第130話あんた、ここは俺がやろうじゃないか(はいお願いいたします)

 重く苦しく濃い瘴気が、空気のなかにとけていく。

 そのなかにいるひとたちは、みんなおんなじように動きをとめる。

 これは前兆。

 始まりの予兆。

 この世界のひとじゃないモノが来た通知。

 お呼びでないモノたちが来た案内。

 バケモノたちが、来た報せ。

 そのせいで、世界が裏返った証。

 血と恐怖と悦楽にまみれた、魔法少女の世界の入り口が開いていく。

 境界の、侵食だった。

「この禍々しい気配・・・・・・・・・、来たのか・・・・・・・・・、あいつらが・・・・・・・・・」

 ミドリが、つぶやく。

「これだけの邪悪な波動・・・・・・・・・、どうやら・・・・・・・・・、来ちゃったみたいね・・・・・・・・・」

 アオもまた、おんなじようにつぶやいた。

 そしてふたり同時に。

「こいし、敵だよ!」

「ほこる、敵よ!」

 お互いのパートナーに向かって呼びかけた。

「うん!」

「おう!」

 わたしと怪物さんも、同時に自分のパートナーに応えを返した。

 でもそのあとが大変だった。

 お互い真似をするなとばかりに、おでこがくっつきそうなくらい睨みあっていたふたり。

 それをわたしと怪物さん、ふたりで何とかひきはがす。

「ミドリ、ケンカしちゃダメだよ」

 わたしはひと言、ミドリに向かって注意する。

 いままさにケンカを売られている真っ最中のわたしからの、こころからのお願いだった。

「ごめんよ、こいし」

 それを意思を汲んでくれたのか、ミドリは素直に謝った。

「うん、わかればよろしい」

 何だかいつもと立場が逆になった気がするけど、これはこれでいいかもしれない。

 見れば、怪物さんのほうでも似たようなことをやっていた。

「駄目だろ、アオ。俺より先に手を出したりしたら。喧嘩を売るのは俺の役目。そしてそれを全力で止めるのが、アオ、お前の役目だろ?」

「そう・・・・・・・・・、そう、だったわね。ごめんなさい、ほこる」

「なぁに、分かってくれればそれでいいって。それにしてもいつもと立場が真逆だな。たまには、こういうのも悪くないぜ」

「何言っているのよ、もう」

「ははは。そんな顔するなよ、アオ」

 あれ、似たようなと言うより、これとほどんど同じものを、いまわたしはみたような。

 それもそのはず。

 怪物さんとアオのやりとりは、わたしとミドリとおんなじだった。

 その様子を見ていると、ますますこころのなかの疑念が強くなる。

 ホントにこのまま一緒にいたら、わたしとミドリはふたりと一緒になるんじゃないか。

 そんな予感が、わたしのこころのなかで大きくなっていった。

「こいし、気を付けて。これは今迄の相手とは違う。クライム・クラス十字を印した咎人だ」

クライム・クラス十字を印した咎人?」

「こいしが初めて闘う相手だよ」

 そういえば前にミドリが言っていた。

 わたしがいつも戦っているバケモノたちより、もっと強いやつらがいるって。

 それが、来たのか。

 その事実を認めたとき、わたしのこころに浮かんだのは恐怖じゃない。

 抑えきれない、歓喜だった。

「じゃあ・・・・・・・・・」

「なんだ、クライム・クラス十字を印した咎人は初めてなのか、天敵ちゃん」

 わたしの言葉に割りこむように、怪物さんが言葉をすべりこませてくる。

 それにしても、天敵ちゃんって・・・・・・・・・。

 いったいいつの間に、そんなヘンなあだ名をつけられたんだ。

「だったらここは俺に任せな。ああ、心配は要らないぜ。なんてたって、

 有無を言わせずそう言って、怪物さんはくるりとわたしに背を向けた。

 わたしも一緒に闘いますとか。

 別に心配なんて全然していませんとか。

 わたしの言いたいことを、わたしは言うひまもなかった。

 これが世に言う、先輩風を吹かすというものなのだろうか。

 だけどこれは、

「それじゃあいくぜ、アオ」

「いいわよ、ほこる」

 そうしてふたりは、互いの意志を確認しあう。

 そして、怪物さんは唱えた。

 魔法少女のこころのかたち。

 魔法の言葉新たな世界を開く鍵を。

「|I'm proud of only my breaker《これだけが自慢の拳》」

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