第15話インテルメッツォ-15 哀憐/愛蓮
「くすくす。実を言うとですねぇ、わたし、あなたに告白したいことがあるのですよ」
少女の頬に微かに朱が差し、はにかんだ表情を浮かべて男に告げる。
その言葉に、男の身体は反応したが少女を見据えるには至れない。
思考が鈍い。
身体が重い。
そして心が息苦しい。
何者でもない笑顔の幻影。
己が何を為したのか、その結果が解らない恐怖。
誰のものかも解らぬ声無き笑い。
己が為したことは何だったのか、その成果が無為だった失意。
突き付けられた己の足跡。
真っ直ぐ歩んできたはずの道程が、最初から歪んでいた絶望
結局自分は何も成し遂げてなどいなかった。
誰かの為にも。
何かの為にも。
出来ることさえ、出来なかった。
出来たはずのことさえ、出来ていなかった。
それすら自分自身で気付けなかった。
自分自身のことですら、己が一番分かっていなかった。
今この瞬間まで、ただの自己満足という
此処に至るその果てまで延々と、自分が見るべきものを見ていなかったことを初めて知った。
その徒労は枷となって絡みつき、倦怠は鎖となって男の全てを縛っていた。
「ああ、ご無理はなさらなくて宜しいのですよぉ。お顔はそのままで結構ですからぁ。あなたの仰る
少女の声は慈愛に溢れ、本心から男を気遣っているのが伺い知れる。
その想いは、確かに男にも伝わった。
一分の余裕無く拘束されていた心が僅かに揺れる。
その緩んだ隙間を縫うように、少女の思いは男に届く。
茫漠としていた男の目に光が戻り、焦点を結び始める。
その言葉はするりと容易く、僅かに
「きっとあなたのことです。これ迄沢山のご尽力をなされてきたのではありませんかぁ。今迄多くのご苦労を重ねられてきたのではありませんかぁ。そして他人から散々の、数え切れないくらいの迷惑を掛けられてきたのではありませんかぁ。他人の為に惨憺たる、計り知れな程の厄介事を押し付けられてきたのではありませんかぁ。全て自分以外の、
男は少女の言葉に何も返せない。
それは先程とは異なる理由。
たとえ否定しても肯定しても、それは認めことと同義だからだ。
「あなたは、
だが少女の言の刃は容赦なく、男の苦悩を抉り出す。
「あなたは最初から、生き方を間違ってしまったんです」
それは男の心の最も奥にあったもの。
考えることが無いよう、必死に目を逸らし続けてきた想い。
「あなたは、
それは男が心に封じてきたもの。
ふと溢れることが無いように、必死に堰き止めてきた無念。
その封を、少女は乱雑に斬り捨ててゆく。
「
「なのに、あなたは見誤ってしまった」
突き込まれた言の刃はより深く、心の奥へと突き進む。
「だからあなたは……」
言葉は、少女の心の中に溶けてゆく。
だがその瞬間、男は見た。
全てを引き千切るように振り上げた顔で、確かに目にしたのだ。
見据えた少女の瞳に過ぎった、数かな
心の裡を喰い破るようにして顔を出し現れた、初めて見せる感情を。
その名は、哀しみと憐れみ。
「あの時、あなたが本物の魔王になることが出来たなら、あなたは本当に幸せになることが出来ていたはずなんですから」
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