第66話わたし、魔法少女になりました そのにじゅうさん(わたしの意志はお金じゃかえないものなんです)
「ひとに愛されることは幸せなことか。確かにボクもそう思うよ。本当にキミの言う通りだとするならば、
そんなにいろいろ言わなくっても、ひと言嬉しいって言ってくれるだけでわたしは十分なのに。
自分のホントの名前が恥ずかしいって言ってたし、実は照れ屋だったりするのかな。
似合わないけど、それがあんたの新しい一面だというなら、それを受けれ入れるのはわたしもやぶさかじゃないよ。
何にせよ、ホントによかったよ。
だけどいっこだけ、ちゃんと言っておかないと。
「どういたしまして。あだ名、気に入ってもらえたみたいだね。あんたにピッタリだと思ったんだ。
何よりとっても呼びやすしね。
そこを最優先にしたっていうのは、まあ別に言わなくもいいか。
「そうだね、そうさせてもらうよ。キミがボクのことをどれだけ想ってくれのか、
何やら難しいことを呟きながら、ウンウンと頷いたような素振りをしているミドリ。
どうせまた、ひとりで考えて勝手に納得して好きなように結論をだしたんだろう。
自由にしていいとは言ったけど、わたしをおいてけぼりにするのはやめてほしい。
「ねー、何考えてるかわかんないけど、まだ目の前にわたしがいるんですけど」
「ああそうだった、御免ね。キミのことを考えていたら、つい色々と物思いに耽ってしまったよ」
わたし以外のことについて何を考えていたのかは、訊かないでいてあげる。
わたしに個人? のぷらいばしーへの配慮があってよかったね。
ホントはそのへんのことをひとつ訊くと、百倍くらいになって返ってきそうだから訊かないんだけど。
「それで、わたしの何を考えてたの?」
でもわたし自身のことなら訊いてもいいよね。
わたし自身が気になるし。
ミドリがわたしの何を考えて、どう思っているのかを。
「キミが相手のことを想うという、ひととの関係構築における姿勢は
どうしたんだろ、そんなあらたまって。
いつもみたいに適当に軽く訊けばいいのに。
何か大事なことなのかな。
だったらちゃんと答えなきゃ。
「いいよ。なあに」
「キミは
なんだ、そんなことか。
「それくらい知ってるよ、お金でかえるものでしょう」
それくらいわたしだって知ってるよ。
売ってるの、見たことあるから。
「それじゃあもうひとつ。キミは
ああ、あれのことか。
「そんなことならわかるよ、お金がかかることでしょう」
そんなことならわたしでもわかるよ。
見てるだけでも、無駄なことが。
大事なことかと思ったら、結構どうでもいいことだったな。
それでもちゃんと答えたんだから、褒めてくれてもいいんじゃない。
なんて、
それこそ犬や猫じゃあるまいし。
訊かれたことにはとりあえず、何でもいいから答えることができるのがひとなんだから。
その答えが嘘でもホントでも、とにかく返事をするのがひととして当然なんだから。
挨拶と自己紹介も大切だけど、訊かれたら返事をすることも大切だって教わったから。
そんな当たり前のことができたからって、わたしは褒められたことは一度もない。
それで他の何ができたからって、一度も褒めてもらったことがわたしはない。
だからわたしは知らなかった。
ひとは何かができたとき、褒めてもらえるものだということを。
だからわたしは気づかなかった。
わたしを褒めてくれたのは、どんなことであれミドリだけだということに。
そしてわたしにはわからなかった。
褒めてもらえるということは、愛されていることのひとつのかたちなら。
それが親から子どもへ示す、愛情のひとつだというのなら。
わたしはいままで一度でも、お母さんに愛してもらったことがあったかどうか。
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