第109話あんた、ちゃんとしてて偉い子だな(そんなに褒めてもなにもでてきはしませんよ)
「あー成程、そうだよなあ。うん、これはあんたの言う通りだ。それにしてもしっかりしてるなあ、最近の子は」
そのひとは気を悪くした様子もなく、むしろ納得した様子であっさりわたしの言うことを受けいれた。
これがミドリかわたしなら「いましゃべったじゃない」と言って、応えたことを気のすむまで突っついて、思いっきり揚げ足をとっているところだ。
とっても素直なひとなのかな、なんていう率直でありきたりな感想が思いうかぶ。
わたしたちとは全然違うって思ってしまう。
「確かに最近訳の分からん事件やら、何かと物騒な奴が多いもんな。
「はあ、それはまた、なんと言えばいいのか。ホント、どうなんでしょうね……」
そう、ホントのところはどうだったんだろう。
いまのわたしにはわからない。
いまはもう、わからない。
それを訊くべき相手はもういないのだから。
だからこのことは棚の上にでも置いといて。
でもそれ以外のことなら、たしかにそれはもっともだ。
たしかにこのひとのいう通り、世界は危険なことばかりでいっぱいだ。
ついこのあいだも、わたしの友だちが食べられたばっかりだ。
そしてわたしはいままさに、これ以上ないほど超一級の危ないひとに絡まれて意味不明の状況に巻き込まれてるんだから。
それにしても、さっきからこのひとなんで。
なんでそんなふうにわたしのことを、
「だけどそんなに警戒しないで貰えんかね。ほら、よく見てくれよ。オレに怪しいところなんて、
……いやいやいやいやいやいやいや。
わたしは言われてからしばらくしても、このひとがなにを言ってるのかわからなかった。
これが絶句するとか、二の句がつげないとかいうことなのか。
まさかそんなことがホントに自分におきるなんて。
インド人どころか多少女神さまでもびっくりするよね、これは。
えっと、だからそれは、冗談で言ってるんですよね?
とっても真面目に真剣に、わたしをからかってるんですよね?
頼むからそう言ってくださいと、わたしはこころの底からそう思う。
だって、そんな格好で言われても。
そんな、
わたしがこのひとを刀みたいだと思ったのも、それが理由のひとつだ。
そんな、えーとその、なんて言えばいいんだ。
あっそうだ! そうそう、こう言えばいいんだ。そんな
「どうした、また黙っちゃって。もしかして
……わーお。
それが素面で言えるなら、それだけでわたしはあなたを尊敬できるかもしれない。
「はは、なーんてな。冗談だよ、冗談。でも、もしそうだとしたら流石にちょっと照れるかな」
それを聞いて、わたしは少しほっとする。
そのひとは冗談めかして言いながら、だけど
そんなこと、なにをいまさら言ってるんだこのひとは。
それにわたしの求めたて冗談はそういうのじゃない。
たしかにその格好はあなたに
とてつもなくよく似合ってる。
もしブラウン管越しににみたのなら、きっとあなたの言う通り格好いいと思っただろう。
下手をしたら憧れて、似たような格好を真似したかもしれない。
でもそれがなんの隔たりもないところで現れたら。
そんなのが
そのとき思うことはひとつだけ。
どうするかもたったひとつ。
そのために、できることを選ぶだけ。
やるべきことを決めるだけ。
なにもしないという選択も、なにをされてもいいという決断も。
そんなものはわたしのなかには、ひとつたりとも存在しない。
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