第129話あんた、そんなにびっくりすることないだろう(いえそれは無理です)

 うそ・・・・・・・・・、でしょ・・・・・・・・・。

 なんでこの怪物がここいる!?

「どうしたんだ? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。でも、そんな顔も可愛いぜ」

 ええ、ええ、それはそうでしょうとも。

 一瞬で希望が絶望にかわったら、そんな顔にもなるってものだ。

「ずいぶんと、おはやい、おつきですね・・・・・・・・・」

 恐怖と混乱がグルグル混ざった頭から、ヘンな言葉が飛びだした。

 けど、そんなのしょうがないじゃない。

 せっかく、逃げきれると思ったのに。

 これでわたしをおそう恐怖から、さよならできると思ったのに。

 わたしはただ一直線に逃げていたわけじゃにない。

 あっちこっち右往左往、曲がってくぐってはいずって、ようやくここまでたどり着いたんだ。

 それなのに、どうしてわたしのゴールにこの怪物は。

「俺は足の速さには少し自信があってね。と言っても、この場合はあんまり関係ないんだが。こういうの何て言うんだ? アキレスと亀? でもそれじゃあ追いつけないか。それじゃあウサギとカメ? それも何だかしっくりこないな。まあ、なんだ。

 なんだかよくわからない説明だ。

 後ろを見ると、怪物さんの相棒のアオも、やれやれと言うふうに首を横にふっている。

「えーと、そのって、教えていただくことは、できませんか・・・・・・・・・?」

 わたしはあまりにびっくりし、突拍子もないことを訊いてしまう。

「いいぜ。あんたが自分で気付いたときに、いくらでも教えてやるさ」

 そう言って怪物さんは微笑んだ。

 足が速いだけじゃない・・・・・・・・・?

 それじゃあいったいどうやって・・・・・・・・・?

 あれ? だったら、時間かせぎはどうなったんだ?

 まさかあのまま、放っておいてきたのか?

「ああ、あんたが壊して殺した、俺がキッチリ後片付けしておいたぜ」

 言葉にして訊く前に、答えをさきどりされてしまった。

 ということはわたしやったこと全部、もと通りにしてなおしてきたってことだよね。

 それでもわたしより、早くたどり着くなんて。

 時間かせぎが、まったく役にたってない。

 こんなことなら、

「それはまた、ありがとう、ございます・・・・・・・・・」

 いまだ恐怖と混乱にとりつかれた頭は、自動的にお礼の言葉をはきだした。

「いいっていいて、気にするな。あれくらい大したことじゃないんだから。だけど今度からは、。いいかい? お姉さんとの約束だ」

 えっ、お姉さんって・・・・・・・・・。

 いや、たしかにそうか。

 、間違いなくお姉さんだ。

 その全身からやる気満々に放出されている、闘気と鬼気と殺気がなければ。

 ついでにその、ヘンな服さえ来ていなければ。

 どこからどう見ても、きれいなお姉さんにしか見えない。

「はい、わかり、ました。今度から、気をつけ、ます・・・・・・・・・」

 またもわたしの頭がとりあえずの返事を返す。

 その応えに満足したのか、怪物さんはうんうんとうなずいている。

「そうかそうか。それなら、うん、それでいい。自分の過ちを認めて改善するなんて、大人でもなかなか出来ないからな。やっぱりあんたはわたしの見込んだ通り、

 怪物さんが、そう口にした瞬間だった。

 わたしのものでも、怪物さんのものでもない。

 まがまがしい境界が、わたしたちをまわりに広がったのは。

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