卒塔婆の街のブンヤ 4
デケェ声の主はドカドカと下品な足音を響かせ事務所に入ってきた。
「ざいまーす」
「おはようございます、社長」
典型的なオヤジ体型にサングラス、脳天ハゲなのにドレッドヘア。ジャラジャラと大量に巻き付いた天然石のブレスレットと季節を無視したアロハ。職質待った無しのこの
「ようタツヤ! 今日も鳥の巣みてぇな頭してんな! お、何飲んでんだそれ超ウマそうじゃねぇか!」
「あげないっスよ」
「だっはははは! 俺の血液はめんつゆだから心配すんな!!」
何の心配だ。頭か? もう手遅れだよ。
「おおマドモワゼル愛子、今日も一段とボンバラスグラマラスですな!」
「セクハラです。自宅に押し掛けて押し倒しますよ」
パワハラです。いや強盗か?
「これは
デカい手でマイッタ!と自分の顔面をグラサンごとベシンと叩く。痛覚腐ってんのかな。
「アイさん今の録音しとけば
「
「おいおい…」
レゲェのジジイがこちらを見る。
「随分と冷たい事を言うじゃないか愛する息子よ。もしや…反抗期か? ………なーんつって! ぶぁーーっははははっははッ!!!」
「うるせぇな、朝っぱらからムカつく程テンション高ぇんだよハゲ」
だれか角材とか持ってきてくんないかな。3ドットほど存在削りたい。
するとオヤジはピタッと止まり、深く息を吐いた。そして俺をギラっと
「…まあ少々悪ふざけが過ぎた様だな。すまんな
こんなやさぐれた御曹司がいるか。
「だからと言って社長に対する態度がそれでは他の社員に示しがつかんだろう。最低限度の礼節は持てといつも言っている筈だ。ではやり直し。元気良くサン・ハイ♪」
「非常に
「Good!!」
よくねぇよハゲ。
何が満足だったのか分からんがオヤジは社長席にドカッと座った。
「さて諸君、今日も元気に頑張りましょう!」
「「 はーい 」」
なんだかんだアイさんとタツは
「
「今日はフリーだよ。どうせ午後から来ると思うけどな」
「何でぇ?? フリーなのに来るのぉ???」
グラサンがずり落ちるほどに驚いた声を上げるおハゲ様。
なにそのグラサン
「何でって…フリーつったって休みじゃねえだろ。夜中にも一回来たけどネタ
バァン!と突然机を叩くオヤジ。
ていうかブレスレット痛くねぇのかね。痛覚死んでんだろうな。
「馬鹿野郎! フリーを何だと思ってやがる!!」
「あんたは仕事を何だと思ってやがる」
俺が言えた義理じゃないけどな。
オヤジはチッ!と舌打ちすると、各人の予定の書き込まれたホワイトボードに目をやり、年季の入ったシステム手帳をバララッとめくり何かを確認するとバタっと閉じる。そしてメモ紙を一枚引き千切ると何か書き殴った。
「
自分の携帯電話と今書き殴ったメモを俺に
「いや自分でやれよ…」
「ポチポチすんの苦手なんだよ。地味で」
そんな理由で苦手な奴なんかいねぇよ。
「チッ、めんどくせぇな…。…あん? 相変わらずきったねぇ字だな…何々…」
「…!」
ああクソ、だからコイツはこういう所が嫌いなんだ。
俺は書かれていた言葉を一言一句間違える事なく入力し、送信を押した。
「送れたか?」
「…うるせぇ、次は自分でやれよ」
携帯を投げ返し、メモは握り潰すと近くのゴミ箱に捨てた。
オヤジは意にも介さない様子だ。クソッタレ。
「愛子さん、社長である私にお茶を入れてもらっても宜しいですかね?」
「表に自販機があるので領収書切って貰って下さい」
切れねぇです。
「なんて会社だ!!」
あんたの会社だよ。
そしてまさかの社長自らお湯を沸かす図。なんて会社だ。
「あ、シャチョー! お湯沸かしてる間ヤカンに祈るとウンコが
「ホンマか!!??」
ホンマなわけねぇだろ。なんだよ砂糖って。
「おま、馬鹿、それを記事にしなきゃダメだろオイ!! 大スクープじゃねぇか!!」
「確かに!!?」
あああ俺の嘘が全国レベル級に…!?
……いや、ならないな。ウチの本の知名度程度じゃ。
「…
「あ?」
電気ケトルに祈りを
「お前、今日
「ん? ああ。それが何だよ」
サングラスのブリッジをクイッと親指で押し上げると、俺だけに聴こえる程度の声で
「多分な、
───。
「…何でだよ」
「
「勘かよ」
「勘ですよ」
ああ
背もたれに寄り掛かりつつ、クルクルと回ってみたり。
いや遊んでる訳じゃなんだけどさ。遊んでるように見えても。
…絶対にオヤジに
少なくとも俺はオヤジが勘だと言って外したシーンを知らない。
問題は、
本当に天気の事ならいいんだけど、まずそんな訳がない。
机の下に差し込まれている
「はぁ…。気が進まないけど一応持っていくか…」
ふと、オヤジがマサに送ったメールの文章が頭をよぎった。
" 腐った奴等のネタよりもずっと腐りやすい親子関係ってネタをまず大事にしろ。今日出勤したら減給するぞ。 "
俺への当て付けかとも思ったが…万が一にもマサを巻き込まないように───?
……なーんつって、まさか、な。そんな大事件が起きる訳でもないだろうし。
「あ、オヤジ様、お仕事しますんでおコーヒーを頂けますでしょうか?」
「はい喜んで!!」
喜ぶなよボケ。社員への示しはどこ行った。
(次話へ続く)
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