第88話わたし、魔法少女になりました そのよんじゅうご(わたしの意志が胸に穴を空けました)

 好きなようにしてもいいと言われて、ホントに自分の好きなことができるひとって、いったいどれくらいいるんだろう。

 勝手なことをしてもいいと言われて、ホントに自分の勝手なようにふるまえるひとって、ざっといくらくらいいるんだろう。

 そしてあなたは自由なんだからと言われて、ホントに自分の自由を選択して決定できるひとなんて、この世のどこかにいるんだろうか。

 そんな意味もなければ中身もない、わたしのあたまのなかと同じくらいカラッポなことがこころのなかをふとよぎる。

 自分のあたまのなかがスカスカだなんて自分で思いたくはないけれど、ひとから言われるよりはまだマシか。

 それに特になにも考えることなく自然とそう思えてしまう程度には、実際わたしのあたまのなかには無駄なスキマが多いんだろう。

 あれ、でもおかしいな。

 いきるのに、いきていくのに、いきのびるのに必要なことは、わりとたくさん種類も豊富に詰まっているはずなんだけど。

 詰めこまれているはずなんだけど。

 そこまで思って、なんでだろうと首を半周ちょっとかしげたところでようやく、ああそっかと思いがいたる。

 要するに、それ以外のものがほとんど入ってないからだ、という単純な事実に。

 こんな簡単な答えに辿りつくのに、ねじ切れそうなくらい頭をひねらないといけないなんて。

 やっぱり、わたしのあたまのなかはカラッポだ。

 それはあたまのなかだけじゃすまないんだろうけど。

 まあでも、カラッポならカラッポなりにいいことだってある。

 それこそ自由に好きなもの勝手に詰めこめるんだから、そんなに悪いことでもないだろう、と善いほうに思いたい。

 いや、そう思うことにしよう。

 だけどわたしの場合の問題は、

 そしてスキマだらけのはずのわたしの中身に、

 なんか蟲とかわいてそう。

 などと益体もないことを思っていたら、いつの間にか自分を客観的にみていてならばと自己採点してみればかなり低めの点数がでてしまい、その無残な結果を自分で自分につきつけてしまうことになっていた。

 そんなあんまり精神衛生上よろしくないことに消費できるくらいの時間を、ミドリは黙ったまんまひと言も喋ることなく消化した。

 言いたいことがあるなら言ってもいいって言ったのに。

 あんたの自由にしてもいいって言ったのに。

 そう言われてミドリが選んで決めたの、沈黙だった。

 だけどわたしには、その様子だけで充分だ。

 その姿が見られただけで、わたしは満足だ。

 だってミドリは、言いたいことがあったはずなんだから。

 だけど黙ったままだった。

 ミドリには、言わなきゃいけないことがあったはずなんだから。

 けれど沈黙していただった。

 それをくちにしないことを選んだのか、それともできなかったのか。

 それは言葉にできなきないことだったのか、はたまたしないと決めたのか。

 それはどっちでも同じことだけど。

 どっちにしても、わたしはホントに愉しめたよ。

 だってミドリは結局、言うべきことを言えなかったんだから。

 伝えたい想いを、伝えることができなかったんだから。

 その理由が、言わなきゃいけないことなんてあるはずないよね、ってわたしが言ったせいだとしたら。

 その原因が、言いたいことなんてあるはずなよね、ってわたしが言ったからだとしたら。

 どっちにしても、わたしはホントに嬉しいよ。

 だってそれは、さっきまでのわたしとちょうどあべこべだったから。

 鏡合わせの、逆さまの映し身だったから。

 その想いがミドリのなかで、出口を求めて暴れていたのがよくわかる。

 だから、わたしはあんたのことがよくわかる。

 その想いに、迷い、苛まれ、もだえていたのがよくわかる。

 あんたの中身がどうなってたのかよくわかる。

 さっすがわたしのパートナー。

 こんなところでなんてね。

 でも、わたしはもうあんたとは違う。

 あんたと違って、わたしは想いを吐きだせたからスッキリしたよ。

 今度はと、胸が痛んだけれど。

 まるで釘でも打ち込まれたみたいだったけれど。

 けどそのとき、いらないものはそとに流れていっちゃったよ。

 大分風とおしがよくなったからね。

 だから、わたしがあんたに言ったことは

 だって、わたしは愉しかったし、嬉しかったし、充分満足できたから。

 たとえ胸の穴をとおる乾いた風が、ヒュウヒュウ寂しげにないてたとしても。

 あんたが惑い、悩んで、苦しんでる、辛そうな姿が見られたから。

 だから、間違ってることなんて、なんにもないよね。

 それにそんなあんたの姿を見ていたら、

 魔法少女になって、どうでもいいやつらをどうしてもいいと思いながら潰すために殺すのも気持ちよかったけど。

 魔法少女にならくても、おんなじくらいの、だけど全然別の気持ちよさが味わえるんだって。

 、こんなに違う気持ちよさなんだって。

 さっすがわたしのパートナー相棒

 こんなに素晴らしいことを、教えてくれるなんてね

 相手を壊さないためなら自分が傷ついても構わない。

 自分が痛むこともいとわずに相手のことを想うことができる。

 、あんたを愛しく思えるわたしの想いに、間違いなんてどこにもないよね。

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