第44話わたし、魔法少女になりました そのいち(その選択はわたしの意志で決めました)

 そもそものはじまりは何のなのか。

 もともとどこからはじまったのか。

 この自分の仕事にしか関心のない彼女が、なんで魔法少女なんて産みだしたのか。

 自分の仕事だけしかしない彼女が、なんでやらなくてもいいことをしなくちゃいけなかったのか。

 彼女の関心はこの世界を守ることだけ。

 彼女の仕事はこの世界のバランスをとることだけ。

 この世界を、安定させることだけ。

 その状態を、維持して管理することだけ。

 それ意外の全部は彼女の仕事じゃない。

 だから他のことは一切何もしない。

 でも逆に、自分の仕事は全部ちゃんとやらないといけない。

 自分にできることは全部。

 自分のやるべきことも全部。

 だから彼女は創りだした。

 ひとが願いを叶えることができる方法を。

 自分の願いのために、他人を代償にできるからくりを。

 叶えた自分の願いの代価を、他人に払わせ続けるやり方を。

 そうやって、魔法少女を産みだす仕組みを創りだした。

 そうしてみんなは、他人のために魔法少女にさせられた。

 それが必要だったから。

彼女の仕事に必要なことだったから。

そうすることが、彼女の仕事なんだから。

それじゃあ、なんで彼女はそんなをやらなきゃいけなくなったのか?

 その理由は何なのか?

 その原因は何なのか?

 そんなのもちろん決まってる。

 決まってる。

 彼女がせっせと、身を粉にして心をすり減らして自分を使い潰してまでやって、そこまでしてようやくどうにかこうにか成り立ってるこの世界。

 そこまでしなくちゃ、どうにでもこうにでもなってしまうこの世界。

そんな世界に、土足で踏みこんでくるやつらがいるからだ。

が、来るからだ。

 あいつらが、ひとの世界で好き勝手なことするからだ。

わたしの友だちを食べちゃったり。

いろいろ壊しちゃったりするからだ。

……あれ? いろいろ壊しちゃったりしたのは、むしろわたしのほうだったかな。

まあ、いっか。どっちでも。

 とにかくあいつらが全部悪い。

 そんな悪いあいつらが、なんでに来てるか。

 まるでピクニック気分でやって来て、あんなに我が物顔で自由にやりたい放題なのか。

 どうして世界は、こんなふうになっちゃったのか。

 

 もしあいつらさえ来なければ、誰も魔法少女にさせられたりしなかったのかな。

「それはことの始まりから事ここに至るまでに、様々なしがらみや色々な思惑が絡んだ複雑な過程があって、話すと長くなるんだけど……」

「できる限り短くして。それからわかりやすくまとめた説明をお願いします」

 わたしは緑の目の話しを途中で遮って主張する。

 そんなの聞いてる余裕はありません。

 この緑の目がわざわざ長くなるなんて前置きするんだから、いったいどれだけかかるかわかったもんじゃない。

もしかしたら朝までかかるかもしれない。

 忘れてたけど、わたしはとっても眠かったんだ。

 思い出しらまた眠気が目を覚ましてきた。

 気を抜くとコロッと寝ちゃいそうだ。

 だからそんな長い話は、とても耐えられそうにありません。

「注目が多いね。でも了承したよ。そうだね、一言で言えば、彼女が貧乏くじを引かされたのがそもそもの始まりかな」

 それはまた運の悪いことで。

 そのくじ運の悪さが、巡りめぐってひとをくじの引換券みたいに扱う仕組みを創らせることになるなんてね。

 それも、絶対ほしいものしか当たらないくじを。

 ホント、おかしくって笑うしかないよね。

「キミはもう、この世界とはまた異なる世界が存在することは知ってるよね」

「うん。それはね」

 だってそこから来た連中を見ちゃったし。

 そのあとその連中を殺しちゃったし。

「そういう世界は、実は他にもたくさんあるんだよ。そしてあるとき、各世界の維持管理者たち、彼女と同じ立場のモノたちが一堂に会してある話し合いをしたんだ」

「へー、どんな?」

 そんなにたくさんあったのか。

 まあ、ひとつやふたつじゃないとは思ってたけど。

 わたしは適当なことを思いながら、適当なところで相槌をうつ。

 じゃないと眠気に負けちゃいそう。

「そのなかのひとりが言ったんだ。『これからは各世界の交流を活発に行い、互いの文化と文明に対する理解を深めると共に、その知識と経験を皆で分かち合おうではないか』、とね」

