第32話インテルメッツォ-32  敗者/背斜

「くふふ、これはこれは失礼致しましたぁ。そして大変申し訳ありませんでしたぁ。今のは口が滑りましたねぇ。興が乗ると上の口まで滑りが良くなってしまうのが、わたしの困った癖ですねぇ。きしし。ええ、そうですよぉ。ご心配には及びませんよぉ。勿論、あなたが仰りたいことをわたしはちゃ~んと承知しておりますよぉ。当然、あなたが何も言わずとも、わたしはし~っかりと理解しておりますようぉ。ですから、あなたは何も言葉にしなくても宜しいんですよぉ。あなただけに限って、そんなことなどあるはずがないのですから。それくらい、とうの昔から存じ上げているのですからぁ。さぁてぇ、あなたが勝敗は決したと仰るのですから、お互いに義務の履行と権利の行使の時間と参ろうではありませんかぁ。それでは礼儀としてわたしから、敗者の義務から果たしていくとしましょうかぁ。けひひ。ではぁ、わたしはあなたに、一体何をして差し上げるべきなのでしょうかぁ? 先程はお断りの言葉を口にしましたがぁ、わたしに出来ることでしたら出来る限りのことをさせて頂く所存ですよぉ。それこそあなたのひと声さえあればぁ、喜んであなた自身を口にさせて頂きますようぉ。それはもう誠心誠意、わたしの心の全てを込めましてぇ。あなたに悦んでさえ頂けるならこの非才の身の全てを以て、あなたに尽くし奉仕することをお約束致しましょう。ですからぁ、。ぷぷく、この台詞、耳にする機会には幾度となく事欠くことはありませんでしたので流石に覚えてしまいましたよぉ。だって、誰も彼もがみんなして示し合わせたように同じ言葉を吐くのですよぉ? 全くもって創造性も独創性の欠片もない、無個性な要らないモノばかりでしたねぇ。生かしておく価値など一片もありませんでしからぁ、やはりまとめて処分しておいて正解でしたねぇ。でも、わたしは一度も口にしたことがないのですよねぇ。ですからわたし、決めていたのですよぉ。わたしの初めてを捧げる相手は、あなたにしようと。あなただけに、わたしの初めての言葉を貰って頂こうと、ずっと思っていたのですよぉ。残念ながら下の口のみさおはもう既にわたしの一番大事なひとだけのものですので、それだけは断固として諦めて頂きたく存じますよぉ。そこだけは何卒ご容赦とご寛恕かんじょの程をお願いしますよぉ。その代わりとは申しませんが、それ以外のことでしたら如何ようにでもなさって下さって構いませんのでぇ。それで如何でしたかぁ、先程のわたしはぁ。何処かにあなたのものがありましたかぁ? あなた自身の何処かがそそり立ったりは致しませんでしかたかぁ。あなたがお望みなのでしたらあの程度、幾らでもして見せて差し上げますよぉ。さぁてぇ、お次は待ちに待って溜まりに溜まったあなたが勝者の権利を行使する番ですようぉ。さあ、ありったけの欲望をぶちまけて、せいぜいわたしを愉しませてくださいねぇ。たとえ偽りでも嘘つきでも、あなたは間違いなく本当の魔王なのですから」

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