第52話わたし、魔法少女になりました そのきゅう(わたしの意志は生きるためにあるんです)

「魔法少女にさせられたということは、ひとが願い叶えたためだ。キミたちの存在と可能性を犠牲にして。また、魔法少女をさせられるということは、ひとが望みを果たしているせいだ。キミたちが奪われた残りの全てをもって、その願いを維持し望みを支えるためにこの世界を守り戦うという対価を支払いつづけるのが、魔法少女というモノだからね。逆に言えば、願いと望みが健在であるということは、それに対する対価が支払われ続けているということになる。そして魔法少女が死んでも、それは変わらない。叶った願いは在り続け、望みは消えることなく果たされ続けている。。ならば魔法少女が死んだとしても、生きていたときと同じようにいまだ対価を支払い続けていると考えるのが最も合理的であり、自然かつ妥当な判断であるというのが、ボクたちの見解の総意だよ。本当のところは彼女にしか解らない。もしかしたら。それでもこれが、キミからの質問に大してボクが答えられる全てだよ。どうかな、わかってくれたかな?」

「くー」

「はい、起きて」

 そう言いながら緑の目はわたしの肩を優しく揺らそうとする。

「はいっ、大丈夫です!起きてません、寝てました!」

 その手? みたいなのが触れる寸前、わたしは一瞬で覚醒し、話をちゃんと聞いていたことを主張する。

 ふー、よし。これでバレないはず。

「おはよう。キミは目覚めの瞬間は正直で素直なんだね。ただ単に寝ぼけて状況判断ができていないだけだろうけど。だけどいつもそうだとボクはとても助かる、もとい嬉しいのだけれど。確かにキミが睡眠を欲しているのはよく理解できるし、ゆっくり休ませてあげたいのが本心だ。だけどそれはせめて自分の質問の答えを聞いてからでも遅くはないんじゃないかと、ぼくは思うよ」

 あれ、もしかしてこれは寝てたのがバレてるのでは?

 そして何か聞き捨てならないことを言われたような。

「やだなーもーなに言ってるのさ―。起きてたよ―、寝てないよ―」

 わたしは自分の主張を補足するように、ささやかな抵抗を試みる。

 なんだかものすごく手遅れで、いまさらすぎる悪あがきな気がすごいするけど。

「うん、そうだね。ボクはキミの言葉を信じている。だから、キミが眠りから覚めたと同時に発した言葉の方をボクは信じさせてもらうよ」

 おかしいな。それならバレないはずなのに。

 なにかおかしなこと言ったかな。

「えーと、特に意味はないんだけどね。なんというか一応念のために訊いたほうがいいかなーと思うから訊くんだけど。わたし、何て言ってた?」

 もうこの時点ですでに自白している。

「それはキミの言葉を一言一句引用するなら、はい、大丈夫です。起きてません、寝てました。と、言っていたよ」

「しまった! 生まれつきの素直さと正直さがこんなところででちゃうなんて!」

 油断してた、なんてうかつな。

 それもよりにもよって、この緑の目の前でなんて。

 こんなことなら普段からそうしておけなよかった。

 ああ、そうだ。ならこれからはそうしていけばいいんだ。

 いやいや、そうじゃなくって。

 何を言って思ってるんだ、とにかく落ち着けわたし。

 それより何より、自分の言ったことをあんなに真っ平らに堂々と言われるなんて。

 それが一番恥ずかしい。

「そんなものがせめてキミの財布の中身くらいはあったなら、お互いもっと楽だったろうね。それで。ボクはいったいどちらのキミの言葉を信じればいいのかな」

「ごめんなさい。寝てました」

 恥ずかしさと混乱でシッチャカメッチャカになったわたしは、おとなしく白旗をあげる。

「いや、いいよ。でもやっぱりボクの信じたキミの言葉は正しかったね。それにしても、今度は本当に正直で素直だね。何か良い夢でもみていたのかい?」

 何かさっきから無性にひと言言い返してやりたいけど、悪いのはわたしなのでここはぐっと我慢する。

「違うよ。ただ前にあんたが言ってたとおり、自分の意志はちゃんと言葉にして伝えたほうがいいかなって、そう気づいて思っただけだよ。それにわたしにだって素直さと正直さの持ち合わせくらいはあるってこと、ちゃんとをみせるやるためにもね。それにわたし