「それはまた面倒なことだね」

 誰だそんな要らないこと言いだしたのは。

「その通りだよ。確かにみんな、他の世界の情報は欲しがっていた。自分の世界により有益に働く情報を。自分の仕事をより効率よく行うための情報を」

 ふたつ目の理由のほうが本命だと思ってしまうのは、わたしの気のせいだろうか。

「でもこの提案にはそのメリットを帳消しにしてなお余るデメリットがあった。キミが言ったように異世界間の交流なんて面倒以外の何者でもない。なにせ違う世界のものを自分の世界に招き入れるんだ。リスクばかり大きくて、リターンと全く釣り合ってない。それはキミもよくわかるよね」

「そうだね、とってもよくわかるよ」

 実際体験したからね。

 身にしみてよくわかるよ。

「だからみんな積極的に賛成はしなかった。だけど誰も表立って否定や反論もしなかった。この提案の裏にあるもうひとつの理由、裏にあったにみんな気づいていたからね」

 表だ裏だと言ったり来たり大変だ。

 そんなのごはん屋さんととおそば屋さんでいいじゃない。

「そのホントの理由って?」

「各世界間の交流というお題目。それを隠れ蓑にして、という思惑をみんなが持っていた。いや、共有していたんだ」

 あー、それは。

「なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする」

「そう。だからみんなこの提案を受け容れたくはない。けど、誰かに。そこで白羽の矢が立ってしまったのが」

「うちの世界の彼女ってわけだ」

 そこまで言われればさすがにわかる。

「そういうこと。彼女はの視線と悪意を一身に浴びながらこう言われた。『これは君と君の世界にとっ』とね」

 だからって何なんだ。

 みんながそう言うから、みんながそう思ってるからなのか。

 それとも、みんながそう、みんながそう

 

「だからそんな?」

「その場にいた彼女以外の全員が彼女にそう伝えていた。誰もが彼女にそれを押し付けていた。こういうのをキミの国の言葉では同調圧力と言うのかな。まあ、それはともかく。結果として、彼女はその提案を受け容れた」

あっ、そうなんだ。

たしかにそうじゃないとこうはなっていないよね。

でも、そのとき彼女は。

「彼女は、何も言わなかったの?」

何も言わずに、ただ受けいれたの?

自分以外の全部に、圧し潰されたみたいに。

「何も言わなかった。そして『これで君の世界はより豊かに発展し、君の仕事もよりやりやすく楽になるだろう』というのが彼らの大義名分だった。事実、この世界の文明の水準は、他の世界に比べて確かに低かった。そこにつけこまれた形になってしまったのは否めない」

「そんなちっぽけな理由で?」

「彼らにしてみればそれで十分だったんだ。実際この世界の住人は魔法の存在を知らない。拠り所としている科学技術にしても、未だ知らない、理解できない領域の方が、遥かに多く深く広い」

 だからって、そうだとしても。

たとえ事実がそうだとしたって、そんな本音も下心も全部が透けてみえる薄っぺらい言葉に。

「何も言わずに従うなんて」

「それは違うよ」

「えっ?」

緑の目は穏やかに、でもはっきりとした口調でわたしの言葉を否定した。

「彼女は従ったんじゃない。全てを呑み込み自分の意志で選択して決めたんだ。

 そして緑の目は、はっきりとわたしの目を見てそう告げた。

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