第48話わたし、魔法少女になりました そのご(わたしの意志はわたしの言葉のとおりです)

 チキリチキリと音がする。

 あたまのなかで蟲がなく。

 わたしは被害者でもなんでもない。

 誰もわたしを騙していない。

 わたしは誰にも騙されてない。

 そう思うたびに蟲がなく。

 わたしのお母さんもわたしの知らない彼女も。

 わたしをただのモノとして扱っただけだけ。

 だって、わたしはただの石ころだったから。

 こころの奥で蟲がなく。

 ギシリギシリと、軋むように音がなる。 

 そう思えば思うほど。

 音は大きくなっていく。

 お金の代わりになんてなりはしない。けどお金では買えないものにかえるために。

 たまたまその石ころには、利用価値と上手な遣い方があっただけだから。

 そんな石ころの価値を知ってるひとがわたしを利用して。

 その石ころを上手に遣えるひとがわたしを欲しがった。

 そうしてわたしは、ただ右から左へひとからひとへと手渡された。

 そして何の問題もなくあっさり取引は成立した。

 わたしのお母さんとわたしの知らない彼女のふたりだけが、揃って首を縦に振ったから。

 その取引の代金として支払われたのはがその石ころだった。

 願いを叶えるための代価としてかえられ、世界を守る道具としてかわれた石ころ

 その石ころがわたしだっただけの話。

 ただそれだけの、もうとっくに終わった話。

 ホントにそう思ってるはずなのに。

 蟲のなき声は続いてる。

 さっきより、大きな声でないている。

 ザラリザラリと、錆びつく音がなっている。

 そこに感じることなんて別にない。

 怒ったり、恨んだりするような気持ちも全然ない。

 ただ、お母さんはに絶対躊躇しなかっただろうなと、思うだけ。

 それだけは間違いなく確実だったと、信じることができるだけ。

 誰と誰が関わったなんかなんて関係ない。

 手段も工程もなんでもいい。

 目的も思惑もどうでもいい。

 結果と成果があればいい。

 わたしは魔法少女になれたんだから。

 わたしは魔法少女をやれたんだから。

 わたしにとって大事なことと大切なことはそれだけなんだから。

 不安なんてひとつもない。

 不満なんて何もない。

 後悔なんて、決してしない。

 だってわたしは、

 だから、頼むから。

 そんな顔をわたしに見せるな。

 そして、お願いだから。

「そんな目で、

 わたしは最後にそう言って、緑の目に一言もしゃべらせないまま一気にまくし立てていた言葉を終わらせる。

 そうでもしないと、蟲のなき声がとまらない。

 でもそうしても、蟲のなき声はとめられない。

 むしろどんどん大きくなっていく。

 もう身体中で蟲がないている。

 身体中から響いてる。

 グズリグズリと、崩れる音がなりやまない。

 あたまとこころとからだが、バラバラになっていく音がする。

 それでもわたしは手放さない。

 わたしはわたしを離さない。

 無理矢理にでも繋ぎ留め、強引にでも結び付ける。

 わたしがわたしであるために。

 いまのわたしであり続けるために。

 いまある全部を、肯定したいから。

「というわけだから、この話はこれっきり。もうこれでお終い。これからもこれ以上もないからね。次またこんな、そんな顔と目をしたらヘッドロックで丸ごと潰しちゃうからね。だいたいわたしはもう全部を受け入れてるし認めてる。それに何より。わたしがいいって言ってるんだから。とにかくそういうことだから、いい? わかった? 答えは聞かないけどね」

 わたしはガッチリ釘を打ち込むように緑の目にそう言った。

 でもそれは、自分で自分にガチャリと鍵をかけるように、

「……わかったよ。キミが、ボクはキミの言う通りにしよう。そしてキミの言葉を。だからボクに?」

 わたしは聞かないと言った緑の目の答えにし、最後のも快く引き受ける。

 だって、そんなの簡単なことだから。

 そんなの、わたしが

「任せて。わたしは自分を信じてくれたひとを、自分が信じてるひとを

 わたしは自信満々にそう言い切った。

 チキリチキリと、蟲のなき声が聞こえたままで。

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