第110話あんた、一回私とヤろうじゃないか(それだけは絶対お断りです)

「さて、ちょっとばかし物足りないが冗談はこれくらいにしておこうかね。初対面でもすぐに仲良くなれるオレの鉄板のやり方だったんだが、どうやらあんまりウケなかったみたいだしな」

 そう言ってそのひとは、自分から振ってきたを打ち切った。

 それでも、おっかしいなあ最近の子は趣味が違うのかなあ、なんて未練がましく呟きながら。

 いえ、それこそ違うと思います。

 流行り廃りがどうとか、世代がどうだとかいう問題ではなく。

 あなたの趣味に問題の大分部が、というか全部があるのでないかと、わたしなんかは思ったりしてしまいます。

 そのやりかたであなたと仲良くなれたひとはいままでひとりもいないだろうなと、もちろんこれはただの想像ですが、そう断言できるくらいには。

 その個性的な服? て言っていいのかな

 とにかく、そんなで迫られたら、あらかた、たいてい、ほとんどのひとは、もれなくみんな思いっきりひくと思います。

 みんなきっとおんなじように、目を下にそらしながら。

 まるであなたの身体を強調して、みんなにみせつけているようなその格好に。

 あなたにはそんな気もなければそんな意図も、全然ひとつもないのはわかります。

 どうしてか、わたしにはわかってしまいます。

 でもあながそんなことを気にしてないのとおんなじように、

 実際にそうなってしまっている

 あなたをみたひとは自分とのあまりの違いに、見惚れることさえできないから。

 そうして目が潰れるまえに、何よりこころが潰れるまえに。

 あなたのことを、

 でも一番の理由は外を歩いてるだけで何かしらの法律に触れていそうなひとのことは、誰だって記憶から消したいからだろうなという気が一番します。

 でもわたしはこのひとから目をそらせない。

 それは自分に自信があるからなんてことは当然ないし、残念ながらこのひとに見惚れちゃってるからでもない。

 わたし以外の他人がこのひとをみてどう思うかなんて、それこそわたしに関係ない。

 ただわたしの本能が大声で言っている。

 いき延びたければ

 幸いというかなんと言うか、いろんな意味でいろいろとわかりやすいかっこうだし。

 けどこのひとの身体がよくわかると言っても水着みたいなを、身体にくっつけてるわけじゃない。

 むしろ、その逆だ。

 みえているのは首から上と、手首から先しかない。

 そこ以外は、全然みえない。

 でもみえないからといって、

 そのみえない部分を覆っているのは上着とズボンの区別も継ぎ目もない、全然光を反射しない真っ黒なツナギみたいな服? と足もともまでおなんじような真っ黒なブーツだった。

 それはテレビでみたバイクに乗ってるひとや、海に潜るひとが着ているような。

 あとはわたしの思いつくかぎりだと、緑色の上着を着た大泥棒と一緒にいる女の人が着ていたものによく似ていた。

 あんなふうに胸元を開けたりはしてないけど。

 だけどこっちのほうが、もっと過激かもしれない。

 だってその真っ黒い肌にピッタリはりついて、このひとの身体の線を見事なほどにしっかりと浮かびあがらせているんだから。

 鍛え抜かれた大胸筋にのっている、控えめだけど整った胸のかたちも。

 絞り込まれた腹斜筋がつくるから、バッキバキに割れた腹直筋にあるのかたちまで、全身くまなくはっきりくっきりどうなってるか

これじゃあ肌がみえないだけで、裸でいるのとおんなじだ。

 それでも不思議と、イヤラシさや下品さは全然感じない。

 なんと言うか、虎や豹なんかの野生動物をみてる感覚に近いのかもしれない。

 けどやっぱり、虎や豹なんかよりよっぽどこわくておっかないからっていうのが一番の理由だね、きっと。

「本当は名前を教えて貰えなかったのは悲しいし、これから名前を呼べないのは寂しいが、そういう事情なら致し方なし、か」

 それでもめげることもなければ呆れることもなく、かわらずわたしとコミュニケーションをとろうとしてくれる。

 ホントになんてひとなんだろう。

 がわたしにこんなことをしてくれたのははじめてだ。

「まあ、それもまたこの世の習い、道理の一つだしな。今はあんたにオレのことを知ってもらえただけでも充分だ。と、いうわけで

 そう言うと、キズひとつない右手のひらをわたしに向けて突きだした。

 その瞬間、空気がかわった。

 そこから伸びる白く長い指を、ひと差し指から順番にゆっくりと折っていく。

 そして最後に親指を重ねると、ギリッと音がしそうなほどに握りこむ。

 そこにあるのはひとつの拳。

 このひとの意志がかたちとなったもの。

 自分の進む道の前に立ちはだかるものは、どんな分厚い壁でも突き破ってきた。

 自分が倒すべき相手なら、それがどれだけ強力だろうと立ちむかって打倒してきた。

 そうやって傷つきながら自分の意地を貫き通してきた、このひとの自慢の拳。

 それがいま、わたしに真っ直ぐ向けられている。

 その意味を、わたしは正確に

「あのー、一応言っておくとですね。わたし、あなたの敵じゃないですよ?」

 ホントですよ? いまのわたしは違いますからね。

「知ってるさ。オレはただ、あんたともっと仲良くなりたいだけさ」

 それはそれで思いっきり、そのための手段というかコミュニケーションってもしかして。

「魔法少女が出会ったら、ヤることはひとつしかないだろ? あんただってわかってるはずだ。、わからないとは言わせないぜ?」

 いやいや! 全然わかりませんよ!

 なんでこんなことになってるのか、

 これって学校じゃ教えてくれないことですよね?

「そんなに構えなさんな。もっと気楽にヤろうぜ。あんた喋るの苦手みたいだから、お違い存分に語り合えていいだろう?」

 やっぱりそうなるのか、この人の場合。

 コミュニケーションって言ったって、結局肉体言語じゃないか。

「そうやって気が済むまで語り合ったあと、あんたとオレが二人揃って生きてたらさ」

 そのひとは、少しはにかみながら言葉をくちにする。

 そのときこのひとが浮かべたを、わたしはずっと、忘れることができなかった。

「あんた、友だちにならないか」

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