第17話インテルメッツォ-17 前進/全心
それは自ら神を殺した少女から贈られた、最大の侮蔑と軽蔑。
その言葉の意図と意味だけは
そして男は何も言わず、喰い破るように唇を噛み締めることで耐える抜いた。
そうしてまた一つ刻まれた傷から、新たな血が流れ出す。
その血が滴り落ちるより早く、少女に言わねばならぬことがある。
その為に、男は喘ぐように声を絞り出す。
「だが、それでも……」
「はぁい、何でしょうかぁ?」
しかし、男の言葉は届かない。
「今、何て仰いましたぁ? 申し訳無いのですが良く聞こえませんでしたぁ。駄目ですよぉ? 人と交わる際にはお相手のこともちゃんと考えて差し上げないとぉ。ご自分にしか伝わらない言葉など、自慰と変わりないのですからぁ。ですが今の声はなかかなに
ああ、確かにそうだったと少女の言葉が男の記憶を呼び醒ます。
この少女は、あの頃からそうだったと。
その愛らしい容姿と人懐っこい仕種さから、彼女に秘やかな好意を寄せる者はかなり多かった。
だが、少女はその全てを
鈍感でも愚鈍でもなく人の心の機微に敏い少女が、自分に向けられている感情に気付いていないはずはなかった。
だからといって、その如才の無さが人の気持ちを思い遣ることが出来る性質では決してなかった。
その機転は、人の想いを汲み取ることが出来るものとは全く異なる素質だった。
言葉にして伝えることすら出来ぬ想いなど、少女にとって興味の無い無価値に過ぎない。
気付いてもらうまで待っているだけの気持ちなど、少女には同質な無意味と無関心でしかない。
そんな少女に対して正面から己の想いと気持ちを言葉にして伝える奇特な者も、僅かながらも存在していた。
極稀にだが、そのような情景を目にした経験が幾度かあった。
その結末は何時も必ず無惨に終わらせると、少女は心に決めていた。
それが自分へと真っ向から向かってきた者に対する称賛であるかのように。
少女と相対した勇気ある者の言葉を粉々に打ち砕き、弾けるように想いを地に叩き伏せ、気持ちを千々に斬り刻んでいた。
男は以前、何故自分に好意を伝えた相手に対しああも手酷く断るのかと、少女に問うたことがある。
そう問われること自体、その現場を見ていたという自白に等しかったが、そんなことを少女は言及しなかった。
その場を見られ見ていたことは互いがとうに気付いていた既知であった上、少女にそれを咎め立てする意思など微塵もなかった。
ただ少女曰く、「わたしに彼らに対する想いも気持ちも皆無な以上、僅かばかりでも希望を持たせるのは逆に不実というものです。ここは一片の余地なくさっぱりきっぱりすっかり諦めて頂くのが賢明というものでしょう。そして新しい生殖と繁殖欲求、もとい恋だか愛だかを下半身の赴くままに探された方が、その方の今後にとってもきっと善いのではないかと。そう、わたしは思いますので」という誠実なのか無慈悲なのか図りかねる答えが返ってきた。
確かに一理あると言わざるを得ない所見ではある。
そして少女なりに誠意を持って対応したのだと理解も出来る。
だがあそこまで完膚無き迄に叩きのめされ、それでも再び立ち上がる気概を持てるか否か。
そう問われたならば、そこには大いに疑問符の付くところではあるのだが。
しかし己の心の裡を告げるのが自由ならば、その相手にどう応えるかもまた自由なはず。
その結果と結末が如何なるものであれ、それはどこまでも当事者の間だけの問題だ。
自分のような第三者があれこれと介入すべきことではないと、男は納得することにした。
例えその当事者のどちらか一方、もとい確定したどちらかが納得していなくとも。
その際は少女が誰にも迷惑を掛けることなく、穏便に
ただそこに関してだけは口を挟んでおくべきだったかと、男は場違いな感慨に耽りそうになる己を鼓舞した。
つまるところ、少女に己の意志を伝えるには言葉にして告げるしかない。
だが何と言葉にして告げたところで果たして少女に届くのか。
自分の意に沿わぬ意思に、己の理に適わぬ意志を、この少女が意に介することなどありはしない。
だとしたら、どうするべきか。
そんなことは、決まっている。
その道は、勇気ある先人達が既に示している。
ならば、自分もそれに倣うまで。
正面から相対し、真っ向から押し通る。
ただ、それのみ。
己の言葉を
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