卒塔婆の街のブンヤ 3
ああ、おはよう世界。インスタントコーヒーがウマい。
おかしいな、なんでこんなに涙が出るんだろう。
まあどうせいつものアレだ。何事も無く人生が過ぎちゃったおっさんが不意に生きる意味とか考えちゃったりする発作。
「今日も
せまっこい土地でせまっこい
たかが生きられて約100年、死ねば残るは
人は墓場を維持させる為に死に向かってゴミ畜生の様に生きている。
「ま、俺も他人を偉そうに
換気しないと事務のオバちゃんに
ちょっと。外から吹いて来ちゃったら煙草の煙が部屋の中に入っちゃうじゃないのよ。
ままならない自然相手に白旗を揚げながら換気扇を回しに行く。
あの後マサは散々文句を垂れ自宅に帰っていった。今日はフリーの予定だから来ようがどっかでサボろうが自己責任という名の自由日だが、
俺はマサが帰った後、次の号に
「ふぁぁ…。イカン、ちょっと濃いめに
俺一人でどんだけコーヒー消費してるんだろうか。その内請求されそうだ。
「いつもありがとうございます…ナム…」
スンスンと
「あら、珍しい宗教にでもハマったの?」
入口の方から野太い女性の声が聞こえてきた。換気の為に入口の扉も開放していたせいで、いつもならうるさく響くドアノブの音が聞こえなかった。
しかしその程度で
「こうやってお茶とかコーヒー
「まじかよ…!?」
まじなワケねーだろ。
なのに野太い声の主は体格に似合わない素早さで俺の横に立ち並ぶと、盛大に
「アイさんも飲む? ついでに
必死の祈りを捧げられている
「アメリカンで…ミルク3つでお願い…!!」
「了解マドモアゼル」
アイさんと呼んだこの
トポトポと2つのカップにお湯を注いでいると、入口の方から階段を軽快に上って来る足音が聞こえる。
「っはよーございまーっス」
「おう、おはようさん」
軽いノリで出勤してきた
ここのメンツの中では最年少の24歳、オカルトや
「あれ、
ポットの台座に祈り捧げてる姿見たらそう思うよな。俺のせいだけど。
「よくお聞き…。こうしてヤカン様に祈りを捧げると…ウンコが
「ウッヒョオオオ!? マジすか!? やっべ、パっね!! 俺も祈るっスわ!」
馬鹿1名追加です。ていうかお前、曲がりなりにもオカルト担当だろう。ちったぁ疑えよ。大丈夫かこいつら…いやこの会社。多分ダメだな。
「ふぅぅぅ…! いい汗かいたわ…これで私も大金持ちね…!」
ウンコ
「はいアメリカンどうぞ。ありったけの愛情ぶち込んどいたわ」
本当にうっすら汗かいてる
どんだけ祈りにカロリー投入したんだよ。
「やだ…❤ 私にはもう既に旦那という人が…❤」
旦那逃げられてんだろ。知ってんだよ。
「あれ、
俺はすかさずタツのケツを
「アッ!? ハゥ!!?」
どういう悲鳴だよ。
「確 か 、 素 敵 な 人 だ っ た よ な ぁ ?」
「ア、ハイ」
空気の読めない奴には
「イヤだわ…男ケダモノ二人に狙われるなんて私…罪な女…」
ホント重罪人だと思います。誰か捕まえて。幽閉して。
きったないバラを背景に背負いながらアイさんは今
体の内側、断熱材かなんかで出来てんの?
「あ、いいな
「
むしろお前が
「ひっでぇ! じゃあこれ飲むからいいですよ」
そう言うとタツは背負った大きめのボディバッグから細長いポットを取り出す。
「なんだよ、自分で用意してんじゃねえか…」
「自分、意識高いんで」
意識高い奴は自分で意識高いとは言わない。
「それってお茶?
自称意識高い系女子のアイさんが気になったのか
「薄めたホットめんつゆです」
「「 馬鹿なの? 」」
中年二人の心が一つになった。いや、確かにおいしいよめんつゆ? 俺も好きだよ?
「ひどいなあ…傷付くなあ…」
とか言いながら美味そうに
うわいい匂い。出汁の香りが
「いよ――ォ
ああ、とうとうクッソうるせぇのも来た。
この街とこの潰れかけた会社の一日がまた始まる。
(次話へ続く)
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