卒塔婆の塔のブンヤ 10
八重ちゃんの店を後にすると、飯も食わずに帰社した。日は傾いてはいるが時間的にはまだ早い夕方、退社時間には早い。
タツは今日は外出予定が無かった
外見同様に
「あれ、
「お帰りなさい
「お疲れさん。アイさん
「今日はもう戻らないかと思ってましたよ」
「ちょっと用事があってな。オヤジは?」
「社用が出来たってどっか行きました」
ふーん。まあいてもいなくてもどうでもいいんだけど。(この世に。)
「タツ、ちょっとこれ見て欲しいんだけど」
俺はタツに
「まさかお土産ですか!?」
「んなワケないでしょう」
なんでアイさんが言うわけ?
「まあ、残念ながらその通りなんだけどな…」
ガサゴソと中身を取り出すとマサに手渡す。
紙袋は
「これって…!? れ…零児さん、とうとう犯罪に手ぇ出したんスか!?」
「急いで! 110番!」
「ハイ!!」
「待てぃ」
どうしてそういう時だけ動きが
「聞けよ! 訳あって知り合いから預かったんだけど、お前確か
「え? ああ、まあ。…あ、なにこれすごい傷…」
大きく
「知り合いって…、このブランド、
「どうしてそう俺を犯罪者にしたいの!? 取材でたまたま知り合った子のバッグだよ! ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって、可哀そうだから直してやれないか預かっただけですぅ! ごめんなさいねぇ!」
だってちょっと恥ずかしいじゃないか。おっさんの意地だなんて。
「なんだつまらないの…」
なんだってなによ。つまらせてたまるか。全力で。
「で、タツ、どうよ? 直せるツテあるか?」
「許せねぇ…」
「はい?」
なんかブルブル震えてる。どうした?
「なんて事しやがるんですかコレェーーー!!!」
「お、おお!?」
基本的に
「知ってますかコレ? 〇〇 (←聞き取れなかった)の最新アイテムっスよ!? このブランドの特徴は決まったデザイナーによるデザインじゃなくて毎回
いつも大したやる気を見せないタツがこんなにも背景に炎を背負う事があるとは。
怒りポイントがいまいちよく分からんけどなんかゴメン、傷付けた原因の一部は俺だ。
「落ち着けって、めんつゆでも飲め。(3話参照) それで、直せるのか?」
「任せて下さいよ! 俺の意地に
炎が
仕事にもこれくらいやる気出してくれねぇかな。人の事言えんけど。
「そうと決まれば俺ちょっと行ってきます! そのまま
「おう頼んだぞ。費用は気にすんな」
机の片付けもせずに、タツは漫画なら砂煙でも上げそうな勢いで飛び出していった。
…いやあ、人は見かけによらないねぇ…。
ていうかあいつ勝手に直帰にしやがったな。まあいいけど。
「…アイさん、コーヒー
「あ、どうも。アメリカンでミルク三つでお願いします」
「了解ボンバラス」
「あ」
シュバっとボンバラスが素早く
それガチで信じてるのかよ。
◆◇◆◇◆
カイゾクの目撃された場所は本当に世界のあちこちで、ざっと見た感じ選ばれてる場所の法則性は分からなかった。ただ───
「やっぱり…! こいつら、一ヶ所につき
八重ちゃんがカイゾクオリジナル?から聞いた " 追われている " という意味。それが指し示す答えって訳じゃないが、現れた
「ココも…ココもだ…。確認できるものに関しては、最初に現れた飛行艇は恐らく全部同じ。そして戦闘行為に及んだ記録は無い。被害はそれ以降に現れた奴等によるものが全て…機影もよく似てはいるが微妙に違う…!」
目的は不明だが、まず例のカイゾクオリジナルが現れ、消える。
すると暫くしてから
この一連の流れが " 追われている者を探し出す為の実力行使 " だとするなら一応の理由として成立する。
「オリジナルは本当にランダムで場所を選んでるのか…?」
マウスをせわしなく操作し画面を次々と切り替える。
どちらかと言えば都市部や人の住んでいる土地を避けているようにも思えるが。
最初に人類にその姿を見せた時はたまたまこの街の上空になってしまった独自の理由があったのかもしれない。
「そこまでは分かんねぇ、か」
前のめりになり過ぎてギシついた背筋を伸ばそうと椅子の背もたれに寄り掛かった。それを丁度いいタイミングと見たのか、アイさんが背後から話しかけてくる。
「珍しく集中してるじゃない。なんか取材で分かったの?」
「まあ、ぼちぼちね」
俺はいつだって集中してるぞ。主に夢の中とか。
「実は私も結構楽しみにしてるのよ、カイゾクの記事」
「へぇ? そいつは
アイさんはあんまりウチみたいな本は読まないと思っていたから意外だ。
「だってこんな時代にカイゾクだなんて血が
ああ、あなた山賊みたいだもんね。
「という訳で、時間だから帰るわねー」
「うわ、もうそんな時間かよ」
しっかりと帰宅準備をしていたアイさんはドスドスと入口付近まで歩き、振り返る。
「
「へいへい、分かりました」
「じゃ、バーイ」
閉まりかけのドアから腕だけ伸ばしてブンブンと手を振るとそのまま階段をドスドス降りて行った。
半日前と同じ静寂が部屋を包む。違いがあるとすれば外の
「さて、と…。どうすっかねぇ…」
その時腹が冗談みたいな音を盛大に奏でた。自分で自分の体にビビった。
「うおっ!? …あ、そういや今日一回も飯食って無かったわ…」
という訳で、今度こそ飯を食いに行こうと決意したのであった。
(次話に続く)
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