第16話インテルメッツォ-16 逆転/虐点

「でもどう言ったところで、あなたの全てはもう手遅れなんですよねぇ」

 そう語る少女の声音は、先程までとは一変していた。

 癒やし慰め救いを司る慈母の優しさから、弄び惑わせ堕として享楽とする毒婦のはかりごとへと。

 まるで反転するように。

 くるりと裏返るように。

 男のよく知っていた、あの頃の少女の姿と面影を残したままに。

「もう何もかも、過ぎ去った昔々のお話なんですよねぇ」

 切り替わったように言葉を紡ぐ少女の瞳は、既に常に表情を取り戻している。

「もう一度は戻れない、もう二度と戻らない過去のお話なのですからぁ」

 男が垣間見たこの少女にはおよそ似つかわしくない感情、その片鱗すら見られない。

「ですから今頃わたしが何を言ったところで、今更あなたは何も変わりはしないのでしょうけどねぇ」

 不純物など存在しない底の見えぬ澄み切った眼差しには、先刻差した翳りなど影も形も存在しない。

 雲か霞か煙の如く、掴むことも出来ぬまま跡形も無く消え失せてしまっている。

「それでもあなたは、ご自分が歩まれたてきた道が間違っていたと、此処まで進んで来られて漸くようやくお知りになることが出来ましたぁ」

 入れ替わるように、その声には忍ぶことのない揶揄が滲み出す。

「そうしてあなたはこれまでと同様に、自ら間違いを犯し続けながら己の道をお歩きになられる以外に無いのですよぉ」

 その言葉には、今や隠すこと無き嘲弄が織り込まれている。

「けれどもあなたは、己の為し得てしまった全てが無意味な失敗だっと、遂にご理解なさることが出来たのでしたぁ」

 少女の喜悦はどこまでも高く昇り、男に胸の中に深く沈んでゆく。

「そうやってあなたはこれからも延々と、自らの失敗を後悔し続けながらご自身の道を歩み続ける他は無いのですよぉ」

 あの瞬いた、この少女らしかぬ

 それは男が望んだが故に見た陽炎、儚き幻だったと。

 少女の磨き抜かれた黒曜石の瞳が、声無き言葉で断じるように告げていた。

「何故ならあなたに残されている道は、もうたった一つしか無いのですからぁ」

 そこにあったのは、見えぬ傷口に泥を塗り込む愉悦の響き。

「そして今まさにあなたがお立ちになられている尖端こそが、己が歩むべきと信じて進まれた来た道の終点なのですよぉ」

 そこに含まれていたのは、心の薄膜に爪を立て掻き毟しってゆく愉快の調べ。

「此処にまで至ったこと、それだけがあなたの全ての結晶です。まあ、それもただただ無惨な結果の成れの果てに過ぎないのですけどねぇ」

 少女の言葉には、最早何も込められていない。

 そこにはただ、相手の存在の否定と軽蔑だけがある。

「ですから、あなたは此処までなのです。あなたが間違い続けてきた選択、その全てを修正する機会が訪れることなど永遠に有り得ないのですからぁ。同時に、あなたが失敗だけを重ねてきた決断、その全てを改竄することなど絶対に不可能なのですからぁ。勿論わたしからあなたにして差し上げることが少しでもおありでしたら、どのようなことであろうと喜んで致しましたのにぃ。こればかりはわたしの手には負いかねますからねぇ。ええ、とても残念でなりませんよぉ。本当に心より謝罪申し上げますねぇ。此の度は誠にお気の毒でしたぁ。おやおや、もしかしてお疑いになられてますかぁ。あなたにそう思われているかもしれないと想像するだけで、わたし、胸が張り裂けそうですよぉ。ですがそれもまた、心地良いものではあるのですけどねぇ。にしし。ああ、そうです! 善い事を思い付きました。あなたにご納得して頂くためでしたらわたし、

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