかりと報告義務を果たすことにする。

「こちらつくも。カクテル気分を味わっただけで同じく問題なし。勿論姉さんも。あと見えてると思うが超絶的に不本意だが目の前の奴も五体満足揃っている」

「はい、見えていますよ。なのでつくもさんには新たに指示を追加します。使目の前の男から情報を絞り出したください。

 そしてお願いします」

「かしこまりました」

 俺は短く応え了解の意を伝える。

 しかし恐ろしく優しい声と触れれば凍るほど冷たい穏やかな口調でとんでもなく面倒な指示を受けた。

 これは怒髪天を衝く勢いだな。

 もし社長や九区利が戦闘大好きな宇宙人なら今頃金髪になってるだろう。

 拒否などできるわけがない。

 もとよりするつもりなど一ミリもないが。

「お仲間は全員無事だったみたいだな。よかったよかった一安心だ」

「ああ、全員ぴんぴんしてると報告があった」

 そう答えながら左手で懐から一振りの刀を引き抜く。

 本来なら柄を取り付ける部分に少々特殊な紐を巻きつけて滑り止めの柄代わりとした銀の刃の切っ先を、ぴたりと相手の眉間へ向けて固定する。

次はお前の番だ。我社のおっかないビッグツーがお前の報告を訊きたいそうだ。

 ああそれと訊きたいことが訊ければあとは。」

「それは怖いな、いや本気マジで」 

 巫山戯た口調と表情は相変わらずだ。

 だが自分に向けらる刃の切っ先から逸れることのない青い瞳が暗く鋭さを増していく。

「それじゃあさっきの続きだ。単刀直入にいくつか訊くから簡潔かつ明確に答えろ。

 何よりもまず最初に訊いておかないとならないことは、?」

 そう訊くと巫山戯た態度も思わせぶりな素振りもなく、何だそんなことかとでも言うようにあっさりと答えた。

「ただ上をにしようとしただけで特別何もしてないよ。

 相変わらずひとの話を聞かない上に人を食ったような答えを返してくる。

 だがそれは誰が見ても確実に何かしたとわかる顔をも、ヘリウム元素より軽く風船より薄っぺらい口調でさらりと告げた聞き捨てならない重大事な告白だった。

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