第13話インテルメッツォ-13 理解/離解
少女の放った、多分に
それを正面から受け止めた男には、先程のような憤怒も不快の感情も湧いてはこなかった。
ただ、
故に、数瞬前と同じ言葉を持ってして男は少女に応えようとした。
少女の有無を言わせぬ、ある種の確信に満ちた問い。
その体裁に裏付けされた、裏に隠されること無き断言と確定。
それを正面から一歩も退かずに打ち破り、また一歩踏み込み打ち砕くその為に。
此処まで歩み続けてきた道程、その最中掴み取り手に入れることが出来たもの。
皆の絶大なる矜持と共に、己への僅かながらの自負を込めて。
肺が大きく収縮し。
腹筋を波打つように蠕動させる。
そして己の意志を言葉と為して舌に載せて口を開いた。
まさに、その瞬間だった。
男の呼吸、その全てが凍り付いたのは。
それに伴い、動作の一切も停止する。
「あれあれぇ、一体どうされたのですかぁ、急に固まってしまわれてぇ。先程まで随分と身体に力が有り余っていっていらっしゃったのにぃ。もしかてぇ、固まったまま勢い余って達してしまれたのですかぁ。いけませんよぉ、わたしより先に粗相なさるなんてぇ。ですがそれも無理からぬ事なのでしょうかぁ。だってあなた、わ・た・し・に何か一言仰っしゃりたい事、お有りになんですよねぇ。あんなに意気込んだご様子で、覚悟を決められたようにお見受け致しましたものぉ。いいんですようぉ、遠慮なんてなさらくても。あなたの裡に積もり積もって溜まってらっしゃるもの、ぜーんぶ吐き出してしまって良いんですよぉ。ですからそんなに緊張なさらず、深呼吸でもして楽になってください。そうしてもう一度、頑張ってみましょうかぁ。ご心配なさらなくたえも大丈夫ですようぉ、次こそはきっと
今の男に、少女の言葉が聞こえない。
声が耳まで入ってきても、心には届かない。
何故今になって気が付いたのか。
何故今まで気が付かなかったのか。
どうして、此処まで何とも思わなかったのか。
何度となく思い出し、幾度も思い返してきたはずなのに。
みんなのことは確かに心に残っているはずのなに。
みんなの名前は全て、一字漏らさず覚えている。
みんなとの思い出も、何一つ忘れていない。
なのに。
ひとりひとりの顔が、誰なのか判別出来ない。
誰が誰なのか、一人たりとも区別が出来ない。
そこにあるはずの、目も、耳も、鼻も、口も。
人間の顔を構成している
まるで万華鏡の欠片のように、崩れるように乱れて見える。
今まで出会ってきた人々が。
あれ程大切に想っていた仲間でさえも。
みんなが、
解るのは、唯ひとつ。
その顔は、
男も女も子供も老人も生者も死人も誰も彼もがみんなが男のことを見詰めている。
「くふふ、
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