第106話あんた、漸く私とはじめましてだね(はじめからわたしは逢いたくありませんでした)
魔法少女になってから、まだ一週間もたってない。
そのあいだにもう何回か、アイツらと戦った。
もちろん戦っただけじゃなく、ひとり残さず殺してきた。
だから昨日の
わたしが魔法少女になってから、初めて殺せなかったヤツ。
だけどそこには、未練もこだわりもなにもない。
ミドリは問題ないって言ってたし。
わたしはどうでもいいと思ってる。
アレがどこで野垂れ死んだとしても、誰に処分されたとしても。
どこかで誰かを殺しても。
それがわたしの
一応テレビのニュースなんかで確認しても、かわったことは起きてない。
いつもとかわらず不穏で不吉な言葉が飛び交ってる。
だからホントはなにかが起こっていても、正直
でもいまのところわたしの日常はかわってない。
多分きっとこれからも、かわることはないんだろう。
だったらそれだけでもういいやと、わたしは思ってテレビを消した。
それで昨日のことは全部お終い。
できることをいつも通りにこなしていって。
いつも通りにやるべきことをしっかりやって。
そうやって、わたしはいつも通りにいきていく。
朝起きて。
ごはんを食べて。
遅れないよう学校行って。
暗くならないうちに帰ってきて。
お風呂にはいって。
そしてあしたのためにまた眠る。
毎日これの繰りかえし。
不安も不満も特にない、愛すべきわたしの日常。
そこに新しく、魔法少女のお仕事が加わった。
とっても愉しく面白い、
かわることはなくっても新しくなることはあるんだなあと、わたしはここ何日かで思い知る。
その一番大きな理由が新しくわたしの日常に加わった、ミドリの存在だった。
お母さんがいなくなってから暗く、冷たく、無言になったわたしのこころ。
そこにポツリと灯ったちいさなひかり。
明かりの消えた部屋のなかに、またひとのあたたかさを感じさせてくれたひと。
お母さんいた頃みたいに、でもそれとは違う新しい日々。
朝起きたときおはようをいってくれるひと。
ごはんを一緒に食べてくれて、いただきますとごちそうさまを一緒に言ってくれるひと。
いってきますと言ったらいってらっしゃいと送りだしてくれるひと。
ただいまと言ったらおかえりと迎えてくれるひと。
寝るまえに、おやすみと言って今日の終わりを教えてくれるひと。
そして朝がきたらおはようと、今日の始まりを伝えるひと。
そんな相手がいることの
そんなわたしの新しい一日が、今日もまたやってくる。
朝ごはんを食べて、カバンに教科書やノートを詰めて、適当に身支度を整える。
そうして準備を支度をすませたら、履きふるした靴に足をつっこみ見慣れた扉を開いて一歩踏みだすことで、わたしの日常を始めることができる。
「それじゃあいってきます、ミドリ」
「いってらっしゃい、こいし。危険なことと知らないひとには気を付けるんだよ」
「はーい」
と、でかける挨拶をかわしても、ミドリはわたしの背中にくっついてくるので結局一緒にうちをでることになる。
それでもミドリがわたしを気遣ってくれるのが嬉しかった。
危険なことと知らないひとか。
そういえば、昨日ミドリが最後になにか言ってたっけ。
もうひとり魔法少女がきてるとかなんとか。
そうは言っても一度外にでてしまえばお違い顔見知りでも偶然会うことことなんてほとんどない。
わたしに顔見知りなんてほとんどいないとは関係なく。
それが知らないひとならなおさらだ。
まさか魔法少女だからって、お違い惹かれ合ったりすることなんてないだろうし。
なによりわたしは絶対に逢いたくない。
だからきっとそんなひととわたしは、
それにわたしの日常には、これ以上新しいモノはいらないのだから。
「キミは教育を受けることの意味とその重要性についてもう少し真剣に考える必要があると、ボクは思うよ」
いつも通りに学校というお勤めが終わった放課後の帰り道、わたしはミドリからそんなお説教を受けていた。
想いと言葉をかわせる相手がいることは本当に嬉しいことだとわたしは思う。
しゃべることが自然と多くなる相手がいることはとても愉しいいことだと、わたしは久しぶりにそう思えた。
だけど、なにもお小言の数まで増えなくてもいいんじゃないかと、わたしなんかはそう思う。
「わかってるよ、反省してるってば。次から気をつける。でもちょっと寝てたくらいでそこまで言わなくてもいいじゃない」
「ちょっと、ね。成程、キミの感覚では八割を超えていてもそれはまだちょっとに過ぎないというわけだ。キミが算数が苦手な理由にまた一つ得心がいったよ。それと言い訳を口にしながらする反省にどれ程の中身があるのやら。そもそもボクは、キミがしたはずの反省とやらが活かされた場面を未だ見たことがないのだけれど。もしかしてそれはボクが目を離している瞬間にだけ発揮される、キミの特異なものだったりするのかい?」
