卒塔婆の街のブンヤ 9
「ワンおじちゃんありがとう!」
「どういたしまして」
沢山の駄菓子の詰まったビニール袋を幸せそうに抱えて少女が満面の笑みを見せてくれた。
なんか呼び名が中国の
「1つだけ質問があるんだけどいいかな?」
無害な顔を作ろうとすると余計凶悪な
「なに?」
よし、外見的な
「そのバッグはお気に入りなのかい?」
やはり見覚えのある
「うん! お母さんに買ってもらったの。ちょっと大人っぽいかなって思ったけど」
確かに、この子くらいの年齢の子が持つよりも二十歳前後くらいの女性が持っている方がイメージ的にはしっくりくるデザインだ。よく分からんけど。
「その…、ちょっと傷付いちゃってるね。落っことしちゃったの?」
「あ…」
女の子の表情に影が差す。しまった、急ぎ過ぎたか?
もし予想通りだった場合、この子は数時間前に怖い経験をしていた事になる。それを思い出させてしまったかもしれない。
考えがいつも足りない自分に腹が立つ。
「ご、ごめん、言いにくかったら別にいいから」
しかし少女は
「…ううん、大丈夫。この
「…
そんな声出すなよ八重ちゃん。俺自身が気を付けてるってのに。
「もしかしてなんだけどさ、それ、誰かが取り返してくれた…とか?」
少女はハッとして俺を真っ直ぐ見た。気のせいか目が輝いている様に見える。
「うん、そうなの! 取られちゃったと思ったら知らないお兄さんが『待ってろ、取り返してくる!』って追いかけてくれたの! すごくカッコ良かったんだよ!」
お兄さん…? あれ…俺と同じくらいの年齢に見えたんだけど…な…??
地味なダメージが
「そしたらさっきね、本当に持ってきてくれたんだよ! 『傷付けちゃってごめん』って。それでどっか行っちゃったの。なんにもお礼出来なかった…」
「そっか…でも取り返してもらえて良かったね」
傷付ける原因になったのはあのブラックマンで、
「ほおぉぉん…。そりゃあ、まるでアタシの王子様との出会いとおんなじだねぇ…? こりゃまた偶然かい? アタシの王子様はそりゃあイケメンを
表現が嫌だ。
つか何張り合ってんだよ。自分と相手の歳考えろ。
「あのお兄さんの方がカッコいいもん!」
「あんだって!?」
なんだこの恋する乙女の意地のぶつかり合いは。にゃんこvs
王子様も大変だな。俺はおっさんだし別にいいけど。
「と、とにかく話は分かった! ありがとうな」
大人げない大人とおませな少女のにゃん
「どういたしまして!」
ふと、タツのコネを思い出した。
「…もし、良かったらなんだけどさ」
「?」
「またおっちゃんと会えたら、その時そのバッグの傷、直してあげようか?」
「えっ!? 本当に!?」
俺は
「まあほら、今日いきなり会ったばっかりの怪しいおっさんに大事なバッグ預けるのは嫌だろうからさ、また今d」
「お願いします!!」
ォーゥ…アグレッシヴ。
少女は
速すぎて俺でなかったら見逃しちゃうね。
「や、ちょ、自分で言っておいてアレだけど本当にいいの? 俺なんかに預けちゃって」
この世代の子達との接し方が分からない俺はまさかの展開の速さに慌てた。慌てるだろうそりゃ。
「え、おじちゃん、悪い人なの?」
少女が真っ直ぐに俺を見つめた。子供の目ってこんなに
「いや…まあ…多分、違う、かな」
悪党を人並みに憎いとは思う。その程度には悪党じゃないと思いたい。
けれど、だからと言ってこの手が綺麗かどうか───それは別の話だ。
「じゃあもうお友達でしょ! だからお願いします!」
ニコッと笑った顔。ああ、これが天使か。汚れた大人が
なんて不審な事を考えてしまう。
「おやおや、天下の
「うるせぇよ…」
頭をポリポリ照れ隠し。ここまで言われちゃやるっきゃねえよな。
「よっしゃ、いいチップ貰っちゃったし、おっちゃんに任せとけ! ピッカピカに直してくらぁ!」
タツの知り合いがだけどな。
右手で少女の頭をわしわし
「えへへ…お願いね」
「あ、とりあえず中に入ってる物は返しとくね?」
子供と言えどレディーの秘密の詰まった宝箱だ。中身の整理はちゃんと本人に任せた。
◆◇◆◇◆
よう、神様よう。
いいだろう。まさかこの歳で、俺にも天使みたいな友達が出来たんだぜ。
ずっと『薄汚れた体で人並みに幸せになんかなるな』って言われてた気がしてたんだ。
けど。けどさ。
ちょっとくらいなら、…許されたっていいよな。
人生はいつ何が起きるか分かんねぇな。
本当に。
◆◇◆◇◆
少女の名前は
キラキラと
空気が一気に
「…で、アテはあんのかい?」
ヤレヤレというトーンで問われる。
「ああ、ウチの奴でこっち関係に強いのがいるからそいつに頼む」
「修理代はどうするのさ」
手の中の痛々しい傷を受けた桜色のバッグをそっと
「…
フン、と鼻で一笑すると腕を組む八重ちゃん。
「ハナタレ小僧がいっちょまえに吹くじゃないか。…全く…付き合うならちゃんとご両親に挨拶行くんだよ」
「馬鹿でしょ!? 飛ばし過ぎなんだよ!」
この
ていうかそんなんじゃねぇし!
「でゅふふふふふ…❤」
いやだから何その歳の差ラブコメにキュンキュンしたみたいな顔ちょっとまじやめて!?
(次話へ続く)
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