第9話インテルメッツォ-9 疑問/偽文
「あっれぇ、
構えを解き、冷えた銃身で自分の頬を
己の内心を隠そうともしない言葉に共鳴するよう、その醒めきった目に宿るのは不可思議の感情。
湖面の静謐さを称えていた目に、疑問の
予想していた事が、予想していた通りに起こり、予想していた結果を
その
だからこそ浮かぶ、その原因への疑問と不可思議。
しかし、その答えは既に少女の中で回答は為されている。
だがそれでも、訊かずにはいられない。
男の口から、言わせずにはいられない。
「どうしてわざわざ
男を試すかのように問いが重ねられていき、より明確に、より具体性を増していく。
興味が無くとも、知りたいことはある。
関心が無くとも、確かめたいことはある。
自分を納得させる為ならば、どんな事でもしなければ気が済まない。
物心ついた頃より自分自身で認識している、厄介で面倒な少女の持つ性癖だった。
「そうしなけばお前が此処の床を掃除する羽目になっていたのだが、そちらの方がお望みだったか?
男の口調は我知らず少女と共に居た頃に戻りつつあった。
当然の如く少女は
まるで無理矢理
何故そんな感覚を覚えるのか、全く心に当たりがない。
しかしそんなことはおくびにも出さず、少女は男に言葉を返す。
「そんなの当然です。自分の中身をぶち撒けたんですから、ちゃんと自分で後始末はして下さい。それに、わたしは
少女の問いは更に重ねられていき、薄くとも重く男の心に伸し掛かる。
思い返せば、少女はあの頃からこうだった。
自分の納得出来ない事が在る度に、気の済まない事がある毎にこうだったと。
原因を知らなければ納得出来ない。
結果を確かめなければ気が済まない。
だからこそ、少女にとって世界は退屈なものなのかもしれなかった。
そんなことが顔にでることが無いよう注意しながら、男は左手中央の指を三本立てる。
「どうしたのですか、急に指なんか立てて。もしかしてご自分の最大傾斜角度でも示していらっしゃるのですか?」
「違う。これだけははっきりと言っておくが断じて違う。俺は常に親指だ。人が問いに答えようとしているのだ。もう少し
それを聞いた少女は胡乱げな顔をしながらも、とりあえず頷いた。
「何もそんなに意地になって否定しなくてもよろしいじゃありませんか。男性の機微というものは存外、繊細なものなのですね。そんな軟弱なことではいざという時に役に勃ちませんよぉ。ですが、そういうことでしたら二重の意味で失礼しました。ですからそんな顔をしないで下さい。あなたは思いがすぐ顔に現れるのですから。男性は脳と下半身が直結しているというのはどうやら俗説では無さそうですねぇ。あー、はいはい、分かりました。もう余計に口には出しません。ああ、失礼、間違えました。もう余計な口は出しません」
言いながら話の先を促すように手を振ってくる。
その手を無視して一瞬視線を横に移せば、心底愉快そうに二人を眺める人ならざる人の目が合った。
天上人にとっては下界の俗事など、刹那の慰み程度に過ぎないのだろう。
否、それは彼女にのみ限った話なのかもしれない。
彼女はこの世界のありとあらゆるものに愉悦と快楽を見出だせる。
森羅万象、あまねく事象を、本当に心から愉しむことが出来るのだから。
故に、世界すら彼女の玩具に為の過ぎない。
無限に玩具が生まれ変わる箱庭でしかない。
そんな彼女だ。いわんや人間など、だ。
故にこそ付けられし
しかしその名をもって彼女を呼ぶ者は存在しない。
その傍らに彼女だけが振るえる、彼女と対となる
それこそ余計な思考に沈みかけていた男は不要な思いを追い払うように、小さく一度
その隙を彼女が見逃さないはずがないことは最初から解っていた。
そして立てた指を一本ずつ折りながら、一つずつゆっくりと時間を掛けて答えてゆく。
「まず一つ目。単純にあの弾丸を魔術で防げば死んでいた。次に二つ目。故にあの手段が最も効率的だった。そして三つ目。何より俺は、魔法遣いなんかじゃない」
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