第66話わたし、魔法少女になりました そのにじゅうさん(わたしの意志はお金じゃかえないものなんです)

「ひとに愛されることは幸せなことか。確かにボクもそう思うよ。本当にキミの言う通りだとするならば、。それでセンスが微塵もないだけではなく、ついでにささやかな独創性も僅かな創造性もどれだけ目を凝らしてもボクには見つけること敵わないその簡易名称。がキミからのボクに対する愛情表現の形だと言うならば、受けれ入れることについてボクは全くもってやぶさかではないよ。一切の異論も一片の反論もなく、もし万が一あったとしても関係なくね。その妙なる響きを持ったごく簡単な単語に意味を見出し誇りを持てるよう、ボクは自らの理性も感情も黙殺しあらゆる試行錯誤を惜しまない。例えどのようなものであったとしても、それはキミがボクに贈ってくれたものなのだから」

 そんなにいろいろ言わなくっても、ひと言嬉しいって言ってくれるだけでわたしは十分なのに。

 自分のホントの名前が恥ずかしいって言ってたし、実は照れ屋だったりするのかな。

 似合わないけど、それがあんたの新しい一面だというなら、それを受けれ入れるのはわたしもやぶさかじゃないよ。

 何にせよ、ホントによかったよ。

 だけどいっこだけ、ちゃんと言っておかないと。

「どういたしまして。あだ名、気に入ってもらえたみたいだね。あんたにピッタリだと思ったんだ。。だってあんたのことだって言葉にすればすぐわかるもん。それとこの名前について、どう思うかはあんたの好き勝手自由だよ。でも、。とっても真面目に真剣に、あんたのことを想ってつけたのは間違いないけど」

 何よりとっても呼びやすしね。

 そこを最優先にしたっていうのは、まあ別に言わなくもいいか。

 

「そうだね、そうさせてもらうよ。キミがボクのことをどれだけ想ってくれのか、、それはボクの心の裡に大事にしまっておくとしよう。しかしこれがひととひとが新たな関係を構築していくということ、ふたりで歩み始めていくということなのだろう。互いの相違を斟酌し合い、価値観に理解を示し、認識を共有していく。共に並んで歩みを進めても、その歩みは、。どれだけ真っ直ぐであろうとも、。ふたりの歩みがぶつかり合い絡み合い、互いの足を引っ張ることがあったとしても。後ろを振り返って見たとき、その足跡が交り合い、重なり合っていることこそが最も大事なことなのだろうから。例えふたつの線がひとつになることはなかったとしても。いや、そうなってはいけないんだ。どれだけ互いのことを想いあっていたとしても、ふたりが同じものになってしまうことだけは。それは最早鏡像ですらない。同一のものが共にあったところで、そこに意味も価値もないのだから。だとするならば、まさにこれこそが相応しい。ボクとキミとの始まりに、これ以上似合いの一歩は存在しない」

 何やら難しいことを呟きながら、ウンウンと頷いたような素振りをしているミドリ。

 どうせまた、ひとりで考えて勝手に納得して好きなように結論をだしたんだろう。

 自由にしていいとは言ったけど、わたしをおいてけぼりにするのはやめてほしい。

「ねー、何考えてるかわかんないけど、まだ目の前にわたしがいるんですけど」

「ああそうだった、御免ね。キミのことを考えていたら、つい色々と物思いに耽ってしまったよ」

 わたし以外のことについて何を考えていたのかは、訊かないでいてあげる。

 わたしに個人? のぷらいばしーへの配慮があってよかったね。

 ホントはそのへんのことをひとつ訊くと、百倍くらいになって返ってきそうだから訊かないんだけど。

「それで、わたしの何を考えてたの?」

 でもわたし自身のことなら訊いてもいいよね。

 わたし自身が気になるし。

 ミドリがわたしの何を考えて、どう思っているのかを。

「キミが相手のことを想うという、ひととの関係構築における姿勢は、だからその点を踏まえた上で今後のふたりの歩み方について少々ね。そのことに関連した、キミに訊きたいことがふたつあるんだけど、いいかな?」

 どうしたんだろ、そんなあらたまって。

 いつもみたいに適当に軽く訊けばいいのに。

 何か大事なことなのかな。

 だったらちゃんと答えなきゃ。

「いいよ。なあに」

「キミは、愛とはどんなものか、解るかい?」

 なんだ、そんなことか。

「それくらい知ってるよ、お金でかえるものでしょう」

 それくらいわたしだって知ってるよ。

 売ってるの、見たことあるから。

「それじゃあもうひとつ。キミは、恋とはどんなものか、識ってるかい?」

 ああ、あれのことか。

「そんなことならわかるよ、お金がかかることでしょう」

 そんなことならわたしでもわかるよ。

 見てるだけでも、無駄なことが。

 大事なことかと思ったら、結構どうでもいいことだったな。

 それでもちゃんと答えたんだから、褒めてくれてもいいんじゃない。

 なんて、ができたからって褒めてもらえるわけがない。

 それこそ犬や猫じゃあるまいし。

 訊かれたことにはとりあえず、何でもいいから答えることができるのがひとなんだから。

 その答えが嘘でもホントでも、とにかく返事をするのがひととして当然なんだから。

 挨拶と自己紹介も大切だけど、訊かれたら返事をすることも大切だって教わったから。

 そんな当たり前のことができたからって、わたしは褒められたことは一度もない。

 それで他の何ができたからって、一度も褒めてもらったことがわたしはない。

 だからわたしは知らなかった。

 ひとは何かができたとき、褒めてもらえるものだということを。

 だからわたしは気づかなかった。

 わたしを褒めてくれたのは、どんなことであれミドリだけだということに。

 そしてわたしにはわからなかった。

 褒めてもらえるということは、愛されていることのひとつのかたちなら。

 それが親から子どもへ示す、愛情のひとつだというのなら。

 わたしはいままで一度でも、お母さんに愛してもらったことがあったかどうか。

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