 だいたい、わたしのおサイフの中身はいつもすっからかんなんだから。

 さすがに全然ないってことはないだろう。

 だから、みせてやらなきゃ。

「それは素晴らしいことだね。ひとから与えられたものと自分で見付けたもの、どちらにより価値があるかなんてものは当人以外にはかることはできない。けれど、大事なことはそこじゃない。一番キミにとって大事なことは気づいたこと、感じたこと、思ったことの全てを自分の血肉とするすることだよ。例えどちらであったとしてもね。そうしての中身を埋めていくことが生きていくことでもあるからね。何よりキミは自分で身につけたものをちゃんと実践できている。そして実践しようという意識がある。それはとても素晴らしいことだよ」

 いままでにもこの緑の目から似たようなことは何回か言われた気がするけど。

 何だろう。ちょっとしたことを変えるだけでこんな気持ちになるんて。

 何て言うんだろう、何て言われたんだろう、こういうのは。

「あー、何だか、とってもすごく落ち着かないんだけど」

 こんなの初めてだから、どうしたらいいかわからない。

「そんなにことはないよ。これから何度でも、キミはその気持を味わうことができるんだから。キミの目についたものを片端から食べて呑み込んでいけばいいだけさ。何と言ってもキミはそんなに小さくても、貪欲で強欲なんだろう? だったら簡単なことじゃないか」

 ……やっぱりさっきの全部なし。

 とうとうひとをそんなみたいな言い方して。

 さっきまでの気持ちが全部どっかにいっちゃったよ。

 でもどうしてだろう、いままでより、ずっとこころが軽くなった。

 こころがスッと楽になった。

 なんかもう、いろいろどうでもよくなったからかな。

「それで、ボクの話はどこまでちゃんと聞いてくれていたのかな?」

 あ、何か話が戻ってきた。

 いまになってそこを訊くんだ。

 まーいっか。全部言っちゃえ。

「とりあえず、魔法少女は死んじゃっても終われないっていうのはわかったよ」

 というかそこしかわからなかった。

 ごはんを食べてお風呂に入って寝間着に着替えてさあ寝るぞって状態で、あんたの話は子守唄よりわたしに効く。

「それだけわかってもらえれば十分だよ。それでキミは?」

「ううん、全然。だってそんなの

 死んだらどうなるかわからないからこわい。

 死んだらどうなるかわかっててもこわい。

 なら、最初から死ななきゃいい。

 最後の最後まで、生き抜いてやればいい。

 そうすれば、そんなの全部関係ない。

 だから全然、こわくない。

「成程。キミの言葉はただ死なないという無責任な盲信からきているわけじゃなく、何としても生きてみせるという強烈なに依るものなんだね。うん、いいね。実にキミらしい、キミだからこその言葉だ」

 あ、なんか納得してくれたみたい。

 それならいいんだけど。

 でもそれだけでいいんなら、あんな長い話いらかったんじゃないのかな。

「それで、素直さと正直さを持ち合わせてるキミが、本当に訊きたい、知りたいことは何なのかな?」

 ああ、今度は話がかえってきた。

 まだそのことを訊くんだ。

 どうせわかってるんでしょって言っちゃえば、そこで話は終わっちゃうけど。

 でも、それじゃダメなんだ。

 自分の意志は言葉にして伝えるって決めたんだから。

 わたしの素直さと正直さをみるがいい。

「じゃあ訊くね。わたしは、魔法少女を殺せるのかな?」

 よし、できたぞ。

 次はあんたの番だからね。

「答えは、出来るよ。でもボクはキミにはそんなことはして欲しくない。

「わかってるよ。しないよ、そんなこと。そんな。それにね」

「それに?」

 わたしはそれを知っている。

 あの日、刻みこまれた恐怖と叩きこまれたれた痛みが、わたしに教えこんでいる。

 そんことをしたらどうなるか、そんなことをやったら何をされるか。

 あのときのお母さんの顔と声が、いまでもわたしのなかにいて、教え続けてくれてるから。

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