ミドリがわたしのことを想って言ってくれてるのはわかるけど、正直ちょっと欝陶しい。
でもわたしは
「あー、うん。そうだね。
ここは一番適当だと思われる答えをとりあえず返しておこう。
「キミがボクの苦言を受け入れてくれるのは嬉しいけれど、もっと真面目に聴いて欲しいと思ってしまうはボクの我儘なのかな」
「そんなことないと思うよ。わたしはちゃんとあんたの話を聴いてるし。それにちゃんと起きてる授業だってあったでしょ。わたし、あの科目得意なんだ」
「あったんじゃなくそれしかなかったんだよ。そこを平らな胸を張って言われても、ボクとしては挨拶に困るね」
いまなにか言わなくてもいい言いかたをしなかったか。
「いいじゃない、そのひとつだけでも満点をとれれば。できないことをやろうとしてもそんなの無駄なことだよ、自分のできることを精一杯やるほうが大切だって、きっと誰かも言ってるよ」
自分のできることだけやっってればいいんだよ。
「できないことを克服しようとする意欲と熱意があったからこそ、ひとはここまで進化して今の社会を構築することが出来たのだと、ボクは思うよ。どこまでいっても満足なんてすることなくね」
「でもそんなの
そのひとがいなかったら、いまでもみんななにもできないままだったんじゃないの。
「だとしてもその跡に続いたひとたちが、何も出来なかったわけじゃない」
「でも最初にできなかったひとがどんなに頑張っても最初からできるひとを超えられないと思うよ。結局必要なのは
かわりなんて、いくらでもいるんでしょ。
「かわりの利かないひとなんてこの世界にいないよ。その最初のひとりにしてもそれはただの立ち場に過ぎない。誰がそこに辿り着いても構わない。だからといってそのひとが切り開いた道に、その先を進んだひとたちの為したことは決して軽んじていいものじゃない」
わたしにはいるけどね。かわりのいない大事なひとが。
「それはわかってるよ。結局この世界にたったひとつの本物なんてないんだね。要するに人より結果。なにかできるひとよりできるひとがだした成果のほうが重要だって言いたいんでしょ?」
「そうだけど、それは違う。唯一無二のものがなかったとしても、
「ふーん、まあ、それはたしかにわかってるけどさ。でもなんにせよ、できる
あれってそのためにあるんじゃないの。
「ボクが一番言いたいのはまさしくそこだよ。
「やればできるって言いたいの?」
「出来ることまでならね」
「そんなの子どもだけで十分だよ」
それが一番簡単にできる
「またキミはそんなことを」
「生きてくのに算数なんかよりよっぽど必要な知識でしょ」
「算数もまともに出来ないのにまともな生き方ができるとは、とてもじゃないけど思えないけどね」
「ぐっ、それは、そうかもだけど……」
「だから帰ったら復習くらいはしておこうね。キミの場合は復習ですらないけれど。それでもやらないよりはやった方が、少しでも出来るようになった方がきっといい」
「ミドリはそう思うの?」
「当然だよ。キミが何が出来るか訊かれたとき、自信を持って答えられるものを一つでも多く身に付けて欲しいというのが、ボクの偽らざる本心だよ」
そう。あんたがそこまで言ってくれるなら。
「じゃあ少し、頑張ってみようかな」
「その意気だよ、こいし。あ、そうそう。ちなみに魔法少女に子どもはつくれないからね」
いまこのタイミングでそれを言う!?
そのデリカシーの欠片もない言葉になにか言い返してやろう息を吸いこんだその瞬間だった。
「失礼。少々道を尋ねたいんだが」
それはいまどき子どもにそんなことを訊いたなら、不審者を通りこして犯罪者扱いされてもおかしくはないセリフ。
そんな言葉をつむいだ澄んだ綺麗な声は、
その事実を理解して脳が認識するよりはるかに速く、わたしの身体は動いていた。
転がるように思いっきり前に向かって足を踏みきる。
そして着地と同時に百八十度身体をひねり、そこで初めて相手を視界にいれた。
そのあいだ、わたしの心臓はバクバク撥ねてとまららなかった。
わたしが
その恐怖がわたしの背骨を刺しつらぬく。
身体はこれ以上ないほど冷えてるのに、背中の汗がとまらかった。
「なんだよ、そんなに驚くことないだろ。それじゃこっちのほうがびっくりしちゃうぜ」
そこにいたのは不審者も犯罪者もぶっちぎった、
わたしは地面にへばりつくようにして、その姿をはっきりみすえる。
最初に感じたのは、なんでこんな綺麗なひとが。
そのあとすぐに思ったのは、なんだこのヘンなひとは。
どちらにしても、
「漸く会えたんだ、そんなに睨まないでくれよ。これでもずっと探してたんだぜ。何て言っても全部こっちの都合だから通じるわけないか。とりあえず、何はなくともまずは挨拶と自己紹介だな。はじめまして、
答えるかわりに音がするほど、力のかぎりに歯をくいしばる。
まずいぞ、このひとは